厳しい世界1
本屋でバイトをしていた。さすがに見習いだけでは旅行代が貯められないので、先生に相談して、先生がよく行く本屋を紹介してくれた。そのバイト先から帰ったら、母が珍しく夕食の用意をしてくれていた。お客さんがほとんど来なかったらしい。
「開店休業だね。夏休みだと言うのに」とぼやいた。秋さんは来ていない。母が、
「早く学園祭のチラシを配ってちょうだい」と、この間と逆のことを言う。姉とそういうところは似ている。その場に合わせた発言をする。結構、調子がいいところもある。
「無理。できれば出たくなくなった。あの人、知れば知るほど、お母さんの言うとおり。薄っぺらさが目立つ」
「親子で似ているわね」
「なにがあったの?」と聞いてみた。何度か聞いては見たけれど、「そのうち、教えるわ。ちょっとね」としか言ってくれなかった。
「子供は知らなくてもいいの」
「ふーん、お父さんと知り合う前?」と聞いたら、
「あなたは時々勘が良くなるからね」と呆れていた。どうやら、当たりらしい。
「勘って大事かな?」
「そうねえ、占い師としても女性としても大事かもね。鈍すぎて二股掛けられたら嫌でしょうし、利用してくる男がいたとしても途中で気づかないと困るからね。でも、勘が鋭すぎても、これも困るのよね」
「どうして?」
「電話の着信音だけで女性からかどうか見抜ける」と言ったので、
「ははは」と笑うしかなかった。私は母にこういうところは似ているようだ。私もそういうところがある。ただ、分からないときも多いから、占い師としては困るけど。