必要な場所4
「元? 今じゃないの?」
「お前の母親と同じだよ。後腐れはないよ、彼女のほうは」
「母親?」
「親父に聞いてみた。『藍子』なんて名前は珍しいから覚えているだろうと思ったら、反応があった。多分、昔の彼女だな。お前の母親の態度はそう見えた」
「えー、ないよ。母の好みと逆だよ」
「好み?」
「父は優しくて野心家じゃないもの」
「親父は野心家と言われたらそうかもしれないけど、態度は洗練されていると思うけど」
「そう? テレビで見たときは、そう見えたけど」
「母親の解説つきでだろ。そうすれば色眼鏡で見るに決まってる。学校の先生を見下している生徒の親も先生を信頼してないことが多いからね」
「そうだっけ?」
「それと同じだよ。だから、親父と直接話してから意見を言えよ。自分の意見をね」
「そう言われても」
「自分の目で見て確かめてから言えってこと。第一印象だけで決めるな。話してみたら性格が違うことなんていくらでもあるからな。ただ、そのままの人も多いけど」
「あなたの友達とは話してみたいと思えない」
「口に出すなと言っただろ。あいつらに根にもたれるとやっかいだ」
「そういう相手とどうして付き合えるのかが不思議」
「そうか。お互い似たような価値観だと違和感はなくなるだろ」
「あなたも同じなんだ?」と聞いたら黙った。
「女性に対しても、それほど好きになったことがないのかもしれないね」
「知ったような口を利くな。恋愛初心者」
「そのことは言わないで。何度も怜奈ちゃんに怒られた。人の恋愛を占っている場合じゃないって」
「あの先生のところにいても、そういう方面では占えないぞ。あそこの顧客は年配が多いから。お前は別のところに行けよ」
「別のところ?」と聞いた。