18.赤津との出会い
「いやあ、天音さんと食事が出来るなんて、私は幸せ者ですね」
赤津様のにこやかな笑みに、思わずため息がもれる。
「普通に話してください。いつも思っていましたが、その話し方気持ちが悪いです」
「……失礼だな、おい」
今、私たちがいるのは、最近流行りのオムライスやコロッケなど、西の外つ国の食事を提供しているお店だ。
運ばれてきた料理は、とんかつと呼ばれるもので、ご飯と味噌汁と漬物と一緒に並べられており、香ばしい匂いがとても食欲をそそる。
なぜ彼と食事をしているのかというと、先日のお礼だけではなく、大樹様と沙英様のことで話があると言われたからだ。
聞きたい誘惑に負けて付いてきてしまったが、とんかつはとても美味しそうだ。
一切れ口の中に入れると、サクッとした食感にソースの甘味と肉汁がじゅわっと口の中で混ざり合い、調和している。
「美味しい」
「だろ?ここのとんかつ俺も気に入ってるんだ」
満足そうな晴れやかな笑みを浮かべる赤津様。いつもこんな笑顔なら相手に警戒されないのに。
「それで、お話というのは?」
とんかつは美味しいけれど、これを食べるために来たのではない。
「あー、そういえばここのカレーも美味いんだ。カツが乗ってるカレーが本当に絶品で……」
「赤津様」
厳しめの口調で言うと、赤津様は不機嫌そうにとんかつを一切れ口の中に入れた。サクサクっとしたいい音がする。
「少しはデート気分を味わわせろよ」
「デートではないので、無理です」
「冷たいな、本当」
呆れたように、大きなため息をついている。
「これだけ冷たくしているのに、諦めないあなたの方がおかしいと思います」
「それは、惚れた弱みだなぁ」
疑わしげにジッと彼を見つめてしまう。
「……あなたは、私に恩があると言ってましたよね?」
「まあな。でも、これを話すとあんたは怒りそうだ」
「は?」
要領を得ないが、赤津様は懐かしそうに目を細め、話し始めた。
「四年くらい前かな、俺は死にかけていたんだ」
「え?」
「俺の人生これからだって時に、病気になって、治る見込みがないと診断された。
うちは識術師の家系だから、あらゆる情報を収集したが、自分を救う手立てが見つからない。
自暴自棄になって、自殺でもしてやろうかと思ってた時に会ったのが天音だ。
病院に行った帰りに、ここに行けばあなたは生き延びられますって、メモを渡された。
なんだこいつって思ったけど、霊術師だってピンときた」
話の内容に、身に覚えがあった。あの頃、姉様を救う未来を視られなかった私は、自分の力が足りないのだと思い、休みの日に病院に通って片っ端から力を使い続けた。
その時に、助かる見込みがありそうな人にメモを渡したことがある。その中の一人が赤津様だったのか。
すぐに両親にバレて止められたため、実質数人くらいにしかそんなことはしていない。
「霊術師はそう簡単に力を使わないって聞いてたから、何でこんなことをしてるんだって天音に聞いたんだ」
「え?」
「そしたら、あんた……すげえ泣きじゃくってさ」
「な!?」
「姉様を助けたいと言ってた。俺も若かったし、どうしたもんかと困り果てたが、なんとか慰めたよ」
何という恥ずかしい真似を!?嘘だと思いたいが、あいにく似たような記憶がある。相手の顔は覚えていないが、二度と会わないと思って話をした。
「ま、待ってください。じゃあ、あの時の……」
「少しは覚えているようだな。あんたは、姉が不治の病でもう助からない。どれだけ未来を視ても救う手立てが見つからない。
姉には相思相愛の婚約者がいて、二人は自分の憧れだから、病で引き裂かれるなんて悲しくて辛いとか。後は……」
「黙ってください!」
何もかも暴露されるかもという恐怖に、私は声を荒らげた。
「やっぱり怒ると思った」
あまりの恥ずかしさに思わず俯く。一番知られて駄目な相手に弱みを握られた。
「天音は命の恩人だ。あのメモのおかげでいい医者に会ってほぼ完治できた。通院は必要だが、日常生活に問題ない」
「……それはよろしゅうございました」
これ以上何を言えと?恥の上塗りをしそうで何も言えない。
「天音にお礼を言いたかったが、名前も聞かなかったし、自分も治療に専念していて、なかなか捜せなかった。
識術師として本格的に仕事を始めて……久龍 大樹に会った時に色々と知ったんだ。
あんたの素性と天音の姉が亡くなっていること、その後あんたが姉の元婚約者と婚約してたこと。
正直、ふざけんなって思った。元婚約者って姉と相思相愛だと話していた男だろ?
天音は、たくさんの人を救いたいけど、一番救いたい姉を救えないのが悲しいと言っていた。
そんな奴が、なんで不幸にしか思えない婚約をしてるんだと、腹が立った。
直接会った時も……昔はあんなに表情豊かだったのに、なんだよその全部諦めたような無表情はって……」
落ち着かない様子で彼は頭を下げた。
「悪い。ムカついたからって俺の態度は悪かったと思ってる。少しは感情を見せろって、キツい言い方になったのは自覚してる。申し訳なかった。
……それと、四年前も助かった。ありがとう」
赤津様を不愉快だと感じたのは確かだが、素直に謝られるとイライラしているのが馬鹿らしくなる。
「態度が悪いのはお互い様です。私こそ申し訳ございませんでした」
「いや、俺はポンポン文句を言ってくるあんたの方が好きだ」
なんて恥ずかしい発言をするんだ、この男は。呆気にとられてしまう。
「俺の気持ちより、天音の幸せの方が大事なんだ。助けてくれたあんたが不幸なんて寝覚めが悪いだろ」
「……余計なお世話です」
彼を覚えていなかった私に恩など感じる必要はないのに。
「好きなんだろ?」
「え?」
「式典の時、天音の様子がおかしかったから不思議だったんだ。沙英さんが天音の姉にそっくりだって聞いて……。
あの時、婚約者と姉が一緒にいると錯覚したんだろ?だから俺の腕の中で震えてた」
「……嫌な男ですね」
誰にも知られたくない想い、本当に識術師というのは厄介な連中だ。
「あの男に愛想尽かしたら、俺のところに来ればいい」
この男には羞恥心というものがないのだろうか?
「あなたは変わっています」
「そうか?」
彼は不思議そうに首を傾げている。
「でも……ありがとうございます。少しだけ気が楽になりました」
赤津様を利用しているようで心苦しいが、気持ちは嬉しい。
誰にも話せなかった気持ちを誰かが知っているのは、怖いのと同時にホッとすると初めて知った。
「まあ、俺と天音の話はこれくらいにして、続きを話そうか?」
彼の真面目な表情に、私は姿勢を正し、気を引き締めた。




