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男の子拾いました

 耳をつんざくような金属音とともに、私の頭、というかキャビンの屋根を襲ったのは、世間一般で言う『棍棒』ってやつらしい。


 ところが私には全くダメージ無し。

 

 その代わり、目の前で私に向けて棍棒を容赦なく振り下ろした存在が、多分そいつの両手を襲ったであろう痺れに棍棒を取り落とし、そこにうずくまっている。


 私はヘッドライトを操作し、そいつの姿を取調室の刑事さんのように、容赦なく照らしてみた。

 うずくまった存在は、どうやら子供のよう。

 

 すると子供は、健気にも私を睨みつけようとしたらしく、顔を上げたんだ。


 目が合う私と子供。

 

 ぎゃー!


 次の瞬間、子供は絶叫とともに気を失っちゃった。

 多分私の姿を見て。

 失礼ね。


 さて、どうしよっかな。

 

「とりあえず他に生体反応はないですから、この子を連れて、一旦外に出てみてはどうでしょうか?」


 そうね。ナビの言うとおりね。

 ところでこの子をどうやって連れて行こう?

 

「もともとのボディサイズでしたら、運転席や助手席に子供を招待することも可能ですが、『収縮コントラクト』中の今のサイズでは無理ですね」


 そっか。ならばこうしようか。


 私は何本かのナイロンスリングをハンモックのように編み込んでから、クレーンにぶら下げ、子供をその上に寝かせてあげる。

 ナイロンスリングというのは、繊維でできた幅広のひものようなもの。

 本来は傷つけたくない荷物を吊ったり固定したりするときに使用するのだけれどね。

 そしたらクレーンを優しくキャビンの背後に向け直し、子供を背中に吊りながら、ゆっくりと今度は階段を上っていったんだ。


 日差しが朝の爽やかさから昼の強さに変わるころ、子供はナイロンスリング製ハンモックの中で目を覚ました。


「あれ、ここはどこなの?」

「私の上」


 多分私の声は子供の脳に直接響いちゃったみたいで、子供は慌ててハンモックから飛び起きたんだ。

 その勢いでクレーンにぶら下げたナイロンスリングが大きく前後左右に振れてしまう。

 いきなり危ないよ! ほら、落ちちゃうじゃないの!


「いい、動いちゃだめよ」


 私の叱責に再び身体を硬直させた子供にそう言い聞かせ、ハンモックの上でビビらせてあげる。

 よしよしいい子ね。ハンモックがちょっと濡れちゃったのは内緒にしておいてあげるからね。


 私はクレーンを背中から再びキャビン越しにフロントに向け、子供をフロントガラスの前にかざしたんだ。

 ちなみに私のボディサイズは元の姿に戻してある。

 すると、さっきまでほんのちょっとだったハンモックを濡らす水分の染みが、徐々に大きく広がっていくのがわかる。


「ちょっと脅かし過ぎですよ」


 ナビの言うとおりね。ちょっと脅かしすぎちゃったかな。


 ハンモックの上でびびったまま可愛らしい水たまりをこしらえてしまった子供をあやすために、私は一旦クレーンを体の左側に回した。

 続けて助手席側のドアを開き、ハンモックを助手席のシートに近付けてあげる。

「ほら、乗りなさい」


 すると子供は恐る恐るつぶやいたんだ。


「ボクを食べちゃうの?」


 あら、言われてみればこの態勢はそう言う風にも見えるわね。


「安心しなさい。私に人肉堪能カニバリズムの趣味はないから。それより中にタオルがあるから、それでお尻を拭きなさい」


 そう言ってから、私はクレーンを優しく操り、ハンモックをシートに向けてゆっくりと傾けてやる。

 すると重心がうまく移動したのか、子供はころりと助手席に転がり乗ったんだ。


 それじゃ頼むねナビ。

 

「はい、かしこまりました。それではお嬢ちゃん、よろしいですか?」

「……」

「お嬢ちゃん?」

「……」

「お嬢ちゃん、よい子はお返事しなさいな」

「ボク、お嬢ちゃんじゃないもん!」


 あらま。


「これは失敗しました。お嬢ちゃんではなくてお坊ちゃんでしたね」


 ナビがそう言った時に私も初めて気づいたんだ。この子供が男の子だって。


 男の子は助手席の上で小さな身体を小さく身震いさせた後、覚悟を決めたかのようにそっと顔を上げて、ナビ画面を見つめたんだ。

 そこに映っているのは私の顔。ちょっと恥ずかしいな。


「こんにちはお坊ちゃん。驚かせてごめんね」


 私の声に男の子はあたりをきょろきょろし始めた。

 それはそうよね。多分直接頭に私の声が届いちゃっているだろうから。

 

「ところでお坊ちゃん、ここはどこなの?」

「え? ここはどこって?」


 ……。

 

 それもそうね。この状況でいきなり質問しても、適切な回答は期待できないわよね。相手は小さな子だし。

 

「まずは自己紹介からをお勧めしますよ」

 了解よ。


「私の名前はね、菅原すがわら ももっていうの。仲間は私のことを『モモちゃん』って呼ぶわ。今はこんな姿だけど、私だって、もともとは人間なのよ」


 すると男の子は変なところに反応した。


「人間?」

 はい、人間ですけど。君と同じように頭があって両手と両足があってさ……。

 すると男の子はナビが気を利かせて画面に映しだした私の全身写真を指差しんだ。

 

「この人があなたなの?」

「そうよ」

「それじゃ、あなたも短耳族なんだ!」


 短耳族?

「人間って何だかわからないけれど、短耳族ならわかるよ。短耳族黒髪種なんだね!」


……。


 どうやらこの世界には人間という概念がないらしい。


「そうなんだ。ところで君は?」

「ボクは短耳族銀髪種なの!」

 ナビ画面に映った私の姿に安心したのかしら。男の子は先ほどよりも少しだけリラックスした表情で、画面の私に答えたんだ。


「そっか、よかったらキミの名前も教えてくれる?」

「ボクを呪うの?」


 この世界でも名前は呪いに使われるのか……。

「呪わないわよ」


 そしたら一瞬何かを考えた様子の後、男の子はナビ画面に向かったんだ。

 

「どうせボクは食べられちゃっているもの。教えてあげる。ボクは『セラフィ』っていうんだ」


 へえ、そういえばどっかのフィギュアスケート選手にそんな名前の子がいたなあ。って、よく見ると超絶美少年だよこの子って!

 やだお姉さん、ちょっと嬉しいかも。


「盛り上がっているところを恐縮ですが、私の紹介もしていただけますか?」

 ああ、そうだったねナビくん。


「これはナビよ」


 私がセラフィにそう紹介すると、ナビから抗議の声が上がった。

 

「ちょっと待ってください、私にも名前はあるのです!」

「そうなの?試しに言ってみたら」


 するとナビの口調が自信満々な様子に変わる


「聞いて驚かないで下さいよ。私の名前は『連結型ジョインテッド誘導情報ナビゲートデータ支援装置サーバントステーション』というのです!」


「じょ? じょ?」


 無駄に長いわね。セラフィも困っているわ。


「なら略して『ジョナサン』でいいです」


 略していいのね。

 

「モモちゃんさんとジョナサンさん……」


 セラフィと名乗った少年が、私とナビの名前を恐る恐る繰り返している。

「『さん』はいらないわよ」

「それじゃモモちゃんとジョナさん?」


 するとナビが抗議の声をあげた。

「『ジョナさん』じゃなくて『ジョナサン』でいいです。これ以上略さないでくださいね」

 微妙なところにこだわるのね。 


 あれ?

 これってどこかで聞いたことあるコンビ名ね。

 まあいいわ。


 それじゃセラフィ、キミに何が起きたのか教えてくれるかな?

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