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異世界転生アンチーレム  作者: MUR
第2部 帝都到達編
21/53

第20話(2-8) 初めての団体戦(後篇)

 今回、冒頭にキリヤ以外の視点が差し込まれます。

「全軍攻撃開始しました」


 参謀が報告をしてくる。


「ふむ」


 鷹揚に頷いて見せる。


「この調子であれば、今日中に南門の突破は可能でしょう」


 参謀の自信に充ち溢れた顔。


「やれやれ、手を抜いて攻めろと言っておいたのだろうに」


 思わずため息が出る。


「いかがいたしましたか?」

 

 不思議な様子で参謀が聞き返してくる。


「あのお方より、ソルティドギィはゆっくり陥落させろ、と命令を受けておるのだ。まぁしかし、暴力と残虐が我らの本懐故、そのような器用な真似はどだい無理ということか」


「申し訳ありません。私からの下知が弱かったばかりに」


「もうよい、気にするでない」


 話を打ち切ることにする。


 その時、テントに一匹のオークが伝令に駆けこんできた。


「この陣に向けて、騎兵の一団が接近中です! まもなくここに到達します!」


 参謀が声を荒げる。


「何! どうしてそんなに接近されるまで気づかなかった!この馬鹿者どもめ!」


 参謀に構わず問いただしてみる。


「数は?」


「50前後とみられます」


「ふむ、我が打って出るか」


 ゆっくりと腰を上げる。


「そんな、御大将自らなど」


 参謀の引き留めをさえぎる。


「ゴブリンどもから報告のあった奴も一緒かも知れぬ。久方ぶりに楽しめそうだ」


 床に転がしていた巨大な黒い棍棒をむんずと掴んで持ち上げる。

 この原始的で無骨な武器こそが我が暴力にふさわしい。

 そのまま、出口へと歩を進めた。




【視点変更終わり】




「オォォォォォ」


 約50頭の騎馬で構成されたヴァージニド騎士団は突撃を敢行した。

 みるみる内にオーク本陣との距離が詰まっていく。

 しかし、オーク側もそれを察知し、俺たちの四倍を超える兵隊が行く手をさえぎるように展開した。


「そこをどけぇぇぇ」


 アンジェラが先陣を切って敵陣に突入する。

 その両側を他の騎兵が固め、あたかも魚のような陣形を保っている。


 対してオーク側は翼を広げた鳥のように隊列を組みんでいる。

 俺たちの騎突を受け止め、包囲・殲滅せんと襲いかかってきた。


 ちなみに俺は馬上での戦闘経験が無いため、開戦以来ずっとアンジェラの後ろから抱きついている。

 この上無くかっこ悪い。


 ちなみにアンジェラは俺よりも背が高くデカイ。

 さらに身長以外もデカイ。鎧越しでも分かる。おそらくエダ以上だ。


「見えました!」


 並走する副官の男性が叫ぶ。


「あれだな!」


 アンジェラがオークを斬り飛ばしながら答える。


 もっとも敵の数が多い層の向こう側にひと際大きな野営のテントが見えてきた。


 俺たちはそこをひたすら目指した。

 幸いなことにオークの軍勢は全て歩兵で構成されており、馬上から俺たちは地の利を生かして攻撃することが出来た。

 テントはもう目前である。

 

 ズゥゥゥン。

 テントの垂れ幕が揺れ中からのそりと巨体が出てくる。

 

「デ、デカイ」


 この前俺が倒した大型ゴブリンよりもさらに大きなオークが現れた。

 三メートル弱はあるだろう。

 手に持つのは樫の棍棒だろうか。何故か表面が黒く炭化している。


「ここからは俺に任せろ」


 俺はアンジェラの馬上からヒラリと降りた。

 馬ではあいつの攻撃をかわせない。


 まわりのオークが俺を目がけて殺到してくる。


「手をだすな!」


 大将の一喝により、周囲のオークが動きを止める。


「改めて名乗ろう、帝都攻略第三連隊指揮官。暴虐のボルボトスだ。その勇猛さに免じて一騎打ちをしてやろう」


「旅人、佐藤キリヤ。私怨はないがお前を倒す!」


 俺は一直線にボルボトスに突っ込んだ。


 ブンッ。

 無造作に巨大な棍棒が振るわれる。

 体を沈め、横なぎの攻撃の軌道を剣で逸らす。

 それでもその圧倒的パワーで吹き飛ばされそうになる。


 マズイ。

 長期戦は不利だ。

 やはり、いつも通り、敵の攻撃をギリギリで避け、渾身の突きを打ち込むしかないか。


 ところが、敵将ボルボトスは参謀にかすかに目配せをした。

 何かを呟き始めるオークの参謀。


「マズイ、属性付与だ!」


 雑兵を押し返しながら、アンジェラがこちらに向かって叫んだ。


 ボルボトスは大きく振りかぶって棍棒を叩きつけようとしてくる。


 俺はギリギリでかわして必殺の一撃を打ち込むつもりだったが、アンジェラの忠告を受けて後方へと必死で下がった。


 振り下ろされる途中で棍棒はいきなり炎に包まれた。

 さらに地面に叩きつけられた棍棒からは熱風が生じ、俺へと襲いかかってくる。

 ガハッ。

 熱風に三メートルは吹き飛ばされ俺は地面を転がる。

 もう少し近くで喰らえば肺を焼かれていたかもしれない。


 マズイ。

 炎が武器に付与されたせいで、もはやかわすという次元ではない。

 

 こうして戦っている間にも包囲網はジワジワと狭められている。


「この程度か、もうよい。我が自ら引導を渡してやろう」


 俺の策が尽きたのを感じ取ったのかボルボトスは息の根を止めるべく近寄ってくる。



 やるしかない。

 俺はこの土壇場で相手の技、属性付与を真似てみることを決意した。

 もっとも、俺に炎を操る心得はない。

 そこで俺は必殺の突きを応用することにした。

 これまで俺は魔力を突きの威力を上げるためにのみに行使してきた。


 ゆっくりと俺は目を閉じた。

 剣が体の一部のように感じられてくる。

 イメージするのはあらゆるものを断つ強力な一閃。

 魔力を込めた指輪が熱を帯び、手に持つ剣、ドラゴンファングが微かに震えだす。


「死ぬがよい」


 ボルボトスの声と共に圧倒的な質量と炎が俺に向かって振り下ろされる。




 ここしかない。

 炎が俺を焼く直前、カッと目を見開いて斬撃を放った。

 

 その瞬間、全ての音がかき消えた。

 


 ズバァァァァァ。

 ゴォォォォォオ。

 

 一拍遅れて棍棒は炎もろとも真っ二つに切断され、ボルボトスの上半身と下半身はなきわかれた。


 さらに斬撃の余波が真空の刃となり周囲を巻き込んでいく。

 数十のオークが首や手足が千切れ飛ぶ。

 敵本陣のテントもことごとくなぎ倒されまるで竜巻が通過したようだ。


 圧倒的暴力が吹き荒れた後、あたりは静寂に包まれた。


 しかし俺にはまだやるべきことがある。

 ボルボトスの上半身に歩み寄り、その首を跳ね飛ばす。

 

 その首を高々と掲げ宣言した。


「大将ボルボトスはここに倒れた!!」




次回「キリヤは美酒に酔い、アンジェラは再び走る」

2016/04/14 16:00現在の進捗度 原稿用紙三枚

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