第26話(2-14) スパルタ式防衛戦 その一
敵の包囲線から約二週間。
ソルティドギィの街、宿屋にて。
「なぁ、そろそろ次の街へ向かってもいいんじゃないか」
ベルがあくびを噛み殺しながら聞いてくる。
時刻は夜更け、そろそろ眠くなってきたのだろう。
「残念ながらそう簡単にも参りません。次の街まではかなり距離がございますので」
ヤシマの発言を受けて、俺は聞き返した。
「どれぐらいはなれているんだ」
「倍以上でございます」
マジかよ。
ポートスの街からソルティドギィまで一カ月かかったのに、その倍とは。
徒歩で移動するにはキツイ距離だ。
「レギのごはん途中で無くなっちゃうよ」
「きゅ~」
アンリが不安がり、レギが不満の鳴き声を上げる。
飛竜の子、レギは絶賛成長期だ。
エサの確保だけでも頭が痛くなる。
「明日、領主オーガスタス・ド・ゴールのとこに行ってみるか」
俺の提案にみんな納得したようだ。
明日領主の館を訪ねることになった。
……。
翌日、ソルティドギィ領主オーガスタス・ド・ゴールの館にて。
「すぐに出発というのは難しいですな」
ド・ゴールは難しい顔で答えた。
「やっぱりですか」
予想通りの答えにがっかりする。
「あなたがたにはこの街を救って頂いた恩義があります。出来る限りの便宜を図りたいのですが、今は時期が悪いのです」
「どういうことです?」
俺の疑問にヤシマが横から答える。
「あと一か月もすれば本格的な冬になります。馬での移動も難しくなります。徒歩などもってのほかです。」
それをド・ゴールが受ける。
「加えて、いま都合出来る馬が一頭もいないのです。前回の包囲線で少なくない被害を受けているので、少しでも街の防衛に回したいところなのです」
「ふむ」
「ひと冬この街で過ごす、というのはいかがでしょう。春になれば街の軍備も立て直しのめどが立ちますし、最悪、私が顔の利く行商人に都合をつけますので」
まぁ、常識的な判断である。
帝都を目指すのは少し遅れてしまうが仕方ない。
「それでいいのか?」
俺は一応、旅の仲間に確認した。
「いいよー」
何も考えてないアンリ。
「よし、街の工房を見学するか」
研究熱心な鍛冶屋のベル。
「キリヤ様のお決めになった通りに」
メイドのお手本のようなヤシマ。
三者三様ではあるが、みんな異論はないようだ。
「決まりのようですな。それでは春までここソルティドギィに滞在されるということで。そうなればいつまでも宿屋では不便でしょう。手ごろな空家を手配しましょう」
「いや、流石にそこまでは……」
俺はド・ゴールの申し出を断ろうとした。
「いやいやキリヤ殿はこの街の救世主ですから。遠慮は無用というものです」
……そこまで言われると断りづらい。
「お心遣い痛み入ります」
「それでは二~三日中に宿へ使いの者をやります。それまでお待ちください。あと一つだけよろしいですかな?」
「?」
「先ほどの話題にもありましたが、現在街の守備を再構築中でございます。誠に身勝手ですがキリヤ殿にもぜひご協力頂きたいのですが」
やられた。
最初からこれが目的だったのではなかろうか。
相手の好意を既に受け入れている以上、これは断りにくい。
「…分かりました。何をすればいい?」
「引き受けて頂けますか! ではさっそく、こちらが城壁の修復状況なのですが」
ド・ゴールが机に図面を広げようとした、そのとき。
「緊急報告でございます!!!」
扉がバンッと開け放たれ、ひどく動転した伝令が走り込んできた。
「なんたる無礼な! お客人の前で恥知らずなことをするとは!」
無作法な振舞いにド・ゴールは真っ赤に怒っている。
「申し訳ありません。どんな処罰でもお受けします! 最重要事項です!」
伝令の鬼気せまる表情にド・ゴールが押された。
「なんのようだ」
「峡谷の向こうからオーガの大軍が接近中! その数、二万以上!」
……。
「え?」
「え?」
「へ?」
「……」
「オーガってなに?」
「きゅう?」
ド・ゴールの顔は真っ青に青ざめていた。
スパルタ式防衛戦の続きを必死に書いてます。
次回投稿は23時を目安にしてます。