8話
パトカーの中で渡されたタオルでとりあえずは髪を拭きながら、僕は少し思慮を巡らせていた。
少女のためとはいえ、両親を大分心配させてしまっただろう。
後悔はしていないが、申し訳ない気持ちは大きい。
少女の方はと言うと、胸に抱いた猫をタオルで拭きながら俯いている。
警官が来た時、一瞬たじろぐような仕草を見せたのが気がかりだった。
やがてパトカーがたどり着いたのは、街の外れにある大きな屋敷。
詳しくは知らないが、とりあえずデカくて目に付く建物なので僕も視界に入れたことぐらいはあった。
まさか、とは思うが
「お嬢様!心配しましたよ、今まで一体どこに!?」
漫画やアニメでしか見ないようなメイド服を着た女性が飛び出してきたのを見て、僕のまさかはあっさりと破られた。
呼ばれたお嬢様、もとい少女は面倒くさそうに女性の方を見返して、それから僕の方を見た。
「……」
……
僕の視線と少女の視線がぶつかる。
何か言葉を待つような、そんな視線に僕は出来る限りの笑顔を作って
また、明日
そう、少女に言った。
僕の言葉に少女は、初めて見せる無邪気な笑みで答えた。
「うん、また明日」
なんとなくそんな気はしていたけれど、次の日も、その次の日も、少女は現れなかった。
誰もいない河川敷でガムを膨らませて、しばらくして帰る。
明日は、明後日は、明々後日は、と。
僕には彼女を忘れる事なんて、出来なかった。