弱かった
ここから遥か南に行ったところにある、リュールという村、そこにいる幼き子供が蘇った魔王様を殺すだろう。
もしも魔王様を復活させ、再びその栄光を得たいのならば、その村を襲わなくてはならないはずだ。
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この言葉を聞いた私は、すぐに行動に移した。決行は明日の夜とし、それまでに悪魔型の魔物を出来るだけ召喚しておく。
そして、決行の日がきた。日が沈み、間もなく3時間だ。一気に襲い、滅ぼし、素早く退散しよう。
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村が見えて来た。いくつかの家から炎が上がっている。そして、黒い影たちが、住民を捕まえては齧っていた。体の一部だけがかじり取られた体もいくつもある。
「あとはあの1つの家だけだ! あそこを燃やして、中にいる子供を皆殺しにしろ! 魔王様の復活後の世界の為にも!」
という声が聞こえて来た。リーダーのような影が怒鳴っていた。そして、そいつが指を指しているのは……俺の家だ。
ユーリたちと急いで向かい、火を放とうとしていた影を一撃で倒す。さっきのリーダーらしい影が空から降りて来た。
「おやおや、私の召喚した者たちはかなり強いはずなのですが……あっという間にやられてしまいましたねぇ。
邪魔はしないでもらえますか?私の目的はそこの家のガキのみです。私の召喚した者たちは皆勝手な行動をとって、人間を食ったりしていますが、私は関係のないものに危害を加える気はありませんからね」
「悪いがそれはできない!」
と言いながら、一気に踏み込む。ユーリとルトの支援を受けながら、首筋に向けて斬りつける。が、避けられた。
今まで避けられたことのなかった『首刈り』が避けられた。
こいつはやばい、逃げろと本能が叫ぶ。
「ふむ……まあ雑魚ですしね、これぐらいで選別をしてみますか……『煉獄の炎』」
物凄い熱風が吹き荒れた。ルトが張った壁でどうにか防げたようだ。
「失礼、評価を変えましょう。鬱陶しいハエですね。眠っててもらいましょう……『双頭龍の剛腕』」
影……いや、悪魔と呼ばれる形の魔物が腕をあげたのを最後に、意識は彼方へ飛んでいった。
すぐそばから物凄い熱を感じて、慌てて目が覚めた。
そして、俺の家は燃えていた。燃えた扉を蹴り開けて、母さんが出て来た。
「あなたは邪魔になりそうですね」
そう言いながら悪魔が腕を振るった。母さんの体が斜めにずり落ちた。
ごめんね……と母さんの口が動いたような気がした。
家の中から悲鳴が聞こえて来た。弟のものだろう。つんざくような、断末魔のような声だった。それは小さくなり、やがて消えた。
目の前が真っ赤に染まった。まったく理解が追いついていなかったものが、やっと頭の中で形を結んだのだ。母さんが悪魔に殺された。弟も、みんな焼かれた。そして死んだ。
体が言うことを聞かない。全身に震えと激痛が走り続けている。それでも、あの悪魔を殺すまでは動くつもりだった。
「おや、永眠させるつもりでしたが……生きていましたか。じゃあ、お相手いたしましょう。さ、どっからでもかかって来てください?」
握り締めたナイフを振るう。弾かれる。
あのときの母さんの喜んだ顔を思い出してナイフを振るう。弟の笑った顔を、妹の泣いた顔を、みんなで馬鹿騒ぎをしたあの夜を、思い出しながらナイフを振るう。全て、余裕で弾かれた。
蹴られて吹き飛ぶ。
「そろそろ失礼させていただきましょう。死んでください」
悪魔が爪を伸ばした。
振り上げる。
俺は死ぬみたいだ。大事な家族を守れずに死ぬ。仲間も殺されてしまう。どうしてだろう。
その答えは、もう知っていた。だから、母さんや弟たちが殺されても、どこか冷静だった。
俺が弱かったからだ。
もう死は免れない。諦めたその時
「そこまでだよ」
銀色が僕の前に立っていた。




