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異世界転生アンチーレム  作者: MUR
第2部 帝都到達編
18/53

第17話(2-5) ゴブリンを殺す者

 

 ポートスの街を出発して早や一カ月。


 詳細不明のチート所持者、無理やり転生された俺、佐藤キリヤ。

 最近俺に必要以上にべったり、懐きすぎな少女アンリ。

 家の掃除から敵の料理まで、なんでもござれの戦うメイドヤシマ。

 振り回すハンマーの破壊力は驚異的、ただし当たった場合に限る、破壊する女鍛冶屋ベル。

 まだまだ生まれたて、飛竜の子供レギ。


 紆余曲折あり、女盗賊エダと商人の爺さんと別れた俺とアンリは新たにこの四人プラス一匹で帝都を目指している。


 いま俺たちは短い峡谷を抜けようとしていた。

 行く手の両側の崖は次第に低くなり、少し急な岩場、と言った方がふさわしくなってきた。


「もう少しでこの峡谷を抜けるでしょう」


 先頭を行くヤシマが俺たちを振り返り告げる。


「もうつかれちゃったよー」

「キュー」


 弱音を吐くアンリ。

 それに同意するようにレギが鳴き声をあげる。

 もっともレギはアンリの背負っているリュックに入っているのだが。


「あと一息だから頑張りなさい」


 そんなアンリとレギを励ますベル。


「落石の危険があるから、どうしても今日中にここを抜けるぞ」


 俺はこの場所で野営出来ない理由を説明しつつ、アンリに発破をかけた。


「わかった……」


 渋々といった様子でペースを上げるアンリ。

 俺たちの後方に追いついた。



 その時。



「キュー、キュキュキュー」


 アンリの背中のリュックでレギが突然騒ぎ出した。

 何かを警戒しているようだ。


 俺は全神経をとがらせた。


 視界の端にキラリと光るものが映る。


「下がれ!」


 俺は鋭く叫び、荷物を放り投げ、前方へと飛び出した。

 風切り音を伴い何かが飛んでくる。

 俺は腰のホルスターからナイフを引き抜き、急速に飛来する何かを迎撃した。


 一つ、二つ、三つ。


 撃ち落としたのは全部で三つの矢であった。


「ゴブリンの襲撃です!」


 ヤシマの緊張した声。


 見ると、俺たちの両側の崖、上方に十数体のゴブリンがわき出ていた。

 ボウガンを持つ者、ナイフを構える者、斧を携える者など様々だ。


「後ろの岩陰まで下がるんだ!」


 俺は素早く指示を出す。


「キリヤはどうするのさ!」

 

 後退しながらベルが叫び返す。


 一斉射!


 俺は何故か敵の司令官と思しきゴブリンの言葉を理解した。


 6体のゴブリンがボウガンでこちらを狙っている。

 その刹那、俺の集中が極限まで高まる。

 

 引き延ばされる時間。


 6本の矢がほぼ同時に発射される。


 だが、俺にははっきりと知覚できた。

 わずかに先行する二本が俺への直撃コース。

 残り四本のうち、一本は外れ、三本は後ろに下がるアンリ達を射線上に捉えている。


「フンッ」


 まずナイフの一閃で直撃コースの二本をへし折る。その勢いのまま俺は体を回転させた。

 俺の脇をすり抜けようとした三本を払う。

 軌道が変わった三本はそれぞれあさっての方向へ飛んでゆく。

 最後の一本は俺の首筋をかすめて地面へと突き刺さった。


「ハッ」


 ボウガンの再装てんの隙をついて俺は岩場を駆けあがった。


 狙いは遠距離攻撃持ちだ。


 するとナイフで武装した二体が行く手をさえぎった。


 やるな。

 ゴブリンといえども見事に連携が取れている。



 だが遅い。

 俺は一度右、左のフェイントステップを挟み、ゴブリン二体の間をすり抜けた。

 すれ違いざま首を切り裂かれた二体は血を噴き出しながらその場に崩れる。


「!」


 再装てんを終えた二体が俺の眉間にピタリと狙いを定めていた。

 至近距離からのヘッドショットが放たれる。


 瞬間、俺は頭を下げた。

 すぐ頭上を矢がかすめ、髪の毛を何本か持っていった。


 頭を下げた低い姿勢で懐に潜り込む。

 そのわき腹にナイフを突き立て間髪いれず、崖下にけり落とす。


 振り返りざま、もう一体にローキックを叩きこむ。

 痛みからわずかばかり前傾姿勢になるゴブリン。

 俺は一瞬晒された首筋をスラッシュした。


 これで四体。


 こちら側の崖にはあと三体のゴブリンが残っている。

 斧持ちが一体。

 大剣持ちのひと際大きなゴブリンが一体。

 そして司令官とおぼしきゴブリンが一体だ。


 ナイフでは分が悪い。


 しまう暇の無いナイフをその場に落とし、腰の背中側に装備していた剣を引き抜く。


 ベルが鍛えし、名剣、ドラゴンファング。

 そのまんまである。


 俺は引き抜くや否や、斧ゴブリンに躍りかかった。

 斧で受けるゴブリン。


 次の瞬間、ゴブリンは斧ごと両断されていた。


「ガァァァァ」


 大剣持ちが咆哮をあげて襲いかかってくる。

 この足場、この間合いならいける。

 再び俺の時間感覚が無限大まで引き延ばされる。


 振り下ろしの強烈な一撃。

 紙一重でかわし、俺はゴブリンへと肉薄する。

 薬指にはめた指輪が赤く輝きだす。

 それに呼応するようにドラゴンファングが青白く発光する。


 踏み込みの勢いをのせ、大型ゴブリンの腹に深々と突きさした。


 ゴッという音とまばゆい光があたりを包み込む。


 光がおさまると、そこにゴブリンの姿は無く、ただバラバラの肉片と骨片がわずかに残るのみだった。


「!!!!!!」


 残る司令官ゴブリンが撤退を告げたようだ。いつの間にか対岸でヤシマとベルがゴブリンと乱戦を行っていた。そいつらも潮が引くように引き上げていく。


 それを見届けた俺は剣を放り出し、その場に大の字となった。

 

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