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11 最高難易度

 凜星には夢の技があった。いつか挑戦したい技。もちろん、11歳の身には――まして、病床に伏せる前の年では、ムーンサルトすらままならず、それは夢のまた夢だった。生まれ変わってリーゼとなり、ムーンサルトが楽々とこなせるようになった今、挑戦するのは最高難易度Hの技。


「お願いします!」


 小さな体が駆け出した。


(速い!)


 ランドリックが目を見張った。今まで見たどの騎士より、盗賊より、いや魔物よりも速い。まるですべてを巻き込む疾風だ!


 わずか数歩で最高速度に達したリーゼは、ロンダートを繰り出す。剣を持っているので、床に手を付かない。勢いだけで体を側転させる。続けて、テンポ宙返りを3連続。テンポ宙返りは床に手を付けない後方転回(バク転)だ。回る度に速度が上がっていく。


「目くらましか! なめるなよ!」


 ランドリックが木剣を水平になぎ払ったとき、リーゼの体は遙かな宙を舞っていた。


 後方抱え込み2回宙返り2回ひねり――シリバスだ。


 見上げるランドリックを越えて、剣を胸に抱えたリーゼの体が、2回ひねりながら2回宙返りする。


 理解を超えた動きに、ランドリックの動きが止まった。


 ランドリックの背後に着地したリーゼは、満足そうに両手を広げた。


(出来た! 最高難易度!)


 【マイルーム】の体育館で練習して、すでに習得してあったので驚きはないが、本番での成功はうれしい。【マイルーム】で見て、拍手してくれるのは、ピンクのクマだけだ。


 はっと、我に返ったランドリックの鼻先に、リーゼの剣先が突きつけられた。


「うっ……」

「これでいい?」

「……見事だ。剣技……とは言えんが、実戦なら私は殺られていた。思わず見入ってしまったよ」

「じゃあ、合格?」


 ランドリックは木剣を下げ、右手を差し出した。


「もちろんだ。お前に剣技を教えるのが楽しみだよ」

「よろしくね、ランドリック先生」


 リーゼも右手を差し出し、2人は固く握手をした。


 その光景に拍手をしたのは、2階席から見ていたアメリアと、体育館の隅から見ていたエリオだけだった。


 アメリアは、ほっと胸をなで下ろした。リーゼが試験で落ちるわけがないと思いながらも、ネイザー公国で名の知れた剣士である、ランドリック相手ではどうなるか不安だった。けど、まさか勝つとは……。


(リーゼはすごいなぁ……。ああいう子が聖騎士になるんだろうなぁ)


 体育館がざわめく中、アメリアとリーゼに陰口をしていた女の子たちの真ん中に、アメリアと同じく金髪の女の子がいた。ストレートロングをサイドポニーにまとめていて、年はアメリアより少し上。


「フン、あれでは剣技ではなく曲芸ね」


 鋭い眼光をリーゼに投げかけると、取り巻きの女の子たちが、我先に同意した。


「まったくですわ。サーカスにでも行けばいいですのに」

「高貴な我が学園に相応しいとは思えませんわ」

「シャル様なら惑わされることなく、一刀のもとに斬り捨てられたでしょうに」


 シャル様と呼ばれた少女が立ち上がると、取り巻きたちは、さっと道を空けた。


「行くわよ」

「はい!」


 取り巻きたちを従え、シャル様と呼ばれた金髪の少女は体育館を出て行った。


(あのガキの速さ、身のこなし……まずい。聖騎士になるのは私でなければならない。芽は摘まなければ……)


 後ろを行く少女たちには、先を行く少女の歪んだ顔はわからなかった。


【次回予告】

いよいよ、聖騎士学園に入学するリーゼ。そこで、エリオは意外な人物と出くわします。


【大切なお願い】

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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