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オーバーズ!  作者: 米方立十
第一章
12/13

011 「 」


 ◇ ◇ ◇




 一年程前にした何気ない会話を思い出す。それはハッシェルン子爵邸の一室での、なんてことない雑談だ。これといった脈絡もなく、お嬢様はこんなクイズを出してきた。


「私の嫌いなチートトップ3はなんでしょう?」

「なんですか急に」

「私の嫌いなチートトップ3はなんでしょう?」


 お嬢様からの唐突な話題振りはよくあることなので、私は大人しく乗る。


「うーん……死者蘇生、物質転移、能力付与、ですかね」


 一先ず挙げた三つは、私たちがこの世界に来るにあたって何者かに、まあ十中八九神様(ハノレルート)に使われたスキルだ。それがスキルと呼ばれる類のものかは分からないが、細かいことはさて置いて。

 元の世界で死んだはずの私たちは()()()()、この世界に()()()()()()、各々が特別な能力(チートスキル)()()()()()


 お嬢様は――私もだけど――この世界に来たことを悲嘆してはいない。狭者はさみじゃ君のように元の世界に心残りがある様子もない。しかしそれはそれとして、自分の身に勝手にあれこれされたことには嫌悪感があるのではないかと、この三つを挙げてみた。

 はたして。


「なるほど。そういう考え方か」


 お嬢様は感心したように言ってくれたけど、的外れな解法だったことがその台詞で判明した。とは言え的外れな解答ではなかったようで、一つだけ惜しいとのことだった。次はその一つがどれなのか推理する。


「死者蘇生ですか?」

「そのこころは?」

「以前仰っていませんでしたっけ? 『死』は絶対的な終わりでなければならない、とかなんとか」

「そんなこと言ったっけ? ああ、言ったかもね。でも不正解」

「では物質転移ですか?」

「そのこころは?」

「いえ、順番に挙げただけですけど」

「そっか。でも正解。厳密には瞬間移動と答えてほしかったけどね。私の嫌いなチートランキング第三位だよ」


 それを聞いて私は、顔には出さないけれど複雑な気持ちになってしまう。なんだ三位か……というわけではなくて。少し迷って、口に出すことにした。


「あの、私できるんですけど。瞬間移動」


 お嬢様はふっと笑った。


「ああ、ごめんごめん。言い方が悪かったね。正しくは『敵に使われるとムカつくチートランキング』だよ。芻ちゃんが使う分には、使える分には、全くもって問題ない。むしろ心強い」

「はあ、そうですか。ありがとうございます」


 ならよかった。最近は全然使ってないけど。

 しかしそういう考え方でいくなら、残りの二つはなんだろうか。真っ先に浮かんだのは不死身とか不老不死だけど、死者蘇生が不正解なら同系統のここらへんも違う気がする。となると――


「一位と二位はなんだと思う?」

「未来予知と読心術、でしょうか」

「ほう。そのこころは?」

「未来予知は私達の誰も出来ませんし、読心術は単純に気分の問題です」

「ふむふむ。八十五点ってとこだね」


 中々の高得点だった。


「百点満点の正解は『時間軸への干渉』と『精神感応系スキル』だよ」

「はあ……『瞬間移動』に比べて随分と大きなくくりですね」

「仕方ないだろう? 未来予知も時間逆行もムカつくし、読心術も催眠術も嫌いなんだもん」

「だもん、と言われましても。その感覚は分からなくもないですが」


 とまあ、それだけの話だ。大した意味はなくて、今でも覚えていることが不思議なくらいの雑談だ。


 あれから一年。

 あの時と同じ部屋で、私達は反省会及び今後の作戦会議をしている。メンバーは実際に異世界族に対峙したお嬢様、私、ベイデルさん。そして屋敷にいた狭者君とリクエラさんだ。

 《不止痛ペイントペイン》を脱いだお嬢様は、酷く憔悴した様子だった。


「感覚が無さすぎるのも考えものだね」


 着用者が受けたダメージを所有者の痛みに変換する外套。所有者のリクエラさん曰く、じっと座っているだけでも痛みを感じるらしい。それはつまり、普段私たちがダメージだと認識していない些細な感触すらも変換されてしまうということだ。変換されて、なくなってしまうのだ。


 大地を踏みしめて直立しても、まるで海に深く潜ったように上下があやふやになる。風を切って走っても前に進んでいる実感がなく、まるで宙吊りにされてもがいているようだ。お嬢様はそう言っていた。

 私自身は着たことがないので知らないけれど、その話を聞くだけでも着用者の精神的疲労が洒落にならないことは想像できる。その疲労さえも所有者リクエラさんの痛みに変換されてくれれば便利なんだけど、自分の内側で勝手に発生するダメージは対象外らしい。上手くはいかないものだ。


「それで、結局何があったんだ?」


 テーブルに倒れているお嬢様を心配する素振りも見せず、狭者君が質問した。まあ、彼は部屋でずっと寝てたから何も知らないもんね。お嬢様への報告も兼ねて、私とベイデルさんで事のあらましを話した。


「ふうん」


 自分が寝ている間に起きていた事件を粗方理解した狭者君の感想第一号は、お嬢様に向けられた。


銃火つつほ、お前えげつねえな」


 具体的に映像を想像してしまったのか、彼は自分の右手首をさすっていた。お嬢様は突っ伏したまま答える。


「私の考えは分かってるでしょ?」

「分かるけどさあ……」


 俺はお前のこと理解してるぜとでも言いたげな呆れ顔をしているが、私だってお嬢様の意図は把握している。もう八年も共に過ごしているのだから、それくらい分かる。

 表情には出さず密かに張り合っていると、リクエラさんが申し訳なさそうに手を挙げた。


「えっと、どういう狙いだったんですか?」

地下道あそこにいるってことはほぼ間違いなく瞬間移動ができるんだよ。ベイデルくんが言うには突然現れたみたいだから、かなり広範囲の索敵か、あるいは千里眼のようなスキルもあるんだろうね」


 あの三人組は気配もなく予兆もなく、ふっと湧いたように現れた。こちらの様子を遠くから窺って、不意打ちを狙ったのだろう。効果はともかく、不意を打つことには成功していた。


 しかしベイデルさんにはスキルが通じないけれど、どうなのだろう?

 索敵スキルなら引っ掛からないだろうけど、千里眼では見られるのだろうか?

 一から十まで完全にスキルの索敵とは違い、千里眼の『見る』という行為自体はスキルに関係のない普通の技能だ。スキルとしてのメインは『離れた場所を』になるが、これに関しては相手に直接的な作用はしないため《不知肉ピュアブラッド》でも無効化できないはず。そしてその先、普通に『見る』だけならこれもやはり無効化は……これは要検証ではなかろうか。


「まあそれは一先ず置いといて。瞬間移動できるってことは、やばいと思ったらすぐに逃げられるってことだよね。となるとあの場で殺しきるのは難しい。だから嫌いなんだよ瞬間移動」

「でも、お嬢様なら四肢を切り落とすくらい出来そうですけど」


 お嬢様が戦っているところは見たことがないはずなんだけど、リクエラさんは不思議そうにそう言った。ベイデルさんか狭者君にでも話を聞いたのだろうが、彼女の中でどんなお嬢様像ができているのか気になるところだ。

 当のお嬢様は笑って首を横に振った。


「はっはっはっ。私にそこまでの戦闘力はないよ。それに《不止痛ペイントペイン》を着ていたからね。感覚が不完全な状態じゃあ大したパフォーマンスはできない」

「だから手首だけでもってことですか?」

「いや」


 再び首を横に振られ、リクエラさんは困ったように首を傾げた。


「回復魔法が得意チートな異世界族がいればあれくらい簡単に治せるだろうね。あれこれ無効化のダサい腕輪もまた作ればいい」

「? それじゃあ何の意味も無いじゃないですか」

「意味はある。ただ、そうだね。痛みを痛みとして()()()()()()痛みが痛みとして()()()()()リクエラちゃんには、ちょっと理解できない感覚かもしれないね」

「感覚?」

「トラウマだよ」


 心的外傷トラウマ

 心理的に大きな衝撃を受けて、後遺症として心に残り続ける傷。


「あれだけのことをされれば二度とあの腕輪をはめようとは思えない。たとえ形を変えたとしても抵抗感は消えない。物理攻撃無効化も、魔法攻撃無効化も、それがどれだけ便利か分かっていても、本能が拒否してしまう。そういう呪いさ」

「はあ、なるほど……」


 リクエラさんは、理解はできたけど納得はできないみたいな表情だった。救いようのない不良品と言われた《不止痛ペイントペイン》が適合するだけあって、やはり私たちとは感覚がずれているようだ。

 ちなみに《不止痛ペイントペイン》を着ている彼女の心も、ベイデルさん同様覗けない。お嬢様の心もどういうわけか覗けないので、この場にいる私以外の四人のうち侵入スキルが通じるのは狭者君だけであった。その唯一の彼については私自身の意思で覗かないようにしている。


「件の三人組には芻ちゃんのスキルも通らなかったらしいけど、普通ならそんなことは有り得ないんだよね。こっちは超特化型なんだから。ということは相手には異世界族によるプロテクトが一種類だけではなく、複数あったってわけだ。そのうちの一つが例の腕輪、もう一つが精神支配系のスキルだろうね」

「喋っているのは終始一人だけでしたから、あの少年が他の二人を支配していたのでしょうね。最後の()()で声を上げたのも彼一人ですし」

「私が斬っていればその支配も解けましたかね?」


 ベイデルさんが《不知肉ピュアブラッド》の柄を撫でながらそう言った。確かにそうすれば二人については私が支配できていたかもしれない。しかし彼に防御メインで動くよう指示したのは私なので文句を言う権利はないし、その気も無い。

 私はもし死にそうになってもあの三人組同様瞬間移動できるが、ベイデルさんにその手はない。万が一を考えて彼には自衛に徹してほしかったのだ。


「気になるのはその二人が無理矢理支配されているのか、それとも合意の上で支配されているのかだね」

「仲間なんじゃねえのか? じゃなきゃ他の二人は置いて一人で逃げるだろ。それに魔法()()無効化の腕輪をしてたってことは、双方合意の上での精神支配ってことだろ?」

「腕輪に関しては支配した後ではめることも可能なのでは? 一人で逃げなかったのも、あの二人が捨てるには惜しい駒だったからだと考えれば――」

「そうだね。どちらの可能性もあり得るね。一人は仲間で一人はただの手駒という可能性もあるし、現状では判断できない。瞬間移動に関してもあの三人の内の誰かのスキルなのか、それともどこか遠くで戦況を見ていた誰かさんによるものなのかも分からない。彼らについて調べようにも、どこにいるのかさっぱりだ。ああ、一応この街に一人居たんだったね。期待はできないけど後で行ってみようか」

「逆に相手さんは俺らの根城(ここ)についてある程度目星がついてるかもしんねえな」

「やだねえ本当。ハノレルートに集中したいんだけどなあ」


 狭者君が白神様ハノレルートを見たのは、まだ昨日のことだ。そう考えるとまさに昨日の今日で厄介そうな異世界族との邂逅なわけだが、タイミングが良いんだか悪いんだか。


「まあいいや。対ハノレルート組は引き続き準備をして、他のメンバーで異世界族連中の相手をするとしよう」

「なんだその組分け。聞いてねえぞ?」

「千蜜くんは異世界族の相手を頼むよ。ベイデルくんとリクエラちゃんもね。芻ちゃんは、昨日も言ったけど()()()でよろしく」

「かしこまりました」

「了解しました」

「了解です!」

「あいよ」

「あらあら皆さんお揃いで」

「ただいま戻りました」


 おや?


 声が二つ増えた。

 部屋の入り口を見ると、そこにはどこかで見たような腕輪をしたユネさんと、血生臭い気配のする大きな袋をサンタクロースみたいに担いだフェートさんが立っていた。




 ◇ ◇ ◇




「わ、わわっわっ、わっわわあ!」


 アホみたいな驚き方をしながらも、醍酢だいすは的確に動いた。

 まずは肉にしっかりと食い込んでいるブレスレット()()()()()を引きちぎるように腕から剥がし、手首から剥がした。二つの部位はこれで完全にお別れしてしまったが、遮るものもなくなった。切断面をぐじゅっと合わせて、彼女お得意の治癒魔法で無理矢理くっつけた。

 治してもらった門士もんしはお礼も言わず、糸が切れたように眠った。


 三人いる重傷者の中でまず彼を選んだのは体格の問題だろう。この中では彼が一番小柄で、すなわち血液量も少ない。人は三分の一以上の血液を失うと命が危ないらしいが、そのラインが一番近かったのが門士だったわけだ。

 それはまあ間違った考えではないし唯一の正解と言ってもいいんだけど、しかし彼が最初に眠ってしまうというのは、それはそれで問題があった。()()()()()()()()()()()()()()彼がオフ状態になると、どうなるか。


「「ぎゃああああああああああああああああ!」」


 耳を塞ぎたくなるわけだ。

 一緒に転生してきただけあって晴画はるえ通弦つうづるは見事にシンクロした絶叫を聞かせてくれたけど、まあうるさい。洞窟の中だからそれはもううるさいったらありゃしない。


「な、治しますから! 落ち着いて!」


 口を開けばアホっぽい醍酢だが、こと治療に関しては俺達の中で一番の実力だ。姦しく痛ましい二人に門士にしたように処置を施し、洞窟内に静穏を取り戻した。二人もやはり、こてんと倒れた。

 ここで眠っても寝心地は悪いだろうし何より普通に邪魔なので、三人を各自の部屋に転移させる。彼らを()()()()()()()()時のように、そして()()()()()()()()()時のように。


諒夕りょうゆう、一体何事があったんだい?」


 そう聞いてきたのは、これまで黙って見ていた巡だった。


 蚯蚓甕みみずがめじゅん

 異世界族による互助組織『神の導き』のリーダーであり創設者だ。俺も初期メンバーの一人ではあるが、巡の方が俺より二年以上長くこの世界にいる。呼び捨てにさせてもらっているが、歳も彼の方が二つ上だ。


 出会ったのは四年前、俺がこの世界に転生してすぐのことだった。どこぞの廃屋で目を覚ました俺がまだこの世界の住人を見付ける前に、巡は俺の前に現れた。自分以外にも転生者がいることに軽い落胆はあったが、早々に彼に会えたことは紛れもない僥倖だった。

 というのも、この世界には異世界族を殺し回っている謎の組織が存在する。俺たち『神の導き』はそんなおっかない連中から身を隠し、あわよくば逆に殺してやろうと牙を研ぐ異世界族の集まりだ。


 基本的には連中に目を付けられないようこの洞窟でひっそりと暮らしているが、名前も規模も構成員も活動範囲も分からない敵陣営の尻尾を掴むため、大陸中にアンテナを張っている。一部の血気盛んな仲間たちは、勝手に囮捜査のようなこともやっている。

 そして今日、地下に謎の空間があることで以前から目を付けていた交通都市メナメナより、呑気に道具屋なんかをやっている太倶仕たぐしから、怪しい男を見付けたと連絡があった。

 そんなわけでアジトにいた中でも戦闘能力高めの――


 『精神支配』の薄府はくふ門士もんし

 『百発百中』の鱈来たららい通弦つうづる

 『雲散霧消』の蒸島むししま晴画はるえ


 この三人を俺の『空間術』で送り込んだのだが……


「敵さんマジでヤバいよ。あいつらの攻撃全然効いてなかったわ」


 戦況は『空間術』を使って眺めていた。流石に距離があり過ぎて音までは拾えなかったが、視覚情報はばっちりだ。

 最初、3対2の状態では両陣営とも相手の攻撃を全て無効化していたようで、膠着状態が続いた。しかし途中敵が一人増えて、そこからは一瞬だった。


「手首もブレスレットも、指一本触れずにあの有様だぜ?」

「太倶仕の『錬金術』を超える物質加工能力か。そんなものが生まれつき(ナチュラルボーン)とは思えないよね」

「ああ。間違いなく異世界族だな」


 どうして同族殺しをしているのか。その理由は本人たちから直接聞かないと分からないが、どうせ聞いたところで納得できる理由でもないだろう。


「敵のアジトは?」

「それを調べる余裕がなかったんだよなあ。門士があのザマだからさ」


 できることなら敵さんが拠点としている場所を知りたかったのだが、今回はその余裕が無かった。門士たちの治療を優先したわけだ。


「悪いな」

「構わないよ。ただ……」

「ただ?」

「僕たちのアジトは相手にバレてるかもしれないけどね」

「え?」

「ぅええっ?」


 それは一体どういうことだ?

 この洞窟は交通都市メナメナからは滅茶苦茶離れた場所にある。もし相手に俺と同じような空間を把握する能力や、あるいは遠くを見る千里眼のようなスキルがあったとしても、ピンポイントでこの場所を見付けるのは困難なはずだ。ここまでは瞬間移動で戻ってきたので尾行もできないはずだし。

 どういうことかと頭を悩ませる俺に、巡は右手の人差し指を向けてきた。

 俺が左手に持っているブレスレットを指差して、こう言った。


「相手はそれを自由に変形ができるんだ。それならひょっとすると、発信機を埋め込むことだってできるかもしれない」

「なっ!」


 マジかよヤベえじゃんと驚いた矢先、血に濡れた床を掃除していた醍酢が巡の推察を否定した。


「え、えとっ! それはないかと……思います」


 築条ちくじょう醍酢だいす

 二年前、待望の治癒担当として『神の導き』に加入した女だ。喋り方からアホっぽい奴だと思われがち――というか俺がそう思っているのだが、彼女はアホっぽいだけであって決してアホではなかった。


「わっ、わたし! その、治癒だけじゃなくて鑑定もそこそこいけるんですけど、こっ、これには発信機とか目印とか、そういうのはまいみ……ないみたいです!」

「分かったからもっと落ち着いて喋りなよ」

「分かったからもっと落ち着いて喋れよ」

「うあう! すいみません……」


 まあこっちの位置情報がバレていないならそれは嬉しいことだ。ただどちらにせよ『神の導き』の存在は一部とはいえ認知されたので、異世界族殺しの連中は遅かれ早かれ潰しに来るだろう。

 俺たちはそれまでに迎え撃つ準備なり、こちらから仕掛ける用意なりする必要がある。巡は恐らく後者を選ぶだろう。


「ところで諒夕」

「なんだ巡」

「あの三人、もっと早く回収してあげても良かったんじゃないのかい?」


 確かにあれは許される中では最も遅いタイミングだったと思う。だが別にあいつらの苦しむ姿が見たかったわけではない。


「自力でどうにかできるならそれが一番だろ? 結局はどうにもできてなかったけど、一応門士のプライドに配慮したってわけよ」

「なるほどね」


 あとはまあ、最近の門士には自分のチートスキルに酔ってる感じがあったから、少しは痛い目を見ればいいという気持ちもあったりなかったり。


「でも、これはあくまで結果論だけど、ブレスレットを壊される前に退却するのが一番だったかもね」

「そっ、それは流石に早過ぎるんじゃないですか?」

「醍酢に一票。少なくともそれまでは膠着状態だったんだし」

「でも」


 巡は右手で再び俺の手元を、左手で醍酢の手元を指差した。


「直接は何もされていない君たちですら、ブレスレットを()()()()()()()()


 俺と醍酢は思わず互いの手首を見て、顔を見合わせる。

 いつも右手に着けているブレスレットを、俺は今左手に持っていた。醍酢は足元に置いていた。


「いずれ訪れるかもしれない最終決戦の前に見せてもらえたのが、まあ不幸中の幸いかな。これに変わる盾は、そうそう見つからないだろうけど」


 そう言って、とうとう巡もブレスレットを外した。奇襲対策として、寝ている間でさえ常に着用しろと『神の導き』のメンバーに指示していたその張本人が、外した――()()()()()()

 物理攻撃無効と魔法攻撃無効という普通なら地上最強の盾なのだが、相手が普通ではなかった。こちら以上に普通ではなかった。

 妙な肌寒さを感じていると、醍酢が急に大きな声を上げた。


「あのっ、巡さん!」

「どうした」

「太倶仕くんを一人にしておくの、まままま不味くないですか?」

「――っ! 諒夕!」

「おう!」


 そうだ。すっかり忘れていた。このブレスレットの制作者であり、今回怪しい男を見付けたと報告してきた嵩丈かさだけ太倶仕たぐし。彼は『神の導き』のメンバーかと言うと実は微妙なところなのだが、代えの利かない大事な協力者だ。殺されては困る。

 俺は急いで交通都市メナメナの方角に意識を集中させ、『東の商業区』にある彼の店へと瞬間移動した(とんだ)


「おー、来た来た」



右上腕 左膝 右目

鼻 左足首 右手首

 左肩 右脛 左耳

額 鳩尾              左目 髪

右頬 尻              右前腕 

左太腿               股 左手

唇 右手      え?      右脇 首

左足 背              左前腕 

 右太腿              舌 右膝

下顎 腹              左頬 腰

             右足 上顎 左手首

             右足首 左脇 右耳

             左脛 右肩 左上腕



「あは♪」



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