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アイドル歌手と苦労が絶えない高校生マネージャー  作者: ともP
♠ 2.5次元アイドル
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023. ママと呼ばせたい人気漫画家(6)

 僕は目の前に立ち塞がるタスクの多さに毎日頭を悩ませていた。そして、念願の楽曲が天宮さんから送られてきたのはその翌日のことだった。

 既に8割完成していたミュージックビデオに最後のCメロパートが追加され、映像が作られるのを僕は待った。


 僕は完成までの間に曲をもう一度聞く。もちろん、優里には既に送ってある。

 この転調は聞き手を飽きさせない……、そして歌い手にとっては最も最難関のパートとなった。だけど、それは作曲者が『西宮優里』という歌手を高く評価しているからこそだと感じた。

 僕は何度も聞いているうちに、気付けば歌っている優里の姿が脳内に浮かび上がってきた。


 そして、ようやく完成した新曲『夢見る少女に花束を』のミュージックビデオを見て、僕は息を呑んだ。


 白い花束を持った少女がゆっくりと歩く。その先には満開の花が咲き誇っている。少女は花畑の中に入っていき、花を摘み取る。

 少女は微笑む。しかし、その表情はどこか寂しそうだった。そんな歌詞の通り、まるで今にも消えてしまいそうなくらいに切なげで、悲しげな印象から転調で一気に明るくなる。

 まるで、雪解けの季節のように暖かい日差しが降り注ぐ中で、桜の木の下で楽しそうに踊る少女がいる。その笑顔は見ているだけで元気になれるくらい眩しかった。


 南條さんが描いた何枚かのイラストを編集で動かし、最高の出来に仕上げてくれていた。

 曲だけでは補い切れなかったストーリー性をミュージックビデオによって演出してくれている。これは、本当に南條さんに感謝しないといけないだろう。


「本当はミュージックビデオを作る前に作曲者である天宮さんと話できれば良かったんだけどね……。彼女にもこのMV見せておいてね。わたしが歌詞を聞いた想像で仕上げてるから……」

「はい、分かりました」


 僕が返事すると、南條さんはふぅっとため息をつく。あとは配信に向けての練習と優里が歌っている音源を収録するだけだ。

 ここからは僕だけの仕事ではなく……、優里の仕事でもある。僕は優里の方へと視線を向ける。彼女はいつも通りソファーに座って、指でリズムを取っている。


「優里、そろそろ収録用のスタジオ行くぞ」

「うん、分かった」


☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・゚*。・☆


 僕らはレコーディングルームに向かう。そこには既に機材が用意されており、いつでも録音が出来る状態になっていた。

 南條さんのコネで紹介してもらった音響会社のスタッフに挨拶をする。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね」


 スタッフに案内されてブースに入り、優里はヘッドフォンを装着する。


「それじゃあ、始めるよー」

「はい」

「はい」

「3,2,1……、スタート」


 優里の歌声がスタジオに響き渡る。その声は透き通っていて、綺麗なソプラノボイス。特に問題もなく、スムーズに収録は進んでいく。

 レコーディングも二回目なので、最初に比べると格段に上手くなっている。


「お疲れ様でした」

「うん、バッチリ録れてると思うよ」

「ありがとうございます」


 後はMVの方と収録した音源を重ねて確認すれば完璧だな。そんなことを考えているとMVの確認を依頼していた天宮さんから連絡が来る。


『確認してみたけど、凄くいい感じに仕上がってるよ!MVもイメージ通りに仕上がっちゃってびっくりしてます。なんか、脳みその中を覗かれてたみたい』

『それは言い過ぎじゃないですか?』

『ううん、本当にそう思うよ。私もここまで良いものができるとは思ってもなかった』


☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・ ゚*。・☆・ ゚*。・★・゚*。・☆


 西宮プロの事務所に戻ってきた僕は鞄を置いて、事務所の椅子に腰かける。


 天宮さんからのオッケーも出たので、これで準備は整った。MVをMusic Roomに投稿する準備も完了し、後は動画公開のボタンをクリックするだけである。

 僕は早速、Music Roomの動画投稿ページを開き、投稿ボタンを押す。投稿時間は午後8時くらいにすることにした。


 西宮プロの事務所には南條こより、天宮紫乃、西宮優里の全員が揃っていた。僕はなぜか投稿のボタンを押す係を押し付けられた。


「南條こより先生、初めまして。私、作曲家の天宮紫乃と言います。今回のMVとても素晴らしかったです」

「いえいえ、天宮さんの曲が素晴らしかったからですよ。こんなに素敵な曲を作れるなんて……、羨ましい限りです」

「そ、そんな私には勿体ない言葉です……」


 僕は2人の会話を聞きながら、隣にいる優里の表情を見る。優里は少し頬を赤くしながら俯いている。

 僕は優里の頭をポンッと撫でてから、二人のクリエイターに挨拶をさせる。


「えっと、今回歌唱担当させていただいた西宮優里と申します。今回は楽曲提供やMV制作など、様々な面でご協力いただきありがとうございます」

「主役は優里ちゃんなんだから、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。それに、私はただのいちファンだし……、天宮さんだって同じ感じでしょ?」


 南條さんは苦笑いを浮かべる。天宮さんは興奮した様子で優里の手を握った。


「はい、私実は優里さんの大ファンでして……、この話が来た時はすごく嬉しかったんです!」

「そ、そうなんですね……」


 優里は天宮さんから手を握られ、困惑している。南條さんはそんな天宮さんを見てクスッと笑った。

 僕もそんな様子を見て微笑ましい気分になった。そして、南條さんが口を開く。


「さて、これからの話をしましょうか。まず、優里ちゃんが初配信を行う日だけど……、改めて来週の土曜日で大丈夫よね。ちなみに配信予定時刻が午後8時半くらいだから……、そこから逆算して準備していかないとね」

「まぁ、そこは何とかなるでしょう。それより、問題はカバー曲の方ですね……」

「そうね……。まあ、音源は用意してあるからあとは本番にアクシデントがなければいけるんじゃないかしら」


 打ち合わせのようになってしまったが……、今回の本題は配信についてじゃない。僕は投稿しようとしていた時刻に差し掛かった瞬間に公開ボタンをクリックする。


「公開できた?」


 僕は無言で首を縦に振る。南條さんはスマホを確認して、満足げな顔をする。最初の一再生目は自分が取るんだと言わんばかりに……。

 南條さんはあんまり再生回数は気にしないと言っていた。でも、数字というのは目に見える指標であるため、どうしても気になってしまうものである。


 だが……、そんな心配を吹き飛ばすように、天宮さんが声を上げた。


「すごい!もう10万再生超えてる!!」

「えっ!?」


 南條さんは天宮さんの言葉を聞いて慌てて自分のスマートフォンを確認する。僕も天宮さんと一緒になって確認する。

 確かに天宮さんの言う通り、公開してからたったの数分しか経っていないのに、既に10万回を超えていた。僕たちが驚いている中、南條さんは平然な顔をしながら呟く。


「やっぱり、優里ちゃんの声は良いわねぇ……、もっと早くに知っていれば良かった」

「そ、そうですか?なんか、嬉しいな……」


 優里は照れ臭そうに笑う。優里自身もまさかここまで反響があるとは思っていなかっただろう。


「とりあえず、動画のコメント欄とか見てみる?」

「うん」


 南條さんの提案に優里は返事をして、3人でコメント欄を見ていく。僕も一応確認しておく。


『何これ、めっちゃ良い曲じゃん』

『神』

『天使』

『これは良作』

『中毒性高い』

『初配信ライブ楽しみにしてます』


 などと、たくさんの感想をいただいていた。中には優里の曲を聴いて、涙を流している人もおり……、そこまで感動してくれる人がいるのかと驚いた。

 やはり、優里の歌は凄いな。改めて実感した。僕は思わず笑みがこぼれる。すると、隣にいた優里も笑みを浮かべていた。


「どうしたの?」

「いや……、なんか嬉しくってさ。やっぱりこうやって認知されていくのはいいもんだな」

「そうだね……」


 優里の笑顔を見た僕は、心の底からそう思うのであった。僕は顎に手を当てながら考える。

 この活動を一回きりで終わらすのはなんか勿体ない。まあ、それを考えるのは配信が成功してからの話だな……。


 それからはMVの話や配信の話などをし、あっという間に時間が過ぎていった。

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