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03 鍛冶仕事

※この先のエピソードは、近日大幅リライト予定です。

更新履歴

2022年 1月8日 第2稿として加筆修正

 リームは躊躇なく、鍛冶屋ギルドで一番大きなハンマーを手にした。その長さはリームの身長より長く、ヘッドはリームの顔より大きい。


 そんなハンマー、振れるものか。オイゲンは鼻で笑った。


 鍛冶屋ギルドのギルド長であるオイゲンは、当然ながら、自由市で売られている包丁の評判を知っていた。どんな者が打っているのか気になり自由市に出かけたこともあるが、人だかりの中にいるリームを見て、あんな小娘の打つ包丁は取るに足らぬと高をくくり、相手にしなかった。


 だが――そんな思い込みは、リームがハンマーを振り下ろした瞬間、粉々に砕け散った。


 まるで閃光だ。


 鈍い光の弧を描き、小さな体と不釣り合いなハンマーが、ミスリル鉱に吸い込まれていく。


 冷ややかな目で見ていた職人たちも、言葉を失った。こんなにも鮮烈で、苛烈な打ち込みを見たことがない。


 ピキィーーン!

 ピキィーーン!

 ピキィーーン!


 立て続けに振り下ろされたハンマーによって、事もなげにミスリルが形を変えていく。

 馬鹿な……軟鉄ではないのじゃぞ。これなら、いくらでも折り重ねることが出来る。ワシの知らぬ域まで鍛え上げようというのか?


 オイゲンの100年の経験を越える現象が、目の前で起こっていた。


 これほどとはな……。ゴランが息を呑んだ。


 右目を失う前の自分を遙かに超えている。極めたと思った鍛冶の技には、まだ先があったのだ。


 リームがハンマーを止めた。すかさずオイゲンが、温度が下がったミスリルの塊を炉に戻す。


「使ってくれ」


 汗だくのリームに、ひとりの職人が布を差し出した。


「ありがと、おじさん」


 汗を拭く布の間から垣間見えるリームの顔は、まだあどけない。どうやったら、こんな年であんな技を身につけられるんだ? 小柄な娘に畏怖すら感じてしまう。


 職人たちが、おずおずと近寄ってきた。


「もっと……もっと……見せてくれ。誰に教えられるより……糧になる」

「到達出来ぬ……山の頂を見るようだ」


 リームをいぶかしむ者は、もういない。そこにいるのは、神のごとき技を目に焼き付けようと意気込む職人たちだけだ。


 リームにとって鍛冶は、体操や新体操のように練習して身につけた技ではない。なので、鍛冶に人生を懸けてきた人たちに褒められても心苦しい。――けど、レベル120の技が参考になるなら……。


「どうせ仕上がるのは夜中だし、じっくり見ててよ」


 おお! と、職人たちが歓喜の声を上げた。


「さぁ来い、リーム嬢ちゃん!」


 オイゲンが炉から、真っ赤に燃えたぎるミスリル鉱を取り出した。


「いくよ! オイゲン……お爺ちゃん!」


 パキィーーン!


 一層、甲高い打撃音が鳴り響いた。



  ◆  ◆  ◆



 夜も更けたころ、リームはテーブル代わりの作業台に突っ伏した。何時間もハンマーを振るったので、さすがにクタクタだ。


 オイゲンが皿に盛られたパンを1つ、リームの傍らに置いた。


「ほれ、食え。腹が減っては力が出んぞ」

「ありがと」


 パンはバゲットに似ていて、チーズと野菜が挟んである。


 リームは、あ~んと大きな口を開けてかぶりついた。んぐんぐ……なんだか懐かしい味がする。


「気に入ったか?」

「うん。これ、ミツナとセリーナだよね? 私の好きな野菜だよ」

「衛兵のグステオが持ってきたんじゃ。オーデンの野菜を食わせてやりたいとな」

「そっか……グステオおじさんが……」


 もう一口、かぶりついた。エミリー、ダニー、ニコラ、シスターグレース……みんなが力をくれてる気がする。


「おいしい」


 リームから、少女らしい笑顔がこぼれた。


 それが合図だった――。神懸かった技を持っていても、笑顔は普通の女の子と変わらない。親しみを覚えた職人たちが、わっと迫った。


「どうやってそんなにスキルを上げたんだ?」

「誰に教えを受けた?」

「ハンマーを振るうとき、大事なのは右腕か? 左腕か?」


 こぞって質問を浴びせられるが、ゲームでレベルを上げただけのリームには、どう答えていいかわからない。けど、1つだけ言えることがあった。


「あのね、鍛冶スキルだけを上げようとしてもダメだよ。狩りに出て、鍛冶屋のレベルを上げなきゃ。スキルレベルって、その職のレベルに応じて上限が解放されるから」


 オイゲンが絶句した。


「なっ……なんじゃと? 鍛冶スキルが、鍛冶屋のレベルに影響されるというのか?」

「うん。戦いで強くならないと、鍛冶もうまくならないよ」

「謎が……長年の謎が解けた……。国を守った英雄である、ゴラン様の鍛冶スキルが飛び抜けておるわけじゃ……。鍛冶場にこもっておってはいかんかったのか」

「鍛冶屋も、ハンマーだけじゃなく、戦斧とか、トゲトゲの棍棒とか持てるからね。みんなで狩りに出るといいよ」

「では、嬢ちゃんはワシらより強いということか?」

「ん~……多分ね」


 レベル120と言えないリームは、大きな口でパンをかじると、ばつが悪そうにニッコリと笑った。


 懐かしい野菜の味が、口いっぱいに広がった。

【次回予告】

すっかり鍛冶屋ギルドに馴染んだリーム。いよいよ、ミスリルナイフが仕上がります!


【大切なお願い】

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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