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6. そうして、知らない未来へ

 私達は15才になり、貴族学院に入学する事になった。


 入学1年前にはリチャードも私も王都のタウンハウスに移り、同年代の子供達と交流を深めた。


 侯爵夫人に親同士の距離感を教えられ、子供同士も基本的にその距離感になっている事を知った。親同士の距離が遠いのにその子供と仲良くなっても、いつ足をすくわれるか分からない。そういう情報をリチャードと共に教えられた私は幸運だった。


 あの悪夢の彼女には社交情報があまりなさそうだった。もちろん、最後は子供同士の皮膚感が大事だけれど。


 魔法学院の馬車乗降場から校舎へと歩く道で、リチャードが口を開いた。

「セシリアは時々強情だからな。質の悪い男に喧嘩を売るなよ?」

「あなたと違って私は大人だから、喧嘩なんて売らないわ」

「同い年だろ」

「2週間年上じゃない」

「誤差範囲だろ」


 あの悪夢の彼女は無難に生きていて、流されて絶望に辿り着いた。一方、その知人だった男爵令嬢の様にはっきり話し、場合により喧嘩を売る生き方は私には向かない。譲れない点ははっきり示し、妥協できる点は妥協する。その匙加減を間違えない様にしたいと思っている。


 そうして、侯爵夫人にリチャードと共に連れられて覚えた人間関係と共に、少女同士の付き合いも進んだ。


 今、前を歩く少女が豪華な金髪を靡かせて振り向いた。

「セシリア!」

「パトリシア!」

 

 パトリシア・リンスターは公爵令嬢だ。彼女の10才の誕生パーティで初めて会った。チェスター侯爵夫人に付いて行った私は、美しいリンスター公爵夫人と可憐な令嬢を見て思わず口にした

「公爵家では年代別の美容体系を確立しているのでしょうか?なら是非教えて頂きたいです」

その言葉を聞いた公爵夫人と侯爵夫人は目を見開いて言った。

「年代別に体系…それは良い考えね」

「なるほど、計画的な美容処置で効果は上がりそうね」


 その後、公爵夫人と侯爵夫人、化粧品の商会が集まって美容体系をまとめて行き、それをパトリシアと私は目を輝かせながら見聞きしていた。パトリシアは美容の奥深さにときめいているだけだろうが、私の場合は切羽詰まっている。

(ああ、これで30代で若い女に男を取られるみじめな体験をしないで済む…)


 あの悪夢の彼女は共和国に行ってから美容にかけるお金がなかった。私もいつそうなるか分からないが、各年代の美容理論が分かっていれば、お金がないなりに代用が可能な筈だ。もっとも、最後にものを言うのは本人の魅力なのだが。


「これからは毎日会えるね!」

「ええ、ずっと楽しみにしてたのよ」

これにはリチャードが水をかけた。

「今までだって二日に一回は会ってたんだろ?」

「毎日通う学院に、親友がいるというのが大切なのよ!」

「そうそう」


 パトリシアは同年代で一・二を争う美少女であり、公爵令嬢にふさわしい知識・行儀作法を身に付けた少女だ。その彼女が私を一番の友人と思ってくれる。それは嬉しい事だった。もちろん、公爵令嬢には伯爵令嬢の踏み入れられない領域がある。でも、それ以外で一番親しく出来れば良いのだ。


 そんな、踏み入れられない領域、それが今、近くの場所で困った顔をしている。


 私達の歩む先には、この国の第一王子であるアルバート殿下と護衛が立っており、その前で転んだと思われる女生徒が横たわっていた。


 小走りで駆け寄ったリチャードが話しかけた。

「殿下、何かお困りでしょうか?」

「ああ、良いところに来てくれた。セシリア嬢、その女生徒が転んでしまったのだが、私は立場上助け起こせないのでね、君が起こしてあげてくれないか?君なら鍛えているから大丈夫だろう?」


 私は軽く会釈して答えた。

「御意に、殿下」


 私は女生徒に近づき、片膝立ちで彼女に手を差し伸べた。

「大丈夫ですか?」

女生徒は一瞬、残念そうな顔をした。

「殿下のご命令で、今だけ私があなたの護衛騎士となりましょう。さあ、お手をどうぞ」

一瞬後、彼女は頬を染めて起き上がり、私の手を取った。

「ありがとうございます。あの、失礼いたしました」

女生徒は周囲にぺこぺこ頭を下げまくった後、走り去っていった。


 その場に立ち止まっていた一同の中、アルバート殿下が口を開いた。

「それで、君達の意見を聞きたいな」

私は小首を傾げて言った。

「警戒された方がよろしいかと存じます」

「クロだね」

「アウトですわ」

リチャードもパトリシアも同じ意見だった。


「君達と同意見で嬉しいよ。出来れば配慮をお願いするよ」

「御意に」

「もちろんですとも」

「お任せください」


 アルバート殿下とはこの3人で私的なお茶会で会う事がある。


 殿下の婚約者候補であるパトリシアだが、その婚約者候補の序列を明らかにしない為、そういう偽装がされているのだ。


 殿下はいつも柔和な微笑みを湛えているが、その皮膚の下にとても冷たいものを感じる事がある。そこに触れてはいけない、そういう領域が上位の者になるほど増えていくのだ。


 もっとも、そこさえ上手くやれば、巨大すぎるコネではある。とはいえ、厄介事を押し付けられる事もある。今がそれだ。


 あの女学生がどんな噂を流すか、正体は何者かを見聞きしておけ、それが今の指示だった。


 こうして私の貴族学院生活が始まる。


 今度は逃げる事はないだろう。なにせリチャードの面倒を見ないといけない。まだまだ頼りないこの少年が卒業時にまだ頼りないのなら、なんなら侍女になって支えてやっても良いと思っている。


 結婚が幸せを意味しない事はあの悪夢が示している。だから、変な結婚ならしたくない。むしろかわいらしい姿をずっと見せてもらったこのぼうやを、侍女としてずっと支えてあげるのも悪くはない。

 短編にお付き合いいただき、ありがとうございます。


 拙作「旦那様があまりに頼りないから、暗殺に来た私が助ける羽目になってるじゃないですか!(タイトルではなくあらすじ)」と少し掠る部分があり、急遽仕上げました。結婚すれば良いってもんじゃなくってさ。


 こういう味付けになったのは、やはりあちらの「姉さん」を酷い女と思っているのかもしれません。だから彼女に欠けているものを書いて、私の脳内のバランスを取っているのかもしれません。


 あちらもまもなく完了します。そうしたら一ヶ月おやすみした後、連休後あたりに長編を書く予定です。よろしければ、夜22時30分あたりに作者名を見かけたら、一度お読み頂ければ幸いです。


 予約投稿時に「完結する」を入れなかったお陰で最終話がグダグダ処理になっております。あれ、と思った方、誠に申し訳ありませんでした。

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