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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
五章 プリズンブレイク
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抜け出せない監獄

令和、初投稿!

──天界。それは神の住まう地。


 豊かな自然と澄み切った水が廻る地。

 そこに神々は暮らしていた。


 人間界や魔界が荒れ、戦争が起ころうと、飢餓に苦しもうと、神々は恵まれた地で優雅に団扇を扇いでいたのだ。


「メタトロンよ──マナの製造は順調か?」

「はい。順調でございます」


「ならば良い。だが、気を抜くでないぞ? マナは神々と我々天使にとって大切な力の源である」

「十分承知しております」


 金髪を腰まで垂らした眼光鋭き男。大天使長補佐であり、天使達の中でもNo,2と言われているその天使の名は──


「ルシフェル様。お願いしたき事が」

「なんだ」


「マナの残骸が下界に落ち、悪い影響を与えています。残骸が濃い所など洞窟ができ、異形なる化け物が産まれてしまっております。何卒リサイクル施設の建設を早めて頂きたく」

「フンッ。下界がどうなろうと知らん! リサイクル施設はお前の肝いりだったな? だから急ぎたいのだろうが、これ以上の人員は割けん」


「ですがルシフェル様、下界の浄化は主神様も願う所であります! 建設を急げば、ルシフェル様の功績にもなるでしょう。すれば大天使長の座も──」

「黙れメタトロンっ!! お前が計らなくとも、何れ大天使になるのは私だ!! だが、主神様が喜ぶのも確かだ……良かろう、人員を増やしてやる。その代わり、建設完成を予定の半分で仕上げろ! 分かったな」


「はっ! 助力のほど感謝致します」

「ふんっ、下がれ」


 メタトロン呼ばれた黒髪の天使は、ルシフェルの言うままにその場を後にする。彼女はその足で、マナの残骸をリサイクルする施設──通称“世界樹”へと向かうため、翼を広げ羽ばたいた。


 神々や天使達が要する“マナ”は、体に力を与えるだけではなく、不思議な現象をもたらす原動力だった。


 そのマナを切らす事なく製造する施設が、天界には存在していた。連動する機械の力で製造されるマナ。マナは完成に至ると、工場の煙突から天界に広がり、神々や天使達の元へ届けられる。


 それが途切れてしまうと、神々や天使達の力は弱まってしまう。して、その製造と管理は重大な仕事であった。


 その重大な仕事であるマナの製造管理を任されていたメタトロン。彼女もまた大天使と呼ばれ、天使達の中でも大きな存在だ。そしてメタトロンは、大天使長補佐であるルシフェルの直属の部下でもあった。


(いやはや……ルシフェル様の前に立つと、いつも肩が凝ってしょうがない)


 メタトロンは、緊張で凝り固まった肩を自らほぐしながら、時空の歪んだゲートへと潜っていく。


 管理塔と呼ばれる塔の上空には、下界に向かうためのゲートが設置されている。魔界だろうと人間界であろうと、下界ならば何処にでも行けるゲート。


 帰りは、一部の神と大天使の数人しか持つ事を許されていない特殊な道具を使う事で同じようなゲートを発生させ、帰還する事が出来るのだ。


◆◆◆◆


「外側は出来たが、中はまだまだ完成には程遠いな。人員が殖えたとて、下級天使達に不眠不休を強いる事になる……。だが、この世界樹が完成すれば荒れた下界は浄化されていくだろう。さすれば、主神様もお喜びになる筈だ」


 魔界で建設中であるマナの残骸をリサイクルする施設、通称“世界樹”を上空から見下ろすメタトロン。


 この魔界に世界樹を建設する理由、それは──力のある労働力が必要だったからだ。主神が魔界に住まわせるために作った種族である魔族は、人より遥かに力が強かった。


 そして、エルフ族を除くと、この時の魔族は頭もそれほど良くなかった。敵対する悪魔がいる地であっても、魔族の力を利用する利点は大きかったのだ。


 食事さえ提供していれば純情に働いてくれる魔族。

 特に、魔族の中でもずば抜けて賢いエルフ族は、他の魔族を指揮し、効率良く動かしてくれていた。


 何故賢いエルフ達が、天使達の言う事を素直に聞くのか。

 それは、


「──メタトロン様。お待ちしておりました」

「ああ、族長か。出迎えご苦労」


 舞い降りたメタトロンにいち早く駆け寄った魔族。

 この男こそ、エルフ族を束ねる族長だった。


 そして、この男が心から心酔し、崇拝する者こそ“大天使メタトロン”であった。


 メタトロンはかつて、悪魔に侵略され、滅びそうになっていたエルフ族を助けた事がある。メタトロンからすれば、これ以上悪魔が力をつけないようにするため、ルシフェルから命令されてエルフ族の味方についただけであった。


 しかし、エルフ族は神からの使者メタトロンの出現に、大いに励まされたのだ。そして、圧倒的な力で悪魔を葬っていくメタトロンの力に、心酔するのもそう時間はかからなかった。


 それからというもの、エルフ族はメタトロンの事を、神より崇拝するようになった。


 メタトロンはそんなエルフ達を使って、この世界樹の建設を押し進めてきたのだ。


「建設は順調でございます。外側の世界樹はこの通り立派に育ちました。後は中の設備だけでございます」

「そうか、良くやった族長。だが、予定より建設を急がねばならなくなってな。いくばくかすれば増員の下級天使達がやってくる。お主も、魔族の労働力を増やすように働きかけてくれ」


「メタトロン様の仰せのままに」


 この世界樹建設計画は、1000年計画であった。

 現在、計画当初から450年の年月が経っている。


「ルシフェル様の命令は、当初の建設計画の半分のスパンで終わらせろというものだ。それを達成するには、下級天使の増員だけでは賄えない。お前達エルフの活躍なくしてこの計画は達成出来ない。頼んだぞ」

「ははぁっ……メタトロン様のご期待、必ずや応えてみせましょうぞ」


 

 それから五十年後──


「遂に完成した……これで下界は救われる」


 下級天使の増員やエルフの助力により、なんとか500年が経つ前に完成させる事が出来た世界樹。


 この施設は、天界で使ったマナが下界に落ちると、それを吸引回収し、新たなマナである『魔力』としてリサイクルする事が出来る。


 魔力は、マナほどではないにしろ、生き物や大地に力を与える事が出来る。そして、この世界樹の周りは特に魔力が濃く、豊かな自然を育むと、メタトロンは確信していた。


 メタトロンは、完成した世界樹をエルフ達に護らせる事にした。その恩恵として、世界樹の周りはエルフの物であると約束したのだ。


「メタトロン様、万歳ーっ!! 万歳ーっ!! 万歳ーっ!!」


 完成を祝い、万歳三唱で見送られるメタトロン。

 向かうは天界。世界樹の完成を、主神に伝えるために。


◆◆◆◆


「良くやった。ルシフェル、そしてメタトロン」

「「有り難きお言葉。恐悦至極にございます」」


 主神の前で世界樹完成を報告するメタトロンとルシフェル。

 世界樹の完成を、主神は大いに喜んだ。


 その喜びように、ルシフェルは確信していた。

 次期大天使長の座は、もうすぐ自分の手に渡ると。


 また、メタトロンもそれを予感していた。

 実際建築を計画し、完成のために手腕を振るったのはメタトロンだが、部下の手柄は上司の手柄。


 ルシフェルはそういう上司だった。だから、自分の手柄になる事は無いと、メタトロンは諦めていたのだ。だが、それでも構わないと思っていた。


 元より、出世など興味がなかったメタトロンは、これでルシフェルの面を見る機会が減って嬉しいとさえ感じていた。あまつさえ、大天使長補佐の座を回される事が有れば断る腹図もりでさえいた。


 しかし、そんな思いは主神の言葉によって粉々に砕かれてしまう。神の悪戯によって……。


「それで、この建築計画はメタトロンの発案だったな?」

「そうでございます。しかしながら、当初の計画の半分の期間で完成に至らせる事が出来たのは、ルシフェル様の手腕によるものでございます」


「で、あるか。だが、私は頭が柔らかい者が好きだ。そして、人の発案を横取りするものが大嫌いでもある。よって、メタトロンは次期大天使長とし、ルシフェル──お前は降格だ」


 メタトロンは、この時の事を忘れもしない。

 主神の玩具を見るような瞳と、ルシフェルの地獄の底から憎む増悪のこもった瞳を……。

次回更新は、5月10日予定!

ビッグニュースもありますよ!

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