第19話(2-7) 初めての団体戦(前篇)
姫騎士アンジェラに変態ロリコンペド野郎疑惑をかけられた俺は、なんとかその疑惑を晴らすことに成功した。
その夜、ヴァージニド騎士団の野営地に俺たち四人と一匹は世話になることになった。
「では、この地図を見てもらおう」
騎士団長アンジェラの合図で副官の男性が、テーブルに地図を広げた。
「今、我々はこの位置にいる」
アンジェラは地図の端に駒を置いた。
「そしてここにソルティドギィの街がある」
差し棒で地図中央付近を示す。
「現在、街はアジンの攻撃を受けている。東門、西門、南門に敵軍が展開中である」
アンジェラがさらに解説を続ける。
「どうして北門だけ攻撃されてないんだ」
俺は思いついた疑問をそのまま聞いてみる。
アンジェラの傍らに控える副官の男性が答えた。
「おそらく、意図的なものと思われます。わざと一方向を開けておくことで、不利を悟った守備側が敗走しやすいように状況を作っているのでしょう。あるいは三方向からの攻撃を行うことで、北門の防御を手薄にさせておき、後から別働隊で一気に北門を突破するつもりなのかもしれません。いずれにせよ今までのアジンには見られない戦略性が感じられます」
男性の言葉に頷きながらアンジェラが続ける。
「ソルティドギィの守備兵は合計1,500。対する敵軍は東門をゴブリン2,000、西門をグールが2,000、南門をオークが2,000で攻めている」
アンジェラは大駒を東西南門に相対する形で置いた。
「戦力差が四倍とか無理じゃないの?」
鍛冶屋のベルが投げやりに口を挟んできた。
「乱暴な話ではあるが、攻城戦は守備側の三倍の兵力で同等と言われている。本格的な攻撃が始まる前の今なら十二分に勝機はある」
アンジェラが反論する。
「この騎士団の兵数はいかほどでしょう?」
メイドのヤシマが聞いてくる。
「58名だ」
「少なすぎるじゃないか」
半ばあきれ気味に俺は話した。
「これでも選りすぐりの精鋭を連れてきたのだ。ゴブリンやグールどもには遅れを取らない」
むっとしながらアンジェラが反論する。
「ですが正面から戦っては包囲殲滅されてしまうのも事実です」
副官の男性が残酷な真実を告げる。
「そこで我々は敵の総司令、オークの大将を外科手術的に取り除くことを目標とする」
南門をアンジェラが指し示す。
「門の攻撃時、奴らの本陣は必ず手薄になる。そこを我らの機動力を生かして急襲、敵軍本体が戻る前に総司令を打ち取るのだ」
いやいや、そんなにうまく行くのだろうか。
もし手間取ったらあっという間に全滅の未来しか見えないぞ。
「奴らが明日本格攻勢をかけるのは確実だ。本来、今日我々が通過した峡谷は百近いゴブリンによって封鎖されていたのだ。しかしお前たちの話によれば、十数体しかいなかった。おそらく攻撃のために封鎖の兵を回したのだろう」
「なるほど、他の援軍が間に合わなかったのも、似たような妨害のせいなのか」
俺は納得が出来た。
「キリヤと言ったか、お前は明日、私とオークの大将首を打ち取ってもらう」
アンジェラが有無を許さぬ雰囲気で俺に告げてくる。
「ちょっと、キリヤは関係ないじゃないの」
ベルが異論を唱える。
「……オークはゴブリンやグールと違いしっかりとした武装をしている。そのうえ、剣術といった武技も身につけている厄介な連中なのだ、我々がいくら精鋭でも楽な相手とは言えないのだ。ここに来る途中、お前たちの戦闘の後を確認した。もしキリヤ殿が話通りの実力なら大いに心強い。どうか協力してはくれまいか」
うつむいたアンジェラの声はわずかに震えている。おそらく自分の非力さを痛感しているのだろう、俺にも似た経験はある。
「わかった」
「だめだよ」
「キリヤ!」
「キリヤ様」
アンリ、ベル、ヤシマに口々に止められる。
「なあに、体の調子も戻ったし、俺の能力なら生きて帰れる可能性も高い」
軽い調子で応える。
「それにソルティドギィの街が陥落すれば、俺たちが奴らに追われることになる。そっちの方が考え方によれば、危険だ」
アンリの頭をなでながら俺は続けた。
「ありがたい。敵将を打ち取ったあかつきには私にできることはなんでもさせてもらおう」
感極まったようにアンジェラが述べる。
「アンジェラ様」
副官の男性が聞きとがめる。
「いいのだ、私にはソルティドギィの街を救えと父上から命令されておる。その確率がすこしでも上がるならなんだってする」
もはや、誰も反論しなかった。
「決まりだな」
俺は話を切り上げた。
会議はそれでお開きとなった。
翌日。
「敵軍攻撃開始しました」
副官の男性がアンジェラに報告する。
俺たちは街が見下ろせる小高い丘の陰に陣取っていた。
ある程度距離が有るため、敵軍に俺たちの存在は気付かれていない。
敵本陣まで五キロといった所か。アンリ達は昨日の本陣で留守番だ。
「よし、頃合いだな」
敵軍が城壁に取りつき始めたことを望遠鏡で確認したアンジェラは頷いた。
俺はその後ろに抱きつく形で馬に乗っている。
ちなみにアンジェラの愛馬は規格外の大きさで体高(肩までの高さ)が二メートル近い。二人のりでもびくともしない頑強さだ。
「全軍突撃ぃぃぃぃ!」
アンジェラの号令とともに俺たちの戦いが始まった。




