033. 初恋と過去の因縁(4)
家に帰り、ベッドに寝転ぶと、今日一日の出来事を思い出す。すると、スマホが振動し、メッセージが届いたことを知らせる。僕は体を起こしてスマホを手に取る。
送り主は天宮紫乃で、内容は相談だった。この前の打ち上げで話していたゆきと会いたいという件だった。
【ゆきにも相談してみるよ】
僕はそう返信し、ゆきにメッセージを送る。もう寝てしまったかと思ったが……、すぐに既読マークがつき、返事が送られてくる。
【明日、ゆきに会いたいって子がいるんだけど放課後に時間あるか?】
【へぇ、私に会いたいって子がいるんだ。なら、明日の学校の帰りでもいいよ】
どうやらゆきは快諾してくれたようだ。まあ、もともと僕もそのつもりだったけどな。僕は紫乃にそのことを伝えると、お礼のスタンプを送ってきた。
僕は了承の意を伝えると、すぐに返事が来た。どうやら、明日にでも会えるらしい。場所学校帰りに渋谷駅で集合して、ゆきにも了承を得てランチを食べることになった。
メッセージを返信してから再びベッドに倒れ込み、天井を眺めながら考える。
ゆきが主演した映画を僕が鑑賞する日が来るのだろうか……。そんなことを考えると、少しだけ胸の奥が熱くなる。
それから、僕は目を閉じて眠りにつく。明日はまた忙しい一日になりそうだ。
☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆
月曜日、僕とゆきは学校を終えて、待ち合わせ場所であるハチ公像の前で待っていた。僕とゆきは制服のままだが、ゆきはいつものように可愛らしいバッグを持っていた。
それから数分後、天宮さんが現れる。彼女を見て、ゆきが震えるような素振りをしたので、僕は心配になってゆきの顔を見ると、ゆきはどこか不安そうな表情をしていた。
「あ、あの……、久しぶりだね、ゆきちゃん。元気にしてた?」
「………」
ゆきは何も喋らない。ただ、俯いて、黙り込んでいる。僕はゆきの肩を軽く叩くと、ゆきはハッとした表情で僕を見る。そして、小さく首肯する。
「大丈夫か?」
「ご、ごめん。私やっぱり帰るね」
そう言うとゆきは僕の横を通り過ぎて行ってしまう。僕は慌ててゆきを呼び止めるが、彼女は止まってくれなかった。
天宮さんは悲しげな表情でゆきを見つめていた。それから、僕に視線を移す。
「ごめんなさい……」
「いや、いいよ。それより、何か心当たりでもあるのか?」
「うん。実はね――」
天宮さんの話では、ゆきとは堀口高等学校で同級生だったという。しかし、ゆきは転校してしまい、それ以来一度も会っていないのだという。
ゆきは堀口高等学校ではいじめられていたという話を聞いていた。
「ゆきとはどういう関係なんだ?」
「私は友達だと思ってる。いつも助けてもらってばっかりだったなぁ……。私が困った時はいつもゆきちゃんが手を差し伸べてくれて……。だから、今度は私がゆきちゃんを助けてあげたかったんだけど……。結局、ダメだったみたい……。ゆきちゃんは私のことを嫌いになったのかな……。私は……、ゆきちゃんのことが大好きなのに……」
天宮さんは涙目で呟く。きっと、ゆきのことを本当に大切に思っていたのだろう。
だが、ゆきにとっては堀口での出来事は黒歴史なのだと思う。もし、僕が同じ立場だとしたら、絶対に思い出したくない記憶の一つになるはずだ。天宮さんは何も悪くはないが、ゆきにとってはそうではないのかもしれない。
「ゆきは別に天宮さんのことを嫌っているわけじゃないと思うぞ…」
「でも、さっきも無視されてたし、嫌われてるんじゃないのかな?」
「あれは無視とかじゃなくて、多分、戸惑ってたんだと思う」
「どうしてわかるの?」
「まあ、人間不信になるとああいう行動を取ったりするからだ。ましてや、天宮さんは堀口の制服着てるしな。ゆきだって昔の同級生が目の前に現れたらびっくりするよ」
僕がそういうと、天宮さんは少し安心したような顔をする。やはり、ゆきと復縁したいと思っているのだろう。
僕はゆきを追いかけることにした。このまま放っておくことはできない。それに、ゆきにはいろいろと聞きたいこともある。
「僕はゆきを追うから、天宮さんは待っていてくれ。そのうち戻ってくるよ」
「えっ、ちょっと待ってよ! 私も行く!」
「いや、悪いけど……、ここは僕に任せてくれないかな」
「私もゆきちゃんの側にいたいし、力になりたいのに……。ゆきちゃんは私が知らない間に変わってしまった。昔のゆきちゃんに戻ってほしいのに……」
僕は天宮さんの言葉を聞いて、少し違和感を覚える。まるで、今のゆきを否定するような言葉。ゆきは変わったのではなく、過去との決別を果たしただけだ。
堀口での話を口に出さないのはそういう理由があるからなのではないか。僕はそう思った。
「ゆきは今のままでも十分強いよ。それに、天宮さんが思っている以上にゆきは成長しているよ。だから、信じてあげてほしいんだ。ゆきが戻ってきた時に、笑って出迎えられるように……」
「わ、わかった。ゆきちゃんのことお願いします。それと……、ありがとうございます。ゆきちゃんのために……」
天宮さんは深々と頭を下げる。僕はそんな彼女に優しく微笑みかけると、彼女が逃げていった方角に駆け出した。
僕は一応ゆきに電話をかけてみる。だが、出なかった。電話に出ないなら直接会うしかない。僕はそう思って、渋谷の街を走り抜ける。




