29 最終回
ルグバレア王都。
一年後。
王城近郊。
異界文学管理官邸。
「のだぁ〜♡」
昼下がり。
レイは揺り椅子に座っていた。
その腕の中。
小さな赤ん坊。
「うむっ♡」
レイはニコニコしていた。
父親になっていた。
鈴木レイ。
三十五歳。
元引きこもりニート。
現在。
* 王国最高峰文化人
* 王家直属異界文学管理官
* 超人気作家
* ミリヤの夫
* 一児の父
意味がわからない人生である。
「のだぁ〜♡」
赤ん坊は小さい。
ふにゃふにゃ。
レイそっくりの綺麗な顔。
でも目元はミリヤ。
「うむっ♡」
レイは完全に親バカだった。
「可愛いのだぁ♡」
最近。
王都で有名なもの。
一つ追加。
【レイ、子供にはめちゃくちゃ甘い】
である。
特に我が子。
終わっていた。
「のだっ♡」
レイは赤ん坊のほっぺをぷにぷにした。
「むにむになのだぁ♡」
ミリヤが苦笑する。
「起きちゃいますよ?」
「大丈夫なのだぁ♡」
なお。
夜泣きで死にかけている。
レイは最近ずっと寝不足だった。
「のだぁ……」
でも。
不思議と嫌ではない。
昔。
姪っ子を抱っこした時より、
もっと変な感じ。
「……」
この小さいの。
自分の子供。
意味がわからない。
そして。
最近のレイ。
ついに。
完全オリジナル創作へ手を出していた。
「うむっ♡」
理由。
子供向け。
さすがに。
妖怪ホラーは早い。
三國志も早い。
なので。
「のだっ♡」
レイは赤ん坊へ向けて語り始めた。
「今日はスーパーパンツマンのお話なのだぁ♡」
ミリヤが吹き出しかける。
「また変なの作りましたね……」
「うむっ♡」
レイは真顔だった。
「子供にはパンツヒーローが必要なのだぁ♡」
「本当に?」
「多分なのだぁ♡」
雑だった。
しかし。
レイはノリノリである。
「のだっ♡」
レイは立ち上がる。
赤ん坊抱っこしたまま。
「スーパーパンツマンはぁ!」
バン!!
「世界一カッコいいパンツを履いた勇者なのだぁ!!」
「……」
赤ん坊。
無反応。
当然である。
「しかしぃ!」
レイは続ける。
「悪の全裸魔王が現れたのだぁ!!」
ミリヤが笑いを堪えている。
「最低ですね」
「そして世界中のパンツを奪うのだぁ!」
「世界観どうなってるんですか」
「だからスーパーパンツマンが戦うのだっ♡」
レイは完全にテンション高かった。
最近。
父親になってから。
妙に子供向け発想が増えていた。
「のだぁぁ!!」
レイは赤ん坊へ顔を近づける。
「パンツビィィィムなのだぁ!!」
「……」
赤ん坊。
「すぴー……」
「のだ?」
寝た。
一瞬だった。
レイは固まる。
「……」
「……」
「……のだぁ?」
ミリヤが吹き出した。
「あははっ!」
「即寝たのだぁ!?」
「子守唄みたいだったんじゃないですか?」
「そんなぁ!?」
レイはショックだった。
「吾輩の超大作なのだぁ!?」
なお。
内容。
パンツしかない。
赤ん坊はぐっすりだった。
「のだぁ……」
レイはしょんぼりした。
「つまらなかったのだぁ?」
「安心したんですよ」
「のだ?」
ミリヤは微笑む。
「レイ様の声、落ち着くんです」
「……」
レイは少し止まった。
「だから寝ちゃったんですよ」
「……のだぁ」
レイは赤ん坊を見る。
小さい。
安心しきった顔。
「……」
レイはそっと頭を撫でた。
「のだぁ」
なんか変な感じ。
昔の自分なら。
こんな未来、
絶対想像してない。
異世界。
結婚。
子供。
意味不明。
「……」
でも。
悪くない。
むしろ。
かなり幸せ。
「のだっ♡」
レイはまた調子に乗った。
「うむ!将来は親子でパンツマン劇場なのだぁ♡」
「やめてください」
「のだぁ!?」
ミリヤは笑った。
赤ん坊も寝ている。
外では王都の子供たちが、
「パンツマァァン!!」
とか叫びながら遊んでいた。
なお。
レイはまだ知らない。
適当に作ったスーパーパンツマンが、
数年後。
王国史上最悪レベルの児童向け大流行コンテンツになることを。




