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Fortune-teller  作者: marimo
10.バイトの理由
42/266

バイトの理由4

「いつまで、待たせるんだよ。おせえよ」と橋添先生の孫と言う人が、ずっとぼやいていて、やがて先生が戻ってきて、

「おせえよ」

「その言葉遣いはやめなさい」と先生が優しく言ったけど、

「あんたに言われたくないね」と女の子がにらんでいた。

「早くしろよ。待たせてるんだからさ」とその子が言ったけれど、

「言葉遣いを直さないと駄目だ」と先生に言われて、渋々、

「次から考えてくるよ」と言って、先生に手を出していた。先生が上着から封筒を出したらひったくるようにして、中身を確かめていた。札束だった。一万円札が何枚も入っていたので、びっくりした。

「何だよ、言った金額より少ないじゃないか」と女の子が怒っていた。

「さすがにそんなに渡せないよ。友達が病気と言うのは本当か?」と聞いていた。

「ある意味、病気。じゃあな。また来るよ」

「言葉遣いを直しなさい」と先生が言ったけれど、女の子は聞いておらず、さっさと店から出て行った。

「悪かったね」先生が言ったけれど、何も言えなくて、

「渡さないほうが良かったんじゃないのかい。あれじゃあ、遊ぶ金にしか使わないよ。病気とは思えないよ。友達が病気なら、その友達の親に頼るだろうし」と近所の奥さんが言っていたけれど、先生はため息をついていた。

「あなたのお金が目当てだろうね。縁は切れているんだから、渡さないほうがいいよ。あの子はどんどんエスカレートして、金をせびりに来るだろうし、そのうち、よくない友達を連れてくるかもしれない」

「そうは言うけど」先生が困っていた。

「やめたほうがいいよ。いくらお金が余ってるとしてもね。それぐらいなら店を立て替えたりしたほうがいいよ。真珠ちゃんだって、綺麗なお店のほうがうれしいだろ」と言われて、先生を見た。

「いや、ここはこのままでいいよ」

「物騒な世の中だよ。あの子の友達が来たら困ることになるよ。知り合いでいたからねえ。金の無心されたらしくて、親も見離しているような子だったから、大変そうだったよ」

「困っていると言うからね」

「人がいいねえ。橋添さんもああいう人に狙われやすいからね」と言ったので驚いたけど、近所の人はそのまま帰っていった。

「見苦しいところを見せて悪かったね」

「いえ」

「あの子の親とはずっと会ってなかった。若くして結婚したけれど、妻は僕に愛想をつかして、別の男性と結婚してね。あの子も私とはほとんど会ったこともないぐらいだったが、誰かに聞いたんだろう。親には内緒で連絡をくれてね」

「そうですか」

「でも、つき離せなくてね。苦労したようでなじられてしまって」

「苦労?」と言ってから、

「すみません」とうつむいた。

「妻は再婚相手に逃げられたそうだ。それから苦労したようだけど、娘には一度も会わなかったからね、事情があったから」

「そうですか」

「あの子にお金を渡さないほうが良かったかもしれないな。一度目は後ろめたさもあって、小額だったので、つい、渡してしまった。二度目から、あの口調になった。でも、今度のことも嘘かもしれないな」

「大丈夫でしょうか」

「もう、渡さないよ。私は自分で使うことなんて知れているから、罪滅ぼしのつもりで渡してしまったけど、本当は渡さなければ良かったよ」と先生がため息をついていた。


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