表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクトコーナー  作者: 乱 江梨
第五章 不変の√コーナー
83/93

不変の√コーナー13

 第五章完結です。今回はいつもより短めです。すいません。

「見つからへんなぁ……俺のおもちゃ」

「友里ちゃんをおもちゃ扱いしないでください」



 二月。忘れられがちであるが、この青ノ宮薔弥という男もあと少しで卒業である。木藤友里探しをしつつ、卒業できるように単位をとっていた薔弥なので、留年なんてことにはならなかったのだ。


 真面目なのか不真面目なのかイマイチ分からないこの男は、現在ささの神社で暇を潰している。ささはいつも通りの巫女服姿に、ほうきを片手に薔弥に苦言を呈した。


 この日は積もらない程度に雪がしんしんと降っていて、神社の鳥居が美しく雪化粧していた。


 友里が一向に見つからないことで項垂れている薔弥に、百弥は相変わらず嫌悪感丸出しの視線を向けている。



「絶対になんか裏あるで。これは」

「うら?」

「せやないとおかしいやろ?俺らはともかく、警察も未だに木藤友里見つけられておらんなんて」

「まぁ、確かに引っかかるな」



 薔弥の意見は的を得ていたので、最初は首を傾げていたささも納得したような相好になる。珍しく薔弥の話を聞いていた百弥も、同調するような意見を述べた。



「友里ちゃん、大丈夫でしょうか?ちゃんと食べてますかね?」

「……せやな。もしかしたら死体で見つかる可能性もあるっちゅうことか、盲点やったわ」

「薔弥さん!」



 純粋に友里の身体を案じて言ったささとは対照的に、薔弥は盲点だったという表情で不謹慎なことを口にした。今まで友里が生きている前提で探していた薔弥だったが、もし死んでいるのであれば、探すこと自体無意味になってしまうからだ。


 

「……ももくん?どうかした?」



 薔弥を叱っていたささだが、ふと、百弥の様子がおかしいことに気づき首を傾げた。百弥は神社の外側に視線をやっていて、ささたちも思わずその視線を追う。


 百弥が見ていたのは建物と建物の間の部分で、そこに見覚えのある人影があったのだ。


 その正体に気づき、思わず飛び出したのは薔弥だ。だが同時にその人影も、細い道の奥に進んでしまい、薔弥が道の入り口に辿り着いた頃には、その人物はいなくなってしまっていた。



「……薔弥さん?いきなり、走って……どうしたんですか?」



 薔弥を追いかけてきたささは息を切らしながら尋ねた。一緒に追いかけてきた百弥はそんなささの背を摩ってやっている。



「……ささ。取り敢えず、木藤友里は死んでおらんみたいやで。喜び」

「……え?」

「百弥も気づいたんやろ?」

「あぁ。写真で見た木藤友里とそっくりだったな」



 百弥はここにいる誰よりも感覚や、視力がとてもいい。だからこそ小道の影から自分たちを見つめる視線にも気づけたし、その存在が会ったことの無い友里だと判断することも出来た。


 薔弥が気づけたのは、推測によるところが大きい。誰よりも友里のことを見つけたいという思いが強かった薔弥は、ささのいるこの神社を覗き見する存在とは一体誰かと考えた時に、真っ先に浮かんだ人物が友里だったのだ。



「私気づきませんでした……ちょっとショックです」

「せやから自分はコンタクト買え言うとるやろが」

「だって怖いんですもん……目に物体を入れるなんて……ねぇ?恐ろしいよね?猫ちゃん」

「にゃ?」



 ささはあまり視力が良くなく、それは青ノ宮兄弟の間では周知の事実である。ちなみに薔弥はコンタクトを日頃からしており、百弥は裸眼で視力が2.0あるという化け物である。


 ささは視力が悪いというのに、コンタクトや眼鏡を持っていない。なので遠くにいた友里にも気づけなかったのだ。


 ささは自身の気持ちを理解してくれそうな存在がその場にいなかったので、仕方なく神社に住み着いている野良猫に同意を求めた。もちろん野良猫は何のことか分からずポカンとしている。



「それにしても友里ちゃん……私に会いに来てくれたんでしょうか?」

「そりゃそうやろうな。あのおもちゃがわざわざ俺や百弥に会いに来るわけもあらへんし」

「だからそのおもちゃって言うのやめてください」

「へぇへぇ」



 猫の身体を撫でながら、神妙な面持ちになったささはそんな疑問を口にした。友里が見つかる危険を冒してまでこの神社を訪れる理由など、それしかないので薔弥は肯定した。


 

「……そろそろ形振り構っていられんくなってしもうたなぁ……」

「え?」

「木藤友里探し……そろそろ本気にならあかんなぁってことや」

「今まで本気じゃなかったんですか?」

「おいじゃあ何のためにささが見世物になったんだよ」



 とんでもない爆弾発言を投下した薔弥に、ささと百弥が一気に非難の目を向ける。


 ささは以前、薔弥の妙な作戦で、巫女服姿のまま街のど真ん中にポツンと立ったことがあったので、百弥的には何のためにささがあんな無理をしたのか分からないという不満が募ったのだ。



「ちゃうちゃう。そないなことは無いって。ただ、道徳的にあれなこともせなあかんなって話やがな」

「…………何言ってんだ?お前はいつだってクズ野郎だろうが」

「酷い言われようやなぁ」



 薔弥の言う〝本気〟とは、友里捜索のためにとる手段の度合いだった。今までのような方法では、友里を見つけることが叶わないと学習させられた薔弥は、他人から見て眉を顰められるような、非合法的なやり方も視野に入れなければならないと考えたのだ。


 だが百弥からしてみれば、薔弥はいつだって最低の犯罪者予備軍なので今更だったようだ。



「透巳くんが力貸してくれたら、楽なんやけどなぁ……」



 静かに冬空を見上げた薔弥はぼそりと叶いもしない本音を吐露した。思えば友里を捜索し始めた頃から、薔弥は透巳が何か知っているのではないかと勘ぐっていた。明確な理由も根拠もどこにもなかったが、彼なりの勘がそう告げていたのだ。



「おいお前、透巳にまで迷惑かけたら承知しねぇからな」

「わかっとるわかっとる。そもそも透巳くんが手ぇ貸してくれるわけあらへんがな」



 薔弥の呟きを聞き逃さなかった百弥は、キッと睨みを利かせるが薔弥にダメージはない。


 自棄を起こしたような、諦め交じりの薔弥の声は、冬の白い吐息と共に空へと放たれた。薔弥にとっては、高校生最後の冬が、終わりを迎えようとしている。


 白い吐息は、それを表現するにはあまりに陳腐なようでいて、薔弥にとってはその程度のものだということを、安易に表現しているようだった。




 第五書「不変の√コーナー」は完結になります。次回からは最終章「平凡的幸福論のメソッド」を投稿開始したいと思います。最終回まで突っ走りますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 次は明後日更新予定です。


 この作品を「面白い!」「続きが気になる!」と思ってくださった方は、評価、感想、ブックマーク登録をお願いします!

 評価は下の星ボタンからできます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ