28 レイたちの結婚式
春。
ルグバレア王都。
大神殿。
「……」
神官たちは静かだった。
修道女たちも静か。
理由。
現実感がなかったからである。
「……本当に結婚するんですね」
若い神官がぽつりと呟く。
「ええ……」
「まさかあのレイ殿が……」
「しかも普通に相思相愛っぽいのがまた……」
全員ちょっと困惑していた。
なぜなら。
数ヶ月前まで。
レイは。
『働きたくないのだぁ♡』
『高級ニートになるのだぁ♡』
とか言っていた男だからである。
なのに。
今。
「のだぁ〜♡」
めちゃくちゃご機嫌で正装していた。
◾️ 控室
「のだっ♡」
レイは鏡を見ていた。
王城仕立ての礼服。
かなり高級。
しかも。
顔が良い。
「のだぁ……」
侍従たちが困惑するレベルで似合っていた。
「本当に王子みたいですね……」
「うむっ♡」
レイはドヤ顔した。
「吾輩、顔だけは昔からSSRなのだぁ♡」
「自分で言います?」
「事実なのだっ♡」
だが。
珍しく少し落ち着かない。
「のだぁ……」
そわそわ。
「緊張してます?」
「してないのだぁ♡」
即答。
しかし。
足がずっと揺れている。
「……」
レイはぼんやり窓を見る。
日本。
実家。
母親。
妹。
姪っ子。
ふと思う。
(結婚式とか聞いたらびっくりするのだぁ)
たぶん。
妹は、
『は!?あの兄貴が!?』
って顔する。
姪っ子は喜びそう。
「……のだぁ」
一瞬だけ寂しそうになる。
だが。
コンコン。
「レイ様」
「のだ?」
「そろそろです」
「……」
レイは立ち上がった。
そして。
「のだっ♡」
いつもの顔に戻る。
◾️ 大神殿・結婚式
鐘が鳴る。
花。
光。
参列者。
貴族。
神官。
王族。
そして。
大量の兵士。
「レイ様ぁぁ!!」
「お幸せに!!」
「妖怪本続編待ってます!!」
「空気読めなのだぁ!?」
レイはツッコんだ。
完全に人気者。
しかも。
国王と王妃と王女まで来ている。
異例だった。
「レイぃぃ!!」
エルティア王女が泣いていた。
「結婚してもお話してくださいましぃ!!」
「するのだぁ♡」
「本当ですわね!?」
「うむっ♡」
王妃が苦笑する。
「まるで家族ですわね」
「……」
国王は静かに頷いた。
実際。
少し近い。
◾️ ミリヤ
そして。
扉が開く。
「……」
ミリヤ。
純白の花嫁衣装。
静かに歩いてくる。
「……」
レイは止まった。
いつも修道服だった。
だから。
妙に新鮮だった。
「……のだぁ」
綺麗。
本当に。
ミリヤは少し緊張していた。
でも。
レイを見ると。
少し笑った。
「……」
レイの胸が変な感じになる。
王女相手みたいにふざけられない。
なんか。
ちゃんと綺麗。
「……」
ミリヤは思っていた。
この人と結婚するなんて、
数ヶ月前まで想像もしてなかった。
変な人。
怠け者。
顔が良くて、
子供っぽくて、
でも時々妙に優しい。
「……」
レイは急に小声になった。
「のだぁ」
「はい?」
「綺麗なのだぁ」
「……っ」
ミリヤの顔が真っ赤になる。
「い、今言います!?」
「思ったから言ったのだぁ♡」
神官たちが咳払いした。
「静粛に」
「のだぁ」
そして。
誓い。
『健やかなる時も』
『病める時も』
レイはぼんやり聞いていた。
なんだか不思議だった。
元引きこもり。
未来とか、
結婚とか、
あんまり考えたことなかった。
「……」
でも。
ミリヤといると落ち着く。
神殿も好き。
だから。
まあ。
「……うむっ♡」
悪くない。
「鈴木レイ」
「のだっ」
「ミリヤを生涯愛すると誓いますか」
「うむっ♡」
即答。
「いっぱい甘やかすのだぁ♡」
「方向性」
周囲が吹き出す。
ミリヤも笑った。
「ミリヤ」
「はい」
「レイを生涯支えると誓いますか」
ミリヤは少しレイを見る。
レイ。
ニコニコしてる。
でも。
少しだけ不安そう。
「……」
ミリヤは優しく笑った。
「はい」
「……」
レイはそこでやっと安心した顔になった。
◾️ 祝宴
「レイ様ぁぁ!!」
「飲めなのだぁ♡」
大騒ぎ。
兵士。
修道女。
王族。
全員楽しそう。
「のだっ♡」
レイはかなり酔っていた。
「うむ!吾輩、ついに既婚者なのだぁ♡」
「実感あります?」
「まだないのだぁ♡」
最低だった。
だが。
ミリヤは笑っていた。
その時。
子供たちが駆け寄る。
「レイ様!」
「のだ?」
「結婚おめでとう!」
「おめでとうなのだぁ♡」
「お前が言うな」
レイは笑った。
そして。
ふと空を見る。
異世界。
知らない世界。
怖かった。
でも。
気づけば。
家みたいな場所ができていた。
「……のだぁ」
レイは小さく笑った。
元の世界の家族には、
まだ届かない。
でも。
いつか。
伝えられたらいいなと思った。
『吾輩、なんか結婚したのだぁ♡』
と。




