ため息5
「占いのリハーサルをした」
「ふーん、それで? さぞかしできたんでしょ」
「逆だよ。俺ができなかった」
「なんで?」
「占えなかった。どうしても」
「どうしてよ?」
「何だか気が乗らなくて、途中でやめた。相手の女性には謝ったけれど」
「相手は怒ったでしょ。せっかくリハーサルしてるのにプロだったら占えって怒りそう。日頃、自信満々で言いたいことを言ってるのにね」
「親父の子供だから、表立って言うわけないだろ。参加するのは楽しそうだとは言っていたけれど、俺がどうしても駄目だ。彼女とは波長が合わない」と言ったので驚いた。
「波長?」
「駄目なんだよ、どうしても」
「綺麗な人なんでしょ」
「学園祭向けにお祭り好きの派手好きのプロキオンの女性占い師に頼んだけれど、何だか駄目だよ。ショー向きだとは思う。でも、俺と相性が合わない」
「じゃあ、他の人に頼めば」
「無理だよ。他の人でも駄目だと思う。それは分かるから」
「何が分かるの?」
「お前じゃないと無理だと分かってるからだよ」と言い切られて、さすがに恥ずかしくなった。声が大きかったので、
「別れ話のもつれみたいだよ」と言う声が聞こえて、そっちをみたら、学生らしい女の子がここの個室を覗いていて、私と目が合ってから、慌てて逃げていった。
「別れ話にされちゃってるね」
「いいだろ。本当のことだ」
「どこがよ」
「お前に振られてから元気がなくなったし」
「あなたが?」
「この辺に、穴が開いているような気がして」と胸の辺りを指差していて、飲んでいた紅茶を噴出しそうになった。
「考えておいてくれよ」家まで送ってもらってから、改めて学園祭に出るかどうかを聞かれて、返事ができなくて、
「お前と一緒にいると楽しかったよ。お前に出会えてうれしかった。それだけは本当だ」東条さんが珍しく真面目な顔をして言ったけれど、辛くて顔を背けた。
「ごめん」謝ってくれたけれど、頭を下げて、車を降りた。