勘違い3
「ひどすぎるよ。神宮寺が心配してるから」神宮寺はしばらく車を追いかけてきてくれたけれど、そのうち姿が遠くになってしまい、角を曲がって見えなくなってしまった。
「大丈夫だって」と言っていたら、携帯が鳴って、出たら、
「すぐに降りろ。大丈夫か?」と聞いてくれたけれど、
「えっと」と東条さんを見たら、笑っていて、
「笑い事じゃないわよ」と怒った。
「おい、大丈夫なのか?」神宮寺が心配してくれて、仕方なく、
「大丈夫だから、このおじさんと一緒に行かないと。結構、しつこいの、このおじさん」
「何度もおじさんと言うなよ」東条さんが怒っていたけど、
「後で電話しろよ。心配だから」と言ってくれて、後で説明すると告げてから電話を切った。
「訂正しろ。おじさんじゃないからな」
「クラスの男子が、『オッサン』と言ってたよ。大学生に彼女を取られた男子だけど」
「ふーん、悔しかったら取り返せばいいだろ」
「無理。その男子、『お金がないから振られた』って言い訳してたけど、素行があまり良くないらしいから」
「そうか。お前の学校ってそこまで荒れてないだろ」
「ごく普通だよ。それなりにお金持ちもいれば、それなりに貧乏もいるからね。うちみたいに」
「なるほどな」
「あなたとは住む世界が違うから分からないだろうけど」
「いや、話は聞いているよ。お客さんで来るからな」
「そう。女性専門でしょ」
「違うけど」
「だって、男性を見かけないよ」
「少ないだけだよ」
「先生のところと違うね。秋さんも男性が何人か混じるよ。お母さんは年配の男性も占ってるし。あそこは若い女性ばかりだから驚いたもの」
「客層の違いだけだろ」そうかなあ? と首をひねってたら、
「雑誌にテレビで紹介されたら、お前のところもそうなるさ」
「昔は来てた。女子高生がいっぱい来てたときもあるけど」
「なら、分かるだろ」と言われて、横を向いた。
「どうかしたのか?」
「東条さん、男性に嫌われるタイプなのかもね」
「嫌われてないよ。友達は何人かいるし」
「神宮寺には確実に嫌われたと思うけど」
「時間が掛かりそうだから撃退しただけ。ライバルなら当然だろ」
「ライバル?」
「彼女にしたいって思ってるだろうから、あいつも」
「『も』じゃない。あなたはコレクションの一人に加えたいだけ。彼女じゃない」
「ずっと探してたんだ」
「なにをよ?」
「彼女になりそうな子を」
「意味不明」
「そのうち教えるよ。お前は貴重だからな。今までより長く掛かってるし」
「今まで?」
「それより、あの男のほうがお前向きかもな」
「どういう意味?」
「雪人って男より、はるかに脈アリだろ」
「あれで? 神宮寺は友達だってば。それに、あなたから助けてくれようとしただけ」
「彼氏の振りをしてまでか?」
「いいじゃない。善意の行動よ」
「善意ね。あいつ、お前のことが好きだろうな」
「どうして?」
「『雪人さん』と違って、怒ってたから。だから、言っただろ。気がある相手ならああやって反応があるって。見事に出てたな」
「神宮寺は友達だから怒ってくれたの。失礼なおじさんから守るための嘘をついてくれただけでしょ」
「お前、かなり鈍いんだな。それで占い師見習いなのか?」
「うるさい。それより、私を連れて行く意味がわからない」
「着いたら分かるよ」とうれしそうに笑っていて、
「あなたの行動がつくづく分からない。変な人」と言ったらさらに笑っていた。