夏の経験3
「友達の紹介でひと夏だけの恋だったな。恋でもないかもしれないけど」
「相手の子がかわいそうじゃないかな?」
「俺のほうがかわいそうだ。デートに誘って断られて、あんなやつと」
「ごめんなさい」
「悪い。言わない約束だったな」神宮寺が謝ってくれたけれど、
「あれから、あいつから連絡は?」と聞かれて、連絡があっても呼び出しがあっても断ったと教えたら、
「それでいいさ。あいつは適当に遊んでおしまいだってさ。お前以外にもいくらでもいたらしい」
「実態は知ってるよ。何度か見かけたから」
「だったら、あまり深入りするなよ」
「分かってる。調子がいいだけの軽い男だって分かってるし」
「ふーん、そう言えば、何か、武道やってるのか?」
「さあ、聞くのを忘れてた」
「あいかわらずだなあ」
「そこまで興味ないから。あいつの占い師としての力量は知りたいし、参考にしたいだけだから」
「お前って、意外とそう言うところはちゃっかりしてるな」
「お姉ちゃんには負ける」
「結婚相手って見つかりそうか?」
「無理、みたいだね」
「料理や家事を覚えるところからしたほうがいいかもな」
「お母さんと同じことを言う」
「女性らしい雰囲気が出てくるかもしれないだろ。男は母親と同じような女性と結婚したがるって、親戚の人が言ってた」
「うっそだー」
「俺も良く知らない。ただ、俺も母親のような優しい料理上手な女性のほうが好み」
「へえ、そうなんだ? 意外」
「学園祭が終わったら付き合えよ」と言われてむせた。
「考えとく」
「そうしろ。あいつだけはやめておけよ。絶対に」
「言われなくても、そうする。ちょっと苦手だからね。見下すタイプのお友達と付き合ってるのが良く分からなくて」
「ふーん、あいつ、何考えてるんだろうな」と神宮寺が言ったので、やっぱりこっちが普通の感覚なんだろうなと改めて思った。