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『先生、仕事ですか?恋ですか?』――女性が苦手なTL作家は、なぜか私にだけ距離が近い   作者: 古東 白


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番外編『もう一度、あなたと水族館へ』

 

「え⋯⋯一年経ったから水族館デートに、ですか?」


 今日は、私も咲人さんも仕事はオフの日だ。

 咲人さんの部屋でお部屋デート。

 まあ、ただまったりしているだけ、ともいうのだけど。

 それより、さっきの言葉。


「そういえば、あれから一年ですね。そんなに水浴びしたいんですか?」


 そう言うと、咲人さんは分かりやすく拗ねた。


「ち、がーう!」

「え、じゃあ何ですか?」


 咲人さんの否定の意味が分からず、首を傾げた。


「一年ってのは、デートの口実だよ。桜と出かけたい⋯⋯もうすぐ、初デート記念日だろ」


 顔を背けながらも、チラっと横目でこちらを見る咲人さん。

 ⋯⋯なるほど。


「そういえば⋯⋯って、あれ初デートに入るの?」

「わかった。それなら、やり直し水族館デート。ちゃんと休みとっておけよ」


 頷くと、とても良い笑顔で抱きしめられた。



 ◇◇◇


 水族館デートの当日。


「おー、今度はちゃんと歩きやすくしてきたんだな」


 咲人さんは、ラフな格好なのにやっぱり周囲の目を引いていた。


「前は、いきなりだったから!」

「よし!行くぞ、桜」

「ちょっ!」


 私が文句を言う前に、咲人さんが私の手を取り歩き始める。

 せっかくのデートだし、文句を言うより楽しもう!と、とりあえず気分を切り替えた。


 電車に乗ってる間、うとうとして二人で肩を寄せ合って寝てしまった。

 ハッとして起きたあとに口元に手を当てる。


「口元は、大丈夫」


 涎は垂れていない。

 隣を見ると、咲人さんはまだ目を閉じている。

 一年前には、こんな肩を寄せ合って電車に揺られるなんて思っても見なかったのに。

 縁って不思議だ。


「ん⋯⋯桜?⋯⋯駅、着いた?」

「もう少しだけど、そろそろ起きておいたほうが良いかも」


 そう言うと、咲人さんは「ふぁあ⋯⋯」と欠伸をひとつした。


 間もなく駅に着いて二人で手を繋いで歩く。

「桜、寝てる時よだれ垂れてた」

「嘘。起きた時確認したけど、大丈夫だったもの」

「俺が拭いてやったからな」


 ニヤリと笑う咲人さんに慌てた。

 かあっと顔が熱くなる。 


「う、嘘っ!」

「嘘です」

「くぅ〜〜!もうっ!!」


 私が片手を振り上げると、咲人さんは声を上げて笑った。



 ◇◇◇


 水族館に着いて、一年前と同じコースで周る。

 少しだけ展示物が変わっていて、クラゲの水槽の前もベンチが増えて、人も多く賑やかだった。


「前は静かに見れたのに」

「それは仕方ない。何事も変化はつきものだろ。俺たちみたいにな」


 咲人さんは、私の顔を見つめて繋いだ手に力を込めた。


 その後、イルカのショーを観るためにレインコートを買った。


「え?こんなのいらないだろう。すぐ乾くって」


 そんな事を言う咲人さんに、私は「必要!」と絶対譲らなかった。


 イルカのショーが始まり、水かけが始まった。

 私たちの席はショー用の大型プールの最前列。


 咲人さんがどうしても、と言うので私が折れた。


 ショー司会のお姉さんがマイクでカウントを取り始めた。


『では!皆さん、覚悟はいいですかあ〜!3、2、1、GO!!』


 バッシャーーーン!!


「うっ!!」

「わっ!!」


 イルカが尾びれが跳ね上げ、こちらへ大量の水をかけ始めた。

 思った以上に水の量がすごい、ぎゅっと思わず目を瞑った。

 レインコートなんてあまり役に立たないんじゃない!?


「もう、びしょ濡れって、濡れて⋯⋯ない?」



 濡れたと思ったのは、レインコートからはみ出た髪の毛だけだ。

 顔を上げると、咲人さんが私を抱きしめて水飛沫から守っていた、らしい。

 咲人さんのレインコートはびっしょり濡れていた。


『最前列のカップルのお二人!どうでしたか!?』


 別のスタッフさんが横からマイクを差し出してくる。


「あー、面白かったです。迫力が最高でした!!」


『彼女さんを大量の水飛沫から守るなんて、素敵な彼氏さんですね!彼女さんから、何かひと言を!』


 急にマイクを向けられ、しどろもどろになる。


「え、えーっと⋯⋯次は、私が守ってあげます!」


 マイクを通した私の声が会場に響き渡る。


「⋯⋯ぶはっ!」


 咲人さんが隣で盛大に吹き出した。

 会場から生暖かい視線を感じる。どこからか、「きゃー!」やら「羨ましい」と聞こえた気がした。


『うふふ。ラブラブですね!またご一緒にいらしてください!ではでは、もうお一人感想を頂きましょうか!そこの男の子――』


 司会者が次の人へと目を向け、会場の人たちもそちらへ視線を移動させる。


 私一人だけ、恥ずかしい気持ちに包まれている。


「い、いたたまれない」


 その時、温かさがぎゅっと私の手を包んだ。


「はは、最高」

「⋯⋯私のいたたまれないコメントが?」

「桜と一緒にこのショーを体験出来たことだよ」

「それは、私もそうだけど」

「桜が緊張してコメント言ってる顔も可愛かった。次は一緒に水飛沫を浴びようか」


 屈託ない笑顔を向けられて、思わず頬に熱が宿る。

 恥をかいたと思ったのは私だけだったみたい。


「来年も楽しみだな」

「えっ、来年も?!」


「当たり前だろ。そうだ、恒例行事にしよう」

「恒例行事って、そんな」

「子供連れてくるにも丁度良いし、最終的に家族皆で水浴びだ」

「えっと、それは⋯⋯そういうことですか?」

「こんな姿で格好つかないけどな。結婚しよう桜」


 突然のプロポーズに手が震える。

 嬉しくて涙が滲んで視界が歪んだけど。

 水で濡れてるから誰にも気づかれないはず。

 でも、周りをちらりと見て声を落とした。


「でも⋯⋯人がたくさんいるところでプロポーズなんて」

「大丈夫だ、この後も何度かするつもりだから。楽しみにしててくれ」


 良い笑顔で断言されてしまった。

 私は釣られて笑ってしまう。


「返事は決まってるけど。プロポーズが全部終わるまで待ってあげます」


 少しだけ意地悪を言ってみたくなった。でも、咲人さんは、私の言葉を受けてこう言ってきた。


「死ぬまで言うつもりだから、返事はすぐにくれ」


 その物言いに相変わらず強引な、と呆れてしまう。

 けれども、ぎゅっと力を込めた咲人さんの手の感触に心の中でふふっと笑いが漏れた。

 顔には出さないように努めて、咲人さんを見つめる。


「分かりました。咲人さんと、死ぬまで一緒にいてあげますね」

「約束だからな」

「はい、咲人さんも」


 二人で見つめ合って笑い合うと。


「ちゅーしないの?」


 幼い声がした。

 目の前には、小さな男の子が座って見上げている。


「こら!邪魔しないの!すみませんっ」


 お母さんらしき女の人が慌てて男の子を連れて行く。

 その、二人を目で追うと。


 大勢の人達と目が合った。


『お二人とも、プロポーズ成功おめでとうございます!このお二人の行く末に盛大な拍手を!』


 ワーッ!!と、会場内から大きな拍手を貰う。


『さて!幸せなお二人を眺めつつ、ショーはこれにて終了といたします。皆様、ありがとうございました!お二人の新たな門出にも幸あらんことを!あっ、ちなみに水族館では結婚式も挙げられますから、どうぞご検討くださーい!』


 最後に司会者のお姉さんは宣伝文句で締めくくった。


「⋯⋯穴があったら入りたいです」

「桜が行くところなら、どこにでも行くから。顔上げろ」


 恥ずかしくて下を向いていた顔を上げさせられると、頬に柔らかいものが当たる。


「この流れでキスですか!」

「この流れだからだろう?」


 こうやって、この人には振り回されていくのだろうか。

 まあ、それもいいかもね。

 来年も再来年も、ずっと笑い合えますように。



これで終幕です。

お読み頂き、ありがとうございました!m(_ _)m

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