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23.末路

 先ほどの部屋は二階の一室だったようで、階段を降り、一階の居間に腕を引っ張られて、連れてこられた。

 西陽国風の内装になっている居間は、木材でできた落ち着いた雰囲気の家具や暖炉まであり、こんな状況でなければゆっくりと寛げただろう。


 手を離された勢いのまま、私は地面に手をついた。

 目の前には、大豆川と鼻から血を流している猿渡が立っている。


 あの部屋から出られたことは僥倖(ぎょうこう)だ。

 この二人をなんとかして、沙英様を助け、逃げ出さなければならない。

 猿渡はともかく、大豆川はかなり体格もいいヤクザ者で、喧嘩慣れしているはず……どうすればいい?


「逃げようだなんてくだらないことは考えるなよ?上のお嬢様がどうなっても知らんぞ。

 さて、お嬢ちゃんの力は本物だと聞いている。俺が助かる未来を教えてくれるな?」


 じりじりと人を追い詰めるような目つきの大豆川を、睨みつけた。


「……私が未来を視られるからと言って、あなたが助かるとは限らないわ」


 ドスドスと足音を立てて大豆川が近づいてくる。手が伸びてきてたため、逃げようとしたが間に合わず首を掴まれた。力は入っていないが、圧迫感があり、苦しい。

 手を引き剥がそうと試みるが、うまく力が入らない。


「いいからさっさとしろ!! このまま、くびり殺してもいいんだぞ」

「うっ…….」


 首をゆっくりと締められ、息が漏れる。


「だ、大豆川さん……!!」


 さすがに人が殺されるところは見たくないのか、猿渡が咎めるような声を上げた瞬間、手が緩み息がし易くなる。


「ゲホゲホ」


 座り込み咳き込んでいると、頭を小突かれる。


「これが、最後の忠告だ」


 沙英様は助かる可能性があるけれど、自分はわからない。このまま、この男に絞め殺される可能性だってある。


「……わかりました」


 今は従うしかない。

 大豆川に向かって手の平を向け、私は集中して男の未来を垣間見る。


「さっさと話せ!!」


 興味深そうにこちらを凝視する大豆川、その後ろで不安そうに見てくる猿渡に対して視線を移動させた後、簡潔に言い放つ。


「どうあがいてもあなたが助かる術はありません。素直に諦めた方がよろしいかと思います」

「何だと!?」


 怒鳴り声をあげる大豆川を冷ややかな目で見返す。


「警察に逮捕される、行方不明になる、山中で発見される。それぞれ違いはあれど、あなたが無事で済むことはありません」

「ふざけるな!!」


 どれだけ怒鳴ろうと、視た未来は変わらない。猿渡は慌てているのか、オロオロと目線を彷徨わせている。


「あ、天音ちゃん。なんでそんなことを……!?」


 あなたがそんなことを言う権利があるとでも思っているのかと、怒りがこみ上げてくる。


「私は普通の人が視られないものを視られます。

 それはとても曖昧で不確実もの。だからこそ、自分が視たものに嘘はつきません。それが霊術師としての私の誇りです」

「立派な嬢ちゃんだな!だが、自分の命がかかっていても同じことを言えるのか……?」


 ゲラゲラと笑いながら大豆川が、目の前に突きつけてきたのは、冷たく鈍い光を放つ拳銃だった。

 ゴクリと唾を飲み込む。


「……あなたは私の言葉を信じられるのですか?」


 できるだけ冷静に、静かな声を出すと、大豆川は眉根を寄せる。


「はあ?」

「仮に、あなたが私たちを解放して、神城様に土下座をして許しを請えば助かると言ったらその通りになさいますか?」


 土下座という言葉に反応して、男は舌打ちをする。


「あなたにはそれができない。だから、無事で済む未来が視えないのです」


 そう、霊術師の言葉を信じるか信じないかは、本人に(ゆだ)ねられる。人は、信用できない者の言葉通りに行動できない。


 忌々しいといった様子で、彼はゆっくりと私の額に銃口をつけた。冷たく硬い感触だ。緊張のあまり背中に汗が流れる。


「そうだな、嬢ちゃんの言う通りだ。俺はあんたの言葉を信用などしない。俺が信じるのは自分だけだ」


 この男が引き金を引けば、私は間違いなく死ぬだろう。

 しかし、引き金が引かれることはなく、その銃口は猿渡に向けられた。


「ひっ!?だ、大豆川さん、な、何を!?」


 後退りする猿渡に、大豆川はケラケラと笑う。


「誰がこれで終わりにするかよ。お前もこの女も、ついでに神城の娘も全員殺して、俺は高飛びする」

「い、命だけは……!!」


 猿渡は土下座して命乞いをし始めた。なんとも情けない姿。

 ……でも、もう少しだ。

 瞬間、バリンというガラスが割れたような音が響き渡った。私は咄嗟(とっさ)に身体を屈める。


「な!?」


 真っ白な煙が部屋に充満した後、大きな足音が聞こえる。うっすらとした視界に、せわしなく動く何人もの足が見えた。


「くそ!!なんだてめえらは!?」


 大豆川の怒声が響き渡り、パンっと銃声が聞こえた。

 とにかく頭を下げて、騒ぎがおさまるのを待つ。

 彼にとってこれが一番マシな未来だ。警察に捕まって司法で裁かれ、命だけは助かる。


「大丈夫ですか?」


 突入して来た警察官に声を掛けられた。

 辺りは随分と静かになっており、白い煙も晴れてきて、大豆川と猿渡も警察官に拘束されている。


「……ありがとうございます」


 差し伸べられた手を掴んで、立ち上がる。


「二階にもう一人女性が監禁されています。助けてあげてください」

「わかりました」


 警察官は別の人にそれを伝えると、数人が二階へと向かった。

 沙英様も無事に保護されるだろう。


「怪我はありませんか?」

「はい、大丈夫です」


 その後、警察官に誘導され別荘から出られた。

 木々の間から夕日が差し込んでいるのを見て、心底安堵する。

 助かったのだ。


「天音!!」


 走り寄って来たのは、焦燥(しょうそう)した様子の大樹様だった。

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