第33話(2-21) エイトマウンテンズ踏破編③
いよいよ雪中登山が始まる。
ソルティドギィで皆に別れを告げ、アンジェラと第一の村落、カラに着くころには辺りはすっかり雪深い景色に変わっていた。
さらにカラの村からオグニ村までの雪道は険しく、雪は腰までつかる程の深さだった。
「もうすぐ峠の頂上だから安心してくれ」
道案内をするアンジェラが俺の気が少しでも紛れるようにと励ましてくれている。
「水筒の水が無くなっても、雪を食べてはいけません。お腹を壊すし、体温が奪われて、凍傷の危険が増えるから」
細かく雪山に関する登山の注意をレクチャーしてくれる。とはいうものの、俺はアンジェラについていくのに必死でそれどころではなかったのだが。吹雪の中、気を抜くとはぐれてしまいそうで、一人取り残される恐怖というのは想像を絶する。
「あのかがり火が見える?」
アンジェラが峠を越えてすぐ声をかけてきた。
あえぎながら見下ろすと降りしきる雪の合間にオグニ村の灯が見えた。あらかじめ魔法通信によって俺たちが来ることを伝えてあったのだ。これはその迎えの火だと分かった。
「さあ、急ごう。私達の到着を待ってくれている」
アンジェラが鼓舞する。
残念ながら俺は慣れない雪山をあるいたせいで太ももやふくらはぎの筋肉はパンパンになっている。それ以外にも膝や踵など関節も限界だと悲鳴をあげていた。
さくさくと軽やかに進むアンジェラと対照的に俺は雪の中をかきわけ泳ぐようにやっとの思いでくだって行く。
「ようこそ領主様」
俺達はウエストと名乗るオグニ村の村長宅に招かれた。
熱いスープと猪肉の料理がふるまわれ、それだけで雪道の疲労が吹き飛ぶほど美味く感じる。
「申し訳ございません、空き部屋が一つしかございません」
食事後、ウエスト村長がすまなさそうに告げてきた。
このままだとアンジェラと相部屋になってしまう。
「分かった、急に宿の面倒を見てもらいすまない」
なんとか別々に出来ないか頼もうと思っていた矢先、アンジェラが快諾してしまう。
「おいおい、不味くないか」
「そんなことは無い、私はキリヤ殿を信頼している」
結局、一晩アンジェラと同じ部屋で過ごした。
翌日、村長に「ゆうべはおたのしみでしたね」とか言われることもなく出発した。
ここで一つ気がついたのだが前日の疲労が嘘のように消え、かつ雪山の寒さや疲労もあまり気にならなくなっていた。どうやら『超順応』とでも呼ぶべきだろうか、
今さらながら、チート能力を与えられていたことを思い出し、苦笑する。だがそんな、アドバンテージも極限の寒さの前では気休めにしかならないことをすぐさま思い知る。
オグニ村からスリーツリーズへはさらなる厳しさが待ち受けていた。
猛烈に吹きつける風により、降雪による吹雪と地吹雪によるダブルでの寒さが襲う。
数メートル先も見えなくなり、自分がどこにいるかも分からなくなりそうだ。ホワイトアウトと言うのだろうか。
それでもなんとかスリーツリーズの村にもたどり着くことが出来た。ここで雪山登山用のテントを受け取ることになっている。