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第1話

「またここにいるんだ」

「それはお互い様でしょ」


この春、僕は高校に入学した。

入学してからというもの、暇さえあればいつでも図書室に通った。いや、もっと正確に言うと、暇がなくても、むりやり時間を作って図書室に行った。クラスメートとの仲は良好だ。トラブルがあって教室から逃げてきたとか、そんな理由があるわけじゃない。ただ単純に、僕にとってはそこが居心地のよい場所だったからだ。

 僕が通う清清水高校きよしみずには大きな図書室がある。そんじょそこいらの高校にある図書室と比べてもらってはこまる。かなり立派、なんてもんじゃない。控えめに言って、異常なくらい充実した施設だ。まず、図書室という言い方が正しくない。一般的に、高校の図書室と言ったら、広めの教室といった程度のものだろう。

ここは違う。

なんと、独立した二階建ての建物が、図書館になっているのだ。そう、図書室ではなく、図書館があるのである。大まかにいうと、一階はいわゆる図書スペースとなっており、二階は、倉庫、会議室、学習スペースとなっている。おまけと言ってはなんだが、屋上にはなぜか、天文台があった。誰が使っているのかは知らないが、輝くドームの存在は、それだけで、図書館の外観を異様なものにしていた。

僕は、毎日のように、ここの学習スペースの一画に陣取り、読書をしていた。


四月。

入学してから間もないある日。

「いつもここにいるのね」

ちょっとからかうように、話かけてきたのは、トキと呼ばれている女の子だった。クラスメートの一人だ。それが苗字なのか名前なのか、あるいはあだ名なのか、その時はわからなかった。けれど、彼女が友人からそう呼ばれているのは聞いたことがあった。同級生であることは、間違いないのだが、クラスで口を聴いたことはない。

「うん。本を読むのが好きなんだ」

我ながら、しょうもない返事をしたものだと思う。でも、その時は突然のことに、驚き、慌てて、一言、そう言うのが精いっぱいだった。

「私も好きよ」

言葉の響きにドキッとした。

「ここなら、いくらでも本が読めるし。静かだし。景色も悪くないし」

「そうだね」

またもや、我ながらしょうもない返事をしたものだと思う。

「ねえ、知ってる? 向こうの階段から屋上に出られるの」

知らなかった。考えてみれば、図書館のこの場所以外のことは、何も知らない。


その日以来、図書館の中だけの、不思議な友情が僕らの間に成立した。いつの頃からか、僕は彼女のことを「おトキさん」と呼ぶようになった。


「またここにいるんだ」

おトキさんはいつも僕にそう言って話しかけた。

「それはお互い様でしょ」

そして僕が答える。ここまでは、挨拶みたいなものだ。僕らの会話はいつも、ここから始まった。実際、彼女は、僕以上に、この図書館に入り浸っていた。そのあとは会話が弾むわけでも、一緒に勉強をするわけでもなく、彼女は、いつもの窓際の席に座って読書を始めた。


季節はめぐり、いつの間にか秋となり、そのわりには窓の外はあたたかい日差しであふれていた。散り始めた落ち葉の中をくぐるように、ヒヨドリが鳴きながら飛びまわっていた。

毎日、同じ席に座っていると、いつのまにか、この席は僕のものと認識され、常連の生徒は、僕のためにその席を空けるようになっていた。同じように、おトキさんの席も特別枠となっており、彼女以外は誰も座らなくなっていた。


この席から眺める景色が大好きだ。もともと、清清水高校は、高台に位置していた。そのため、二階建ての図書館からでも、この街のほとんどすべてを見ることができた。

街だけでなく、遠く南の空の下には、富士山や南アルプスを見ることもできた。夕暮れ時、赤くなった太陽の光を反射する山々の姿には、神秘的な美しさがあった。


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