05
「マグノリア嬢がそなたを虐げたと。それは誠か?」
冷めた目をしている王に気づかず、生き生きと発言するマリアンヌ。
「はい!彼女は、殿下と仲良くしている私に嫉妬をし、嫌がらせをしてきたのです!殿下に近づくなと水をかけてきたり、殿下に作ったお菓子も踏まれたり………私たちの邪魔をするこのものにどうか処罰を!」
水をいきなりかけた、殿下への差し入れを無残に踏み潰された……ここだけ見れば、嫉妬から女子生徒を苛め抜く令嬢だっただろう。だが、クローチスは男だったら社交界1の貴公子だったのに………と言われ、男よりも、生粋の紳士と言われるほどに、女性に対して優しいのだ。ただリオンハルトに近づくだけなら、嫌味くらいですませた。しかし………
「その件なら調べがついている。………そなたはリオンハルトに対し、怪しげな薬を使おうとしたらしいな。香水、お菓子の中に調味料としても……。マグノリア嬢はそれを防いだまでのこと。そうだったな、リオンハルト。」
「はい、陛下。あの香水は水に溶けた状態なら効力を失います。それを知っていた我が婚約者は憎まれ役をかってまで、私を守ろうとしてくれたのです。」
おかしな方に進んでいるぞ?とクローチスは思った。それはマリアンヌも一緒だった。
クローチスからしたら、今回の舞踏会でリオンハルトから婚約破棄を受け、騎士となる予定だった。今断罪されるのはクローチスであったはずなのに……と彼女は考えた。
マリアンヌからしたら、何故自分に矛先が向かってきたのかわからなかった。王子は比較的親切だったし、好かれていたはずなのだ。
混乱を極めた彼女たちをおいて、話は勝手に進んでいく。
「それでは、男爵家の処罰はおいおい伝えよう。今は楽しき宴、みな楽しもうぞ!」
その言葉を皮切りに、中断されてたダンスパーティーが再開した。マリアンヌの生家の男爵家は退場。近衛騎士が見張りにつくことになった。
「どういうことだ、リオン!作戦はどうなったのだ!……私を、だましたのか?」
悲しげに見つめてくるクローチスにリオンハルトはタジタジになりながらも弁解する。
「……たしかに、婚約破棄はしなかった。でも、君の願いは叶えることができる!」
「どういうことだ?」
「これを見てくれ。」
そういいながらリオンハルトが開いた紙には以下のことが書かれていた。
『リオンハルト第二王子は学園卒業後、軍事機関、軍部長として所属することを認める。並びに、妻となるものには、夫を支えるために、ある程度の職務に対する自由を与える。』
「これって……」
「つまり、僕と結婚すれば、クローチスが騎士になっても問題がないんだ」
「………!」
晴天の霹靂。クローチスにはそんな考え自体出てこなかった。結婚をしたら騎士になれない。騎士になれば結婚ができない。それが当たり前だったからだ。
「どうして、ここまでしてくれるんだ……?」
涙まじりに問いかけるクローチスにリオンハルトは苦笑しながら口を開く。
「まさかここまで気づいてなかったとは……。僕はずっと前から君が好きだったんだよ」
君が、すき…。その言葉を理解した途端、クローチスの顔は真っ赤に染まった。
「な、何を!」
「好きになったのは、やっぱあの時だな。ほら、覚えてる?クローチスが剣の鍛錬をしているところに居合わせた時のこと。」
「忘れる、はずがない……」
クローチスにとって初めてだったのだ。家族以外の異性に、女なのにと否定されなかったのは……
ああ、そうか。だから私は素直に喜べなくなっていたのか。きっとその時から……
「僕はずっと好きだったクローチスと結婚できる、君は念願の騎士になれる。お互いにいいこと尽くしだろう?」
「そうだな……だが、一つリオンは勘違いしている。」
「……え?」
その時から私は……
「私もお前のことがずっと好きだったぞ」
お前に惹かれていたのだから。
これで第1部終了です。最後まで読んでくれてありがとうございました。今後、後日談を描くかもしれません。