012 固体と液体
◇ ◇ ◇
「わ、わわっわっ、わっうわあ!」
我ながらアホっぽい驚き方だとは思いますが、これは仕方ないじゃないですか。太倶仕くんを迎えに行ったはずの布重さんが、ほんの瞬きをする間に帰って来たのですから。
全身をいくつかのパーツにバラバラにされて、帰って来たのですから。
いえ、バラバラにされてというよりは、帰って来た瞬間バラバラになった感じでした。つまり、まだ凡その原形は留めているということです!
「テラヒール!」
わたしにできる一番の治癒魔法を発動させます。死んでさえいなければまだ間に合う、そういう魔法です。ただ魔力をありったけごっそり持っていかれるので闇全身から力が抜けて闇視界は黒く汚され闇闇耳鳴り以外の闇闇闇何もきこえず闇闇闇闇闇自分が床に闇闇闇闇闇闇闇闇倒れた闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇感触さえ闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇わからない闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇あれ?闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇わたし闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇なにを闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇わたし?闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
「醍酢」
「――はわっ!」
深い深い海の底へ、そのまま宇宙まで沈んでいきそうな無感覚でしたが、巡さんの声で意識が戻って来ました。
「大丈夫かい?」
「ひゃい! わっ、わたし、回復力は高いですから!」
「そう。それはよかった。諒夕、君はどうだい?」
「最悪の気分だぜ」
驚くことに、門士くんたちより重傷だった布重さんは、意識を落とすことなく普通に会話ができる状態でした。勿論わたしが頑張ったというのもありますが、それはあくまで肉体的な傷の話です。布重さんの精神的な強さが窺えます。
「ありがとよ、醍酢」
「いっ、いえいえ!」
布重諒夕さん。
『神の導き』初期メンバーの一人で、リーダーの巡さんと一番付き合いの長い人だそうです。『空間術』というチートスキルで偵察、索敵、瞬間移動などを得意としておられますがそれだけでなく、単純な戦闘力も高いらしいです。この世界でもう四年以上生きているとか。
そんな布重さんが……
「一体何事があったんだい?」
それはほんの数分前と、する人もされる人も、その台詞までも全く同じ質問でした。
「待ち伏せされてた」
布重さんは視線を落として、頭を抱えながらつい先程の一瞬のことを話し始めました。
「まず俺が『空間術』で向こうの様子を見た時、太倶仕は既に傷だらけで死にかけてた。殺されかけてた。今思えば明らかに罠なんだが、近くに人影は無かったから、すぐに回収して戻ろうと思ったんだ」
「うんうん。それで?」
「飛んだ瞬間、そこに刀を構えた女がいた」
「誰もいなかったはずなのに?」
「ああ。スキルでは感知できない、礫みたいな感じだった」
皐月殿礫さん。
『神の導き』のメンバーで、気配どころか実体すらなくなる『繫風捕影』というスキルを持っています。
いつも勝手に動き回っているのでこの洞窟にいることは滅多にありませんが、少し前に「面白い奴を見付けた」とか言って帰って来ていました。変わった武器を扱う砂漠の民を倒したそうなのですが、肝心のその変わった武器とやらを持ち帰っていませんでした。今は巡さんに言われてそれを回収しに行っています。
礫さんは単純な戦闘力で言えば恐らく『神の導き』で一番です。もしメナメナに行ったのが彼だったら結果は変わっていたでしょう――なんて考えるのは門士くんたちに失礼ですかね。
「相手の能力は一先ず置いておこうか。それから?」
「斬られそうになったんだ。それで……」
「それで?」
「…………」
布重さんはその先を言いたくないのか、黙り込んでしまいました。巡さんには布重さんが何を言い淀んでいるのか分かったようで、優しく声をかけました。
「大丈夫だよ。責めたりしないから」
「……無意識だったんだ」
「うん」
「無意識に、自分と太倶仕の場所を……入れ替えてた」
「……そう」
声こそ上擦ってはいないけれど、腕に隠したその顔には涙が流れているのではないかと、そう思わせるような冷たく湿った空気を布重さんは纏っていました。そんな彼の背中に、巡さんはぽんぽんと優しく手を添えました。
「分かるよ。君とは長い付き合いだからね。遠くへ飛ぶにはそれなりの集中が必要だけど、その余裕が無かったんだろう?」
「……ああ」
「でもすぐにこっちに戻れるよう、予め太倶仕と自分自身に意識を向けていた。意識が向いていた。だから咄嗟に逃げようとしたとき、自分がその場から少し離れればそれで良かったのは理解しているけど、意識していたからこそ無意識に、場所の入れ替わりという形で『空間術』が発動してしまったんだよね?」
「……巡はすごいな」
「ふふっ、ありがとう。気にすることはないよ。無事に、とは言えないけれど、諒夕が戻ってきてくれただけでも十分さ」
巡さんは本当にすごいです。まるで意識を共有してるみたいに布重さんのことが分かるのですね。布重さんもようやく顔を上げてくれましたし。男の友情って感じでそれは大変に素晴らしいです。
ただわたしには、一つ気になることがありました。
「あっ、あの」
「どうした醍酢」
「布重さんがそんなに落ち込んでるってことは、その、入れ替わったことで太倶仕さんが斬られた、んですよね?」
「はっきり言ってくれるじゃないか」
「わっ! ご、ごめんなさい!」
気を付けてはいるんですけど、わたし時々口がすべると言いますか、余計な一言を足しちゃったり、相手のことを考えない言い方になっちゃうんです。転生する前はそれで色々とトラブルもあって……。幸いにも今は『神の導き』の皆さんが優しくしてくれているのですが、直さないといけないですよね、これは。他人の傷を治してる場合じゃないです。
恐る恐る表情を窺うと、布重さんは呆れたように笑ってくれました。
「いいよ。事実だし。それで?」
「わ、わたしの感覚では、布重さんが向こうに行ってた時間って一秒にも満たなかったと思うんですけど、その女の人は、その一瞬で、お二人をバラバラに斬り刻んだってことですか?」
「はっきり言ってくれるじゃないか」
「ひっ! ご、ごねんなしゃい!」
またやってしまいました!
でもどうしても気になったんです!
布重さんと太倶仕くんはメインのスキルは『空間術』と『錬金術』で戦闘色が強いわけではありません。しかし、例えばバリバリ戦闘系の『百発百中』鱈来通弦さんと戦ったとしても、一分くらいは粘れると思うんです。それが、いくら不意を突かれたとはいえ、そんな一瞬で為す術なくやられるなんて……。
勝手に太倶仕さんもバラバラにされたもんだと思い込んでの質問でしたが、否定されないということはどうやらそのようですし。もし諒夕さんと同じレベルで解されたのなら、相手の女性はあの一瞬で、少なくとも30回は剣を振っているはずです。戦闘は専門外のわたしですが、それが異常なことくらい分かります。
「まあ俺も不思議ではあるんだよな。ここに戻って来た時、完全に逃げ切ったと思ったんだ。俺一人での瞬間移動なら意識の集中もすぐできるし。なのに斬られてた。ズタボロに斬られてた」
「その女は異世界族と見て間違いないかな?」
「分からん。たとえば時間の速さを変えられるってんなら剣速については納得できるが、それだけじゃないと思う。あれはもっと根源的に違う生き物だよ。この世界の住人とも、俺たち異世界族とも」
「厄介極まりないね」
今度は巡さんが頭を抱えて蹲ってしまいました。無理もないですよね。ずっと謎だった敵の姿を漸く捉えたというのに、それが『神の導き』にとっては何のプラスにもなっていないのですから。お先真っ暗ですよ。
いっそ寝返ったりできないかなあなんて考えていると、巡さんが何かに気付いたのか「ん?」と声を漏らしました。その視線の先、彼の足元には――
「ねえ諒夕」
「どうした巡」
「ブレスレットは、どうした?」
巡さんの足元には先程外した彼自身のブレスレットがあります。わたしのも自分の足元にあります。そして熱されたアサリのようにパカッと開いたものも3つ転がっています。
それで全てです。布重さんのものは、ここには有りませんでした。
「まさか――!」
「それだけじゃない。僕たちにブレスレットを作ってくれた太倶仕にも、自分用のがあったはずだ」
布重さんは太倶仕さんを助けようと必死だったのでしょう。だから外したブレスレットを握りしめたまま行ってしまった。それを不注意だ不用意だと責めることはできませんが、これはえらいこっちゃです。
「一度破られて、さらにトラウマまで植え付けられた僕たちは、もうあのブレスレットを付けて戦うことはできない。加えて相手にはそのブレスレットを二つも奪われた」
「絶望的な状況ですね」
「……悪かったよ」
「諒夕は悪くないよ。悪いと言うなら相手が悪かったね」
その相手が今回限りの相手だったらよかったんですけどね。わたしたちが異世界族である以上、遅かれ早かれ二回戦三回戦が幕を開けます。それを避けるには逃げ隠れるか、あるいは――
「平和的な解決ができればいいんだけど」
「そこは巡の腕の見せ所だろう? 頼むぜリーダー」
「簡単に言ってくれるなあ。希望的観測はやめてくれよ」
「でもそこにしか希望がないんだから、仕方ないだろ?」
「ふふっ、そうだね……あーあ、やれやれ」
蚯蚓甕巡。
異世界族の互助組織『神の導き』リーダーであり創設者。
そんな彼のチートスキルは剣も魔法も捨てさせる、まさに平和のためのスキルなのです。その名もずばり――
「『会話』が通じる相手だといいな」
◆ ◆ ◆
狭者さんと白神ハノレルートとやらの調査に行ったのは昨日のことで、今日の私はまた別の任務を与えられていた。
こういう言い方をするとまるで馬車馬のように働かされていそうな感じだが、そんなことはない。三週間程前から一昨日まで、それなりに長い休暇を頂いていた。
更に遡って休みの前、三週間前までは何をしていたかと言えば、ユネさんと共に薬道空谷という名前の異世界族の相手をしていた。そのほとんどは私だけが動いていて、ユネさんは最後の仕上げだけちょちょっとやっただけなのだが、二十日程の休暇は彼女にも同じように与えられた。
別に文句があるわけじゃない。ユネさんが担うのは、私にはできない重要な役割なのだから。それに文句を言ったところで聞く耳を持つ人ではないし。ともかく今問題なのは、彼女が休暇中だということだ。
どこかに行ったっきり帰ってこないユネさんを見付けて連れて帰る。
それが今日の私の仕事だ。
千のスキルを所持する私は人探しのスキルも当然使える。それを使ってぱぱっと見付けて、ぴょーんと帰ればそれで終わりの楽勝な仕事だ――相手がユネさんでなければ。
少々面倒なことがあって、ユネさんは他人の転移魔法で移動することが大嫌いなのだ。彼女自身は瞬間移動できないくせに。だから彼女を見付けたとしても、場所によってはすぐには帰れないのだ。
そして滅茶苦茶面倒なこともあって、それはユネさんにはそもそも人探しのスキルが通じないということだ。人探しに限らず索敵とか千里眼とか、そういった彼女の存在を捕捉しようとするスキルはどういうわけか軒並み通じない。《不知肉》を持っているわけでもないのに。
恐らくは世界一難易度の高い人探しだ。
一応言っておくが、ユネさんは休みが終わったのにどこかで遊び惚けている不真面目な人というわけではない。休暇の日程は大雑把で、いつまでに戻って来いと明確には言われていないのだ。
それでもそろそろ終わりなのは分かっているはずで、決して不真面目ではないユネさんは既に交通都市メナメナまで二日三日の距離にいるはずなのだ。とは言え流石は世界三大交通都市。二日三日で届く範囲がまあ広い。
ユネさんの人柄はそれなりに把握しているけど、どこにいそうかまでは私には分からない。残念ながらこれ以上絞るのは無理なので、朝から幾つもの街を地道に見回っている。
スキルには引っ掛からないけど、ユネさんは人らしからぬ特徴的な気配を持っている。ある程度近付けば分かるはずなのでそれを頼りに探しているんだけど、もしその気配を消して歩いているならもう打つ手がない。あと、そもそも街にいなかったら完全にお手上げだ。
勿論放っておいても二日三日すれば自分で帰って来るはずだけど、お嬢様がわざわざ私を出向かせたということは、できるだけ早い方がいいということだ。
見付けてから急ぐよう言ったところで、瞬間移動ができないユネさんでは短縮できるのは半日から一日程度だろうけど。いや、馬車より速く昼夜休まず走ればもうちょっといけるかな……? ユネさんならそれくらいできそうだ。
まあなんでもいい。とにかく早く見付けることだ。できれば今日中に。
しかし三十か所目の街でも成果はなく、ずっと周囲の気配に集中しっぱなしで流石に疲れてしまった。ここは気分転換に灯台下暗しも狙って、一旦メナメナに戻ってみよう。
瞬間移動――はい着いた。
さてさてどこかにいないかなあ。
『西の教育区』『南の情報区』と回って、やっぱりいないのかなあと『東の商業区』に入ってみると、おやおや?
血の臭いがした。
スキルで強化されていない凡夫の嗅覚では分からないだろうが、結構な量の血が流れている。まあ荒くれ者もいることだし、それ自体は珍しくもなんともない。しかし一応そちらに近付いてみると――あらまあユネさんの気配じゃないですか。
さらに近付いてみると……ああもう、これ完全にユネさんが殺ってるじゃん。
タグシの道具屋、ここだ。
入り口には準備中という札があったが気にせず入る。店の奥の階段を上がると、二階には居住スペースがあった。臨終スペースかもしれない。
「やあフェートちゃん。久しぶり」
「お久しぶりですユネさん。お嬢様が探してましたけど、もう会いました?」
「いや。異世界族がいたから殺してた」
「この惨状を作り出すには、『殺す』程度の動詞では不十分でしょう」
死体ならこれまで幾つも見てきたけれど、ここまで細かくバラバラにされているものとは初めましてだった。視覚的に刺激的なこういう芸当は、どちらかというと南帝大陸の皆さんがやるイメージだ。北将大陸ではもう少し穏やかに殺す。
体を乗っ取る首輪《不拘箱》。
ステータスを斬る長剣《不知肉》。
眠りに落とす直刀《不見夢》。
異世界族を狩るに際してよく使われているこれらは、どれも血飛沫を上げるようなものじゃない。勿論、だから私たちの方が優秀だとか、遠征組は殺り方が下手だとか、そういう話ではない。時と場合に依っては、私たちだって床一面を真っ赤に染めることもある。
でもまあ目の前の光景に関しては、ユネさんの気分に因るものだろう。やろうと思えばもっと綺麗に殺すこともできるはずなのだから。というか何故一番綺麗なやり方を選ばなかったのか。
「《不見夢》はどうしたんですか?」
「んー? あれは後七日は使えないよ」
「え、一回使ったら暫くは使えないんですか? 初めて聞きましたけど」
「そりゃあ今初めて言ったからね」
「えぇ……」
一応それなりの期間コンビを組んでいたのだから、使っている《神威物》の欠点くらい教えといてくれよ。とは思うものの、ユネさんにとっては欠点でも何でもないか。
《不見夢》を使えない期間があったところで、「それなら別の武器を使えばいい」と言うのがユネさんだ。木の枝で異世界族を殺したことがあるという、異世界族以上の異端児だ。
「それじゃあ私は先に戻っておくから、後処理よろしくー。ばいばい!」
「はぁ……」
窓から出て行った彼女の後ろ姿には溜息しか出ない。何を考えているのかさっぱり分からない人だ。どうしてお嬢様の下に就いているのかも分からない。
分からないことは目の前にもある。
この細切れ死体は、どう処理したものだろうか?
もう少し原形を留めていてくれれば迷わず持ち帰るのだけれど、ここまで細かいと《神威物》にはできない。転生パターンや名前、年齢といったお嬢様が知りたがっている情報も、ここから得るのは難しいだろう。
かと言ってここで全部処分してしまうには、各パーツが不愉快なほど綺麗に解体されているのだ。改めて、なんだこの殺し方は。
思えば私自身で異世界族自体の処理をするのはこれが初めてだった。今まではユネさんが持ち帰っていたし。だからこの状態の異世界族をどうしたものかさっぱり分からない。まあいいや、一応持って帰っておこう。それで怒られることはないだろう。
「よし」
保存魔法と保管術で固体は全て回収した。あとは液体、つまり床で固まりかけているこの血をどうするかなのだが、これは流石に要らないよね? リフレッシュで消しちゃっていいよね?
もしくはこのまま放置しちゃうとか? いや、人里離れた森の中ならまだしも、ここ思いっきり街の中だもんな。屋内とはいえ放ってはおけないか。
そろそろユネさんも屋敷に帰った頃だろうし、私も早く戻らないと。
これはもう使わないよね? 使い道ないよね? 使いようないよね? よし。
「リフレッシュ」
さあ帰ろう。窓から飛び降りたりせずに、瞬間移動でぱっと帰ろう。
予想外のこともあったけれど、今日中は厳しいかと思っていたユネさんの捜索が意外に早く片付いたのだ。悪くない気分だ。お嬢様も褒めてくれるだろう。
……そういえばユネさんの左手に見慣れない銀色の腕輪が二つあったけど、あれは一体なんだったのだろう?




