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03 鍛冶仕事

更新履歴

2026年 3月9日 第3稿として大幅リライト

2022年 1月8日 第2稿として加筆修正

 リームは躊躇なく、鍛冶屋ギルドで一番大きなハンマーを手にしました。その柄はリームの身長よりも長く、先端に付けられた金属のヘッドはリームの顔より大きいです。


「ヘッ、そんな細腕で振れるものか」


 オイゲンが鼻で笑いながら、真っ赤に熱せられたミスリルの塊を炉から取り出しました。

 鍛冶屋ギルドの長であるオイゲンは、当然ながら自由市で売られている包丁の評判を耳にしています。どんな者が打っているのか気になって、自由市へ出かけたこともありました。けれど、人だかりに埋もれているリームを見て、あんな小娘では取るに足らぬと高をくくっていたのでした。


 ――ですが、そんな思い込みは、ハンマーが振り下ろされた瞬間に砕け散りました。

 まるで閃光です。


 小さな体に不釣り合いなハンマーが、鈍い光の弧を描いて、熱せられたミスリル鉱に叩き込まれたのです。

 冷ややかな目で見ていた職人たちも、言葉を失いました。こんなにも鮮烈で、苛烈な打ち込みを見たことがありません。


 ピキィーーン!

 ピキィーーン!

 ピキィーーン!


 立て続けに振り下ろされたハンマーによって、ミスリルが事もなげに形を変えていきます。


「馬鹿な……軟鉄ではないのじゃぞ……」


 オイゲンは目の前で繰り広げられている光景が信じられません。この打撃であれば、見知らぬ域までミスリルを折り重ねることが出来ます。

 ゴランが息を飲みました。


「これほどとはな……」


 そう――。右目を失う以前、極めたと思っていた鍛冶の技には、まだ先があったのです。

 リームがハンマーを止めました。すかさずオイゲンが、温度の下がったミスリルの塊を炉に戻します。


「使ってくれ」


 汗だくのリームに、ひとりの鍛冶職人が布を差し出しました。


「ありがと、おじさん」


 汗を拭う布の間から垣間見えるリームの顔は、幼い少女そのものです。――わかりません。どうやったら、こんな歳であんな技を身につけられるのでしょう? 職人たちは小柄な娘に畏怖すら感じていました。


「もっと……もっと……見せてくれ。誰に教えられるより……糧になる」

「到達出来ぬ……山の頂を見るようだ」


 リームをいぶかしむ者は、もういません。そこにいるのは、神の如き業を目に焼き付けようとする探求者だけです。

 リームにとって鍛冶は、体操や新体操のように身をもって練習した技ではありません。なので、鍛冶に人生を懸けてきた人たちに褒められるのは心苦しいかぎりです。けれど、レベル120の技が参考になるならと、うなずきました。


「どうせ仕上がるのは夜中だし、じっくり見ててよ」


 おお! と、職人たちが喜びの声を上げました。


「さぁ来い、リーム嬢ちゃん!」


 オイゲンが炉から、真っ赤に燃えたぎるミスリル鉱を取り出しました。


「いくよ! オイゲン……お爺ちゃん!」


 パキィーーン!


 仕事場に、ひときわ甲高い打撃音が鳴り響きました。



  ◆  ◆  ◆



 あっという間に日が沈みました。リームはグッタリと椅子の背に身を預けています。何時間もハンマーを振るったので、さすがにクタクタなのです。

 オイゲンが、パンを1つ差し出しました。


「ほれ、食え。腹が減っては力が出んぞ」

「ありがと」


 パンはバゲットに似ていて、周りは固いけど中は柔らかそうです。チーズと野菜が挟んでありました。

 リームは、大きな口を開けてかぶりつきました。――なんだか、懐かしい味がします。


「気に入ったか?」

「うん。これ、ミツナとセリーナだよね? 私の好きな野菜だよ」

「衛兵のグステオが持ってきたんじゃ。オーデンの野菜を食わせてやりたいとな」

「グステオおじさんが? そっか……」


 もう一口、かぶりつきました。エミリー、ダニー、ニコラ、シスターグレース……みんなが力をくれてる気がします。


「おいしい」


 リームから、少女らしい笑みがこぼれました。神懸かった技を繰り出しても、中身はただの女の子なのです。

 それなら恐れることはありません。近寄りがたいと遠巻きに見ていた鍛冶職人たちが、わっと取り囲みました。


「どうやってそんなにスキルを上げたんだ?」

「誰に教えを受けた?」

「ハンマーを振るうとき、大事なのは右腕か? 左腕か?」


 こぞって質問を浴びせられます。けど、ゲームでレベルを上げただけのリームには、技術的なことなどわかりません。どうしよう――。小首を傾げるリームでしたが、すぐにひらめきました。1つだけ答えられることがあります。


「あのね、鍛冶スキルだけを上げようとしてもダメだよ。狩りに出て、鍛冶屋のレベルを上げなきゃ。スキルレベルって、その職のレベルに応じて上限が解放されるから」


 オイゲンが絶句しました。


「なっ……なんじゃと? つまり、戦わねば腕が上がらぬということか?」

「そう。鍛冶だけやっててもダメ」

「おぉ……謎が……長年の謎が解けた……。国を守った英雄である、ゴラン様の鍛冶スキルが飛び抜けておるわけじゃ……」

「鍛冶屋も戦斧とか、トゲトゲの棍棒とか持てるからね。みんなで狩りに出るといいよ」

「では、嬢ちゃんはワシらより強いということか?」

「ん~……多分ね」


 レベル120とは言えないリームは、ばつが悪そうにパンをかじりました。

 微笑む口いっぱいに、懐かしい野菜の香りが広がったのでした。

【大切なお願い】

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 応援して下さる方、ぜひとも

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