僕は夢を見た(79) 勇者無きエアリスの夜
消えゆくよしひろうの姿を呆然と眺めるフリージア。
ジア:「ヒロはどこに行ったのだ?」
レギオナ:「主殿は本来居るべき所に戻られました。」
ジア:「戻ってくるのか?」
レギオナ:「はい。戻ってきます。」
エルマ:「明日の朝には。」
ジア:「ヒロにこんな秘密があったとは…」
エルマ:「黙っていてごめんなさい。」
ジア:「ん?なんで謝るのだ?」
エルマ:「だって…こんな大事な時に…」
ジア:「気にするな。誰にだって秘密の1つくらいはあるだろう(笑)」
笑い飛ばすジアに少し困惑するエルマ。
ジア:「益々興味が湧いてきた。勇者なだけのことはある!」
ジア:「それにしても、問題は左翼だな。」
ジア:「誰か代わりの者を配置せねば…」
レギオナ:「それには及びません。」
ジア:「というと?」
レギオナ:「私一人で十分です。」
ジア:「ひ、一人でだと?」
驚くジアを横目に笑顔で頷くレギオナ。
レギオナ:「この刀に誓って。」
ジア:「面白い!ならばそこはレギオナに任せよう。」
エルマ:「私も左」
と言いかけたエルマの言葉をジアが遮った。
ジア:「エルマはライトの魔法は使えるか?」
エルマ:「初級の魔法ですね。使えます。」
ジア:「全力で使うとどのくらいの威力がある?」
エルマ:「このエアリスの草原全体を照らすことが出来るかと。」
ジア:「よし!それならばエナの部隊に付け。」
エルマ:「エナ様の部隊に?」
ジア:「そうだ、エナの魔法部隊にだ。」
ジア:「城郭の上からライトの魔法を全力で放つのだ。」
エルマ:「はい!」
ジア:「敵は必ず夜襲を仕掛けてくる。だから今のうちに休んでおけ。」
エルマ:「はい。」
ジア:「ヒロが戻った時に全滅していたとかでは笑えぬからな。」
ジアがエルマとレギオナの手を握る。
ジア :「ヒロが戻ってくるまで、何としても守り抜くぞ!」
エルマ、レギオナ:「はい!」
ジアのテントを後にするエルマとレギオナ。
エルマ:「じゃあね。レギオナ。気をつけて。」
レギオナ:「ありがとうございます。エルマ様。ご武運を。」
エルマはエナの居る城郭へと向かう。
エアリスの街の西門の内側へと入って行くと魔法部隊らしき人だかりがあった。
ロイ:「エルマ、久しぶり。」
エルマ:「あなたも加わっていたのね、ロイ。」
エルマ:「エカテリーナ様はどこかしら?」
ロイ:「さっきその辺に…」
と、ロイが振り向いて指を向けた先から元気の良い声が聞こえてきた。
エナ:「エッルマー!」
エルマに抱きつくエナ。
エルマ:「お久しぶりです、エナ。」
エナ:「うんうん、お久しぶりだねぇ。」
エナ:「聞いたよ~、ゴブリン共々騎士団を焼き殺そうとしたんだって?(笑)」
エルマ:「誰からその話を?(苦笑)」
エナ:「え?もうみんな知ってるよ?」
それを聞くと肩をガックリと落とすエルマ。
エルマ:「あ~…また変な異名が付きそう(ため息)」
エナ:「あはは。まぁまぁ、いいんじゃね?」
エナ:「エリーへのいい土産話になるし。」
エルマ:「あははは(棒)」
エナ:「それよりも、こっちこっち。」
とエナはエルマの背中を押し、焚き火の側へと連れて行く。
エナ:「寒かったでしょ?ここで暖まって。」
エナ:「さ、座って、座って。」
エルマ:「ありがとう。」
焚き火の側に座る二人。
エナ:「そう言えば…ヒロは?」
エルマ:「事情があって今はいないの…」
エナは何か感じるものがあったらしく、それ以上問いかける事はしなかった。
エナ:「いつ合図があっても応えられるよう今はゆっくりと休んでいてね。」
エルマ:「はい…」
暖かな火のそばにいると疲れのせいかウトウトし始めるエルマ。
そのまま深い眠りに落ちる。
エナ:「(お疲れさま。お休みなさい。)」
小さな声で語りかけ、ソーっとガウンをエルマの肩にかけるエナ。
その頃、レギオナは前衛左翼の真っ只中に独りポツンと立っていた。
よしひろうから預かった刀に語りかける。
レギオナ:「「風」、聞こえてるかしら?」
レギオナ:「聞こえているなら応えて。」
風:「聞コエテイル。」
レギオナ:「我らが主から私は貴方を託された。」
風:「承知シテイル。」
レギオナ:「貴方の持つ刀の奥義を私に教えてくれないかしら?」
風:「承知シタ。」
風:「心ヲ無ニシテ体ヲ我ニ預ケヨ。」
レギオナ:「分かったわ…」
体の力を抜き、何も考えないように頭を空っぽにする。
すると不思議な事に体が勝手に動き始めた。
刀を抜き、踊るように刀を操るレギオナ。
それが何度も何度も繰り返された。
レギオナ:「なるほどね…」
レギオナ:「ありがとう、「風」。」
レギオナ:「でも、これを主殿に憶えさせるのは一苦労よ?」
レギオナ:「というか絶望的かも。」
風:「フフ、我ガ苦労ヲ理解シテクレタカ。」
レギオナ:「ウフフ。今宵は共に踊りましょう。」
風:「承知。」
皆が思い思いの場所で睡眠を取る。
夜が更けるにつれ声や物音が全く無くなる。
冬の草原は虫の鳴き声すらないキーンとした冷たい静寂に包まれていた。
その頃、王都では…
闇に紛れて動く者がいた。
音も立てずに城内に忍び込む影が2つ。
警備で巡回する衛士を巧みにかわしながら上階へと進み行く。
影は最上階に着くと二手に別れた。
一人は王と妃の寝所へと向かい、もう一人はエリザベートの部屋へ向かっている。
王の寝所の二つ手前の部屋を2人の衛士があくびをしながら眠そうに守っていた。
その衛士に吹き矢を向ける影。
狙いすまし矢を放とうと息を吸い込んだその時、影の首に細いワイヤーを掛けるもう一つの影が。
レンジャーだ。
声も出せずに苦しみ足掻く影。
レンジャーがワイヤーを引く力をさらに強める。
影は体を二回ビクつかせた後に全く動かなくなった。
レンジャー:「もう一匹いたハズだが…」
エリーの部屋へ向かった影は難なく部屋の入り口まで到達していた。
真っ暗な中、そおっとドアノブを回す。
そして部屋の中へと入った。
そこはエリーの部屋の一つ手前の待合室だ。
そっと物音を立てずにエリーの部屋へと近づく影。
ハッと何かを感じ、振り返った瞬間、みぞおちにレンジャーの拳がめり込んだ。
そして痛みで声も出せない影の首に腕を回し取り押さえようとする。
もがく影が足をジタバタさせ、待合室の机に当たりガタッと大きな音を立てた。
その音に気付いたセナが隣の部屋から慌てて飛び出して来た。
セナ:「何者か!!?」
ネグリジェ姿で剣を2人に向けるセナ。
レンジャーが人差し指を口に当て、「シーッ」と静かにするようセナに合図を送る。
影はレンジャーにより羽交い締めにされていた。
レンジャーが小声で影に語りかける。
レンジャー:「(さて、どこの手の者か吐いてもらおうか。)」
影の口からカリッという小さな音がした。
そして「グッ」と声を出すとピクリとも動かなくなる。
レンジャー:「(しまった!!、毒か!…)」
影から手を離し立ち上がるレンジャー。
セナを一目見て目を反らす。
レンジャー:「なんと言うか…その姿はあまりに刺激が強すぎる。」
そう言われてあらためて自分の格好を思いだし、恥ずかしさの余り前を隠すセナ。
セナ:「も、申し訳ありません。」
レンジャーは恥ずかしさで敵どころではなくなったセナに話し掛ける。
レンジャー:「この事は口外しないように。特に姫様には。」
黙って頷くセナ。
エアリスでは草原の中、独り森を見つめるレギオナの姿があった。
新月の真っ黒な闇の中でレギオナの赤い瞳だけが輝いている。
時刻は夜中の3時になろうとしていた。
レギオナ:「動いた…」
独り小さな声で呟く。
同時に森の中から赤い信号弾のような物が打ち上げられた。
歩哨が「敵襲!!!」と大きな叫び声を上げる。
歩哨の鳴らすラッパの音がエアリスの大草原の静寂を破った。
「プアァ~~~!!!」
テントからジアが飛び出す。
ジア:「戦闘用ーーー意!!」
レンジャー:「戦闘用意!!」
テントから長槍隊、弓隊、弩隊が飛び出し、隊列を組んでいく。
エナがエルマに声を掛け起こした。
エナ:「エルマ、起きて。敵襲よ!」
三角座りで顔を俯いて寝ていたエルマの頭がハッと持ち上がった。
エルマ:「は、はい!」
立ち上がり城郭の最上段まで掛け上がるエナ達魔法部隊。
ジア:「ライト点けぇぇぇ!!!」
エナ:「ライト点けぇぇぇ!!!」
各々呪文の詠唱が始まった。
ロイ:「ライト!」
周囲十数メートルが明るくなる。
エルマ:「天にて瞬きし星の光。」
エナ:「ライト!」
周囲数百メートルが明るくなった。
エナのライトが前衛と森との中間くらいまでを照らす。
エルマ:「我が杖に宿りて光明とならん。」
エルマ:「ライト!!!」
エルマの杖から強烈な光がほとばしる。
草原と森との境界どころかそれ以上、数キロメートルの範囲を明るく照らし出した。
ジア:「あの光を直視すると目が殺られるぞ!!」
ジア:「伝達!光を見るな!!繰り返す!光を見るな!!」
ジアの命令を各々首尾隊の隊長が伝達していく。
前衛、後衛、それぞれが戦列を整えた。
しかし、左翼後衛からどよめきが起きる。
男:「ゆ、勇者様はどこへ行った!?」
その声を聞いたレギオナが目を細め、「チッ」と舌を鳴らす。
レギオナ:「主殿、お許しを…御身の姿をお借りします。」
レギオナの体が光輝き輪郭が変わっていく。
現れたのは真っ赤な具足、赤備えの甲冑姿。
よしひろうの甲冑を身に纏うレギオナ。
男:「勇者様だー!」
後衛:「おぉぉぉぉ!!」
一気に士気が上がる左翼後衛。
ゴブリン、オークも森から出てきて隊列を作っていくが、ライトの余りの眩しさに目を手で被って戦いどころではない。
???:「進めぇぇぇ!!!殺すぞぉ!」
謎の声が進軍を促し、オーク、ゴブリン達が渋々前に進み始めた。
そして走りだす。
ジア:「来るぞーー!」
騎士団:「おーーー!」
ジア:「レンジャー!ツーマンセル!!」
レンジャー:「御意!」
ジア:「ヒロが戻るまで、なんとしても守り抜け!!」
中央前衛で雪崩の様に押し寄せる怪物共を切り伏せるジアとレンジャー。
ジアとレンジャーの攻撃をすり抜けたゴブリン、オーク達は後衛の長槍隊により確実に始末された。
右翼騎士団はゴブリン達の勢いをラージシールドで受け止め、その頭を剣でもって粉砕していく。
騎士達の鉄壁の守りを抜けるのはゴブリン達には荷が重すぎたようだ。
レギオナの守る左翼前面に襲いかかる敵は自身に何が起きたのか分からないまま絶命していった。
人では出せない速度で踊るように敵の体を真っ二つにしていくレギオナ。
真っ赤な兜と頬当ての隙間から赤く灯った2つの目が覗く。
それがフーハーと白い息を吐きながら立ち塞がっているのだ。
正に鬼神の如く。
思わず後退りするゴブリン達。
レギオナは容赦無くそれを斬り殺していく。
絶命した怪物は魔封石へと化すため、前衛の足元には水色の小さな結晶だらけとなっていく。
戦いは既に3時間にも及んでいた。
東の空が薄っすらと明るくなる頃、今までとは違った怪物達が森から現れた。
それを見た後衛の兵達から動揺の声が上がる。
後衛:「あれは何だ?!オ、オーガだ!オーガがいるぞ!!」
後衛:「どういう事だ!?あのミノタウロスの数は!?」
エルマの放つライトの明かりにも陰りが見えてきた。
目に隈を作りながらも気力だけでライトの効力を保ってきたが、限界が近づく。
オーガの出現とともに森の中へと後退していくゴブリンとオーク。
その代わりにオーガを中心としたミノタウロス達が前進してきた。
オーガ:「ここで一番偉いのはどいつだ?」
ジアが前に進み出る。
ジア:「私だ!!!」
オーガ:「お前にいいものをくれてやろう。」
オーガ:「我が軍勢に忍び込んだ鼠だ!」
そういうと肩に担いだ人らしき物体をジアに投げつけた。
それをなんとか受け止めるジアとレンジャー。
受け止めた物を見てジアが震えだした。
それは敵の動向を探る為に放たれたレンジャーだったからだ。
まだなんとか息があった。
ジア:「マークス!」
マークス:「姫様…不覚をとって…しまい…ました…」
ジア:「そんな事はもういい!」
マークス:「申し訳…ありませ…ん…」
ジア:「マークス!もういい!喋るな!」
ジアの肩が怒りに震える。
マークス:「マークス…懐か…しい名…だ…」
マークスは傍らにいたレンジャーの顔を手繰り寄せ何かを伝えていた。
黙ってマークスの言葉を頷きながら聞くレンジャー。
レンジャー:「承知した。」
レンジャーに伝え終えるとジアの方に向きなおすマークス。
マークス:「姫様…姫…さ……ま……」
ジアの手の中で息を引き取るレンジャー(マークス)。
ジア:「!!!」
ジアはマークスの体を抱き締める。
ジア:「おのれぇ!!!」
ジアは剣先をオーガに向けて宣言した。
ジア:「貴様だけはこの手で殺す!」
オーガ:「小娘が!特に貴様は念入りになぶり殺してやる。恥辱のかぎりを味わうがいい。」
オーガ:「フハハハ!!殺戮の始まりだー!!」
オーガの命令で一斉に襲いかかるミノタウロス。
右翼の騎士団はミノタウロスの持つウォーハンマーにより薙ぎ倒されていく。
崩れる騎士団の隊列。
それでも果敢に攻め立て劣勢を挽回する騎士達。
左翼に攻め寄せたミノタウロスはレギオナにより速攻で全滅させられていた。
さらなる敵を求めて中央寄りに斬り込んでいくレギオナ。
ジア:「行くぞ!!」
オーガ相手に一歩も怯むことなく戦いを挑むジア。
オーガに突進した瞬間にオーガの手から光る丸い物体が放たれる。
オーガ:「ウィルオーウィプス!」
人間くらいの大きさでバチバチと音を鳴らす丸いプラズマのような物体がジアの目前に迫る。
レンジャーが咄嗟にジアを押し退けた。
ジアはなんとか回避することができたが、ウィルオーウィプスは真っ直ぐ後衛の方へ転がっていった。
長槍隊の男:「うわぁぁー!」
悲鳴を上げ後衛の長槍隊員が慌てて盾を構える。
しかし、盾ごと全てを消滅させながら後衛部隊の中心を通りぬけていくウィルオーウィプス。
悲鳴を上げることすら出来ず消滅していく弓隊員と弩隊員。
そしてエアリスの西門の扉を破壊すると消滅した。
この一撃で後衛の数十人が犠牲になった。
その様子を見ていたエナが慌ててジアの元へと走って行く。
オーガ:「チッ!外したか!」
レンジャー:「なんという威力!」
ジアの額から一筋の汗が流れる。
ジア:「くっ!出し惜しみは無しだ!」
ジアは剣を空に掲げて叫ぶ。
ジア:「七星剣!!」
剣自体が眩い光りを発し、そこから光の玉が7つ発生した。
そして剣の周りをくるくると回り始める。
対峙するジアとオーガ。
ジアに襲いかかろうとしたミノタウロスをオーガが大鉈で真っ二つする。
オーガ:「俺の獲物だ!!邪魔するヤツは殺す!!」
ジアと組んでいるレンジャーがジアに声を掛ける。
レンジャー:「姫殿下!」
ジア:「手を出すな!」
ジアとオーガが同時に動き出す。
ジア:「うぉぉぉぉ!!」
オーガ:「ウガァァァ!!」
「ガギン!!!」
ジアの大剣とオーガの大鉈がぶつかり合い、火花が散る。
その周りではレンジャーとミノタウロスが死闘を繰り広げる。
一匹たりとも後衛には通さないという気迫がレンジャーから感じられた。
が、何重ものミノタウロスがレンジャーに襲いかかる。
レンジャー:「クッ!!」
レンジャーが押し切られそうになったその時、真っ赤な物体がミノタウロスの群れの真ん中に落下してきた。
「ドドーーーーン!!」
衝撃波が周囲に広がり砂煙が立ち上がる。
そして砂煙の中から現れる赤い人影。
振り返るミノタウロス。
レンジャー:「よ、よしひろう殿か!?」
砂煙が収まり、赤く光る目が二つ。
口の辺りからは白い息が上がっている。
足元では踏み潰されたミノタウロスが数匹、光に分解され魔封石と化す。
レンジャー:「レギオナ殿か!」
現れたレギオナに一斉に襲いかかるミノタウロス。
それに対し、レギオナは体を回転させ、旋風を巻き起こす。
風に触れ肉片と化すミノタウロス達。
レギオナ:「フーーー…」
白い息を吐きながら刀を構え直すレギオナ。
ジア:「ヒロ?…いや、違う…レギオナ?「風」?」
オーガへとゆっくり歩みを進めるレギオナへジアが叫ぶ。
ジア:「助太刀無用!こいつは私が倒す!」
レギオナ:「承知シタ。」
と一言発し、残敵を倒すために右翼側へと飛翔するレギオナ。
レギオナの援護のおかげで再び攻勢へと転じるレンジャー。
そしてジアとオーガの死闘が再開した。
振り下ろした大鉈を苦もなく大剣で受け止めるジアに驚きを隠しきれないオーガ。
オーガ:「我が一撃を受け止めるのか?!」
オーガ:「その細腕で!」
ジアがニヤリと笑う。
ジア:「それだけだと思うなよ!」
ジア:「行くぞ!ひとぉぉぉつ!」
ジアの大剣の周りを回っていた光の球の一つが三日月形に変わり、オーガの大鉈を持つ腕を切り落とす。
オーガ:「ギァァァーー!!」
悲鳴を上げ、痛みに腕を押さえる。
その隙を逃さずジアがオーガの懐に飛び込む。
瞬間、オーガが左手をジアにかざし叫んだ。
オーガ:「ウィルオーウィプス!」
ジア:「な!!?」
勝ち誇ったような顔を見せるオーガ。
光の球がジアに向け放たれる。
その青白い光がジアの顔を明るく照らす。
その時、ジアの近くにたどり着いたエナが叫ぶ。
エナ:「プロテクション!!」
エナが発動させたプロテクションの魔法がジアを包み込み、オーガの放つ光の球はジアに当たる直前で弾けて消えた。
呆然とするジアにエナが叫ぶ。
エナ:「姉様!!」
ジアはハッと我に返りオーガへと突進し、勢いにまかせてオーガの腹に剣を突き立てた。
そして叫ぶ。
ジア:「六うぅぅぅぅつ!!」
残りの六つの球が三日月形に形を変えたオーガの体をズタズタに切り裂いた。
バラバラになり、崩れ去るオーガの体。
剣を大地に突き立て、片膝をついて息を整えるジア。
ジアはエナの方に向き直り、一喝した。
ジア:「手出し無用と言ったはずだ!!」
ジアの怒りに触れ恐縮するエナ。
エナ:「あ…ジ、ジア姉様…」
その時、ジアに一瞬の隙が生まれてしまった。
レンジャー:「姫っ!」
瞬間、レンジャーがジアの体に体当たりをした。
その場に倒れ込むジアの目の前に無数の血の球が現れ流れていく。
何が起こったのか理解できずに目を大きく見開くジア。
ジア:「あ?…ああ?…」
ジアは自身が倒れるのをスローモーションで見ているかのように感じていた。
そして、地面が体を容赦なく叩きつける。
ジア:「痛ーーー!」
何事かと体を起こしたジアの目前に、長い槍状な物で腹部を貫かれたレンジャーが立っていた。
その槍状の物を辿るとオーガの顔があった。
オーガの大きく開いた口、舌が槍の様に伸びていた。
ニタリと笑うオーガ。
オーガ:「邪魔し…おっ…て……」
オーガの頭が光の粒子となって消え行く。
同時に槍状の物体も消え、支える物が無くなり倒れ込むレンジャー。
体から血が溢れるように流れていた。
何が起きたのか理解したジアの手が小刻みに震える。
他のレンジャーはジアに敵を近づかせないよう戦いを続ける。
ジア:「あ…あ…あぁぁぁ………」
倒れたレンジャーの上体を抱き上げるジア。
レンジャーが「ゴフッ」と血を吐く。
レンジャー:「姫…殿…下……お怪我は…?」
ジア:「大事ない!大事ないぞ!」
レンジャーが手を伸ばす。
その手を強く握り絞めるジア。
途切れ途切れに言葉を発するレンジャー。
レンジャー:「エナ…姫を…お責めなさ…い…ます…な…」
ジア:「わ…分かった…。ヴィーゼル、分かったから、もう何も喋るな!…」
レンジャーの傷が致命傷だと理解したジアの顔が泣きそうになる。
レンジャー(ヴィーゼル):「ヴィー…ゼル…」
レンジャー(ヴィーゼル):「その名は…捨てまし…た…」
握ったヴィーゼルの手から力が抜けていく。
そして、全く動かなくなった…
ジアはふらつきながらゆっくりと立ち上がると、地に突き刺していた大剣を握る。
ジア:「エナァァァ!!!」
エナ:「はい!!」
オーガの残した朱色の魔封石を剣で指し示し言い放つ。
ジア:「それはお前に与える!!」
エナ:「え?…」
ジア:「この意味は解るな?!」
ジア:「大切に使ってやってくれ…」
エナ:「はい!」
涙を堪えながらジアの言葉に答えるエナ。
そして大切そうにその魔封石を拾い上げた。
エナの瞳から一筋の涙が流れる。
歯ぎしりし全身で怒りを露にするジア。
その怒りの矛先は自分自身だった。
自分が油断したせいで、この戦いのせいでレンジャーを一人、いや二人失う結果になってしまった。
もっと良い戦い方があったのではないか?
そう考えれば考える程、自分が許せなくなる。
ジア:「皆殺す!!行くぞ!!」
レンジャー:「ハッ!!」
その頃、騎士団はミノタウロスとし烈な戦いを強いられていた。
ミノタウロスの振るウォーハンマーに吹き飛ばされる騎士達。
突然、騎士の眼前のミノタウロスの背後が騒がしくなった。
旋風が巻き起こり肉片が空高く吹き飛んでいく。
ミノタウロスの群れの背後に深紅の鎧がチラチラと見えだす。
騎士:「よしひろう殿か!!?」
騎士:「勇者が来たぞ!!」
騎士団の士気が上がる。
騎士:「押せーー!!」
騎士団とレギオナの挟み撃ちで一気に形勢が逆転した。
あっという間にミノタウロスを全滅させる赤備えの鎧武者。
ヘイズ:「よしひろう殿!感謝する!」
騎士団隊長の感謝の言葉に無言で頷くレギオナ。
そして左翼へと向かいながら森から責め寄せてくるゴブリン、オークどもを撫で切りにしていった。
左翼ではレギオナ不在の間も隊列をしっかりと維持し、責め寄せる雑魚敵を全て退けていた。
中央ではジアとレンジャーが果敢に戦っていたが、数に押され気味となっている。
ジア:「チィ!数が多すぎる!!」
状況を見ていたアスター隊長が意を決して号令を出す。
アスター隊長:「後衛部隊に告ぐ!!」
アスター隊長:「我が部隊は姫殿下を援護する!!」
長槍部隊:「おーーー!」
アスター隊長:「前進ーーーん!!」
長槍部隊:「おーーー!」
前進を始める後衛の長槍部隊。
ジアとレンジャーの前に出てゴブリン、オークどもを蹴散らしていく。
困惑するジアに長槍部隊の一人が声を掛ける。
男:「あっしらにも戦わせてくだせい!」
体力的に限界に達していたジア、レンジャーが長槍部隊の後方でヘタリ込む。
同様に騎士団もしばしの休息を得ていた。
左翼のみが他と違い赤い鎧武者の独壇場と化していた。
男:「勇者さまは鬼か!?」
男:「たった独りで左翼の化物どもを一掃しやがる…」
男:「どっちが化物か分からないな(笑)」
空が大分白けて来た。
夜明け直前の空、日の出前の太陽が雲を明るく照らし出す。
それとともに敵の軍勢が逃げるように森へと撤収していった。
王国軍から歓声が上がる!
アスター隊長:「我らが勝利だ!!」
男(1):「守りきったぞー!」
男達:「おー!!」
男達:「姫殿下万歳!!」
男達:「勇者様万歳!!」
エアリスの長い長い夜が明けた。




