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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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決着の時

平成最後の投稿です!

「オラオラオラッ! お前の心ごとへし折ってやるよ!!」


 決着の時を感じ、影からの脱出を図るヨシュアの化身は、今までにない怒涛のラッシュをヨシュアへ浴びせていく。今まで味わってきた痛み、苦しみ、悲しみ、そして絶望を吐き出すように──


「そこまでだ」

「な、なにっ!?」


 化身の手を受け止め、ラッシュを終わらせたのは、他ならぬヨシュア自身であった。


「すまなかった。俺は今まで、お前に痛みや苦しみを流す事で自分を守っていた。それが、結局は自分を更に追い込む事になるなんて知らずに……」

「何を今さら!! お前に俺の気持ちが分かるかっ!! 苦しみだけを味わうために産み出され、用がない時は鎖に繋がれて闇でもがく……その苦しみがお前に分かるのかっ!!」


 ヨシュアは化け物、いや、目の前にいる自分自身の言葉に深い後悔を感じた。他人を傷つけまいと自分を傷つけていた報いが、今になって襲ってきたのだ。


 だが、同時に深い慈しみの心を自分自身に感じた。

 自分を愛してあげたい。守ってやりたい。

 そんな思いが、沸き上がってきた。


 そしてその思いは、自身を包む光によって革新へと変わる──


「くっ、一体なんだ!! ……まさかっ!?」


 ヨシュアの化身は、その光がもたらす未来に怯え始める。

 

(そんな筈はない! こいつがそんな覚悟を持てる筈など! これからを生きるのは俺だ、俺なんだっ!!)


「お前じゃないよ。これからは……俺達が生きるんだ」


 化身の思いを砕くように、清流のような静かな言葉を語りながら現れたヨシュア。その姿は──


「元に戻っただと……だが……」


 そう、ヨシュアの姿は、何一つ変化を遂げていなかった。寧ろ、パワーを上げる前の姿に戻っていたのだ。だが、内に秘めた力は隠す事など出来ず、その体から溢れ出ていた。


「何故全てを出した? 覚悟が出来たとでも言うのか」

「そうだね。そんな所さ」


「何故今さら!! だったら、もっと早く……」

「すまない……」


「俺を消すのか? 闇の中へ」

「そんな事はしない。俺は守ると決めた。守りたいものは俺自身も入っているからね」


「そんな事……信じられるかっっ!!」


 ヨシュアの言葉を受け入れられず、最後の抵抗を試みる化身。

 左手の刃と同様に右手の細胞も刃へと変え、ヨシュアの首を標的に左右から振り抜いていく。


「遅い……。確かに、遅く感じるね」


 しかし、その声が背後から聞こえ、刃が空を切った瞬間──


 ヨシュアの化身は悟った。

 どう足掻いても本体には勝てないのだと。


「くそっ! くそくそくそっっ!!」


 当たらないと分かってはいても、振り抜くしか出来なかった。

 それしか、自分を慰める術がなかったのだ。

 そしてその牙は、ヨシュアの大切な者達へも剥かれいた。


「だったら……最後にアイツらの血をお前に見せてやる!」


 ヨシュアからトップスピードで離れ、ララ達の元へ向かう怪物。そのスピードは、僅かコンマ一秒。正に目にも止まらぬ速さだ。


 だが、唐突に現れた怪物にまったく動揺する表情を見せないララ達。その瞳は、闇など入る余地もないほど希望に満ちていた。


「なんだその目はっ!! 胸くそわりぃっ! くっ……そんな目で、俺を見るなぁぁぁぁーっっ!!」


 輝きに溢れた瞳達を闇に染めるため、漆黒の波動を放つ怪物。

 その波動は、ヨシュアの大切な仲間達に襲いかかる。


 だが──


「もう、終わりにしよう」


 闇は、ヨシュアという光によって祓われていた。


 自分が持てる力全てを込めた一発の波動。それを、煙を払うように消し去ってしまったヨシュアに、深い絶望と決着の時を思い知らされた怪物は、


「やっと出れたってのに、終わりか……」


 膝を着き、天を仰いだ。


「お前は良くやってくれた。さあ、今度は一つになり、ともに歩こう」

「何が一つだ。さっさと消せよ」


 ヨシュアの差し伸べた手を払い除ける怪物。

 最早、全てがどうでも良かったのだろう。

 

 そんな怪物に、ヨシュアは怪物と同じく膝をつき、同じ目線で静かに語りだした。


「消せる訳ないだろ。お前には、返さなきゃいけない恩がたっぷり残ってるんだ。喜び、幸せ、安らぎ。その幸福を、お前にも味わってもらわないと」

「はっ、そんな詭弁には騙されない。良いから消せ! 永遠に」


「それが本当の望みなのか?」

「…………」


「友と語らいながら酒を飲む安らぎ。愛した女達を抱く喜び。そして、自分の子供を背負う幸せ。本当に味わなくても良いのか?」

「…………」


「お前を待ってるぞ? この仲間達は──」


 その言葉を聞いた怪物が見たのは、ヨシュアの後ろで待っているレメク、メーサ、ララの姿だった。


「早く来いよヨシュア」

「そうよ。早くこんな所から出て、また皆でどんちゃん騒ぎするわよ!」

「ヨシュア様……そのお姿も、素敵ですわよ!」


 横に控えたヨシュアではなく、明らかに怪物に成り下がった自分に声をかけているララ達。怪物は言葉が出なかった。


 今までに感じた事のない熱い感情を抑えるのに必死だったのだ。沸き上がってくるその熱い温もりは、今まで感じていた冷たく凍えそうな感情を拭い去っていく。


「これが仲間だ。良いもんだろ?」

「ああ……」


 ヨシュアの問いに、怪物はやっと口を開いた。しかし、再び天を仰いだ怪物の口からは、それ以上の言葉は出てこなかった。


「準備は出来たか?」

「本当に良いのか。俺を戻したら後悔するぞ」


「後悔? そんなもの……くそ食らえだ!」

「くそ食らえか……フッ、汚ねえ言葉を使うとんだ王様だ」


「ははっ、今のは聞かなかった事にしてくれ。さあ、いくぞ! 俺達は二人で一つだ。守ろう、この仲間達と俺達の民を。そして、幸せになろう」

「ああ、頼んだぜ……相棒」


 遂にヨシュアの手を取った闇の怪物。その瞬間──

 希望という光が二人を包んだ。



「ピカピカピカ……良く光る王様だぜ」

「ちょっとレメク! 感動のシーンが台無しじゃない……」


「まあ良いだろ? 決着も着いた事だし。ぷぅ~」

「屁をこくな! もうっ!! これだから男は……」

「お二人とも見て下さい! ヨシュア様のお姿が!」


 ララの言葉により、光に包まれていたヨシュアに視線を戻したレメクとメーサ。その視線の先には、本人でさえ知らなかった真の姿を解放したヨシュアが現れていた……。


「こりゃあ、たまげた……」

「なんかゾクゾクするわね……」

「素敵です……ヨシュア様」


 白銀だった長く伸びた髪は、輝きを放つ金色に。

 瞳は蒼と紅のオッドアイ。

 漆黒の翼は、黒と白が混ざりあった灰色へ。


 そして胸には、ともに喰らい合うウロボロスの印が刻印され、天使と悪魔の存在を主張しているようだった。


「どうしたの皆? 何か変?」

「まあ、自分じゃ分からねえわな……。兎に角、良くお戻りになりました──ヨシュア王」


「ああ、ありがとう──レメク」

「ヨシュア……」

「ヨシュア様……」


「ああそうだ。二人には伝えたい事があったんだ。ちょっと耳貸して──」

「んぅっ……う、うん。分かった……」

「ひゃっ……ええ、ああ、そんな……わ、分かりました」


 ヨシュアがララとメーサへ耳打ちをすると、二人は顔を真っ赤に染め上げてしおらしくなってしまった。


「一体何を言ったんだ?」

「内緒。まあ、俺も覚悟を決めたって事だよ」

「成る程……ヨシュア王もすみにおけませんな」


 その言葉で、何を言ったのか大体分かってしまったレメクは、なんとも下卑た笑みでヨシュアをつついていた。


 ゴゴゴゴォーッッ!


「うおっ! なんだ!?」

「見て! 中央に階段よ!」

「どうやら……次のステージに進めるようだね」


 揺れを伴い、次の階層へと進むための階段が現れる。その階段へ、ゆっくりと歩み始めたヨシュアを先頭に進んでいく。


「お待ち下さいヨシュア様。まだ何かきます!」


 いち早く気付いたララによって、階段の手前で止まったヨシュア。“何か”の気配を感じとるため、神経を研ぎ澄ませる。


 ゴゴゴゴォォーッッ!!


 階段が現れた時と同規模の揺れは、何かが崩れ落ちたような音。その音の先には、白い壁の一部が崩れ落ち、澄んだ青色が映っていた。


「なんだよ今度は……」

「あれは……空?」

「おそらくね。兎に角、確認してみよう」


 崩れた壁の先は青い空。

 そして、その下には山脈と湖が広がっている。


 その光景を確認したヨシュア達は、想像した以上の景観を唖然と眺めていた。


「マジか……」

「一体何なの此処は……」

「此処はダンジョンなんかじゃないね……」


 それぞれ空の下に広がる大地を眺め感想を呟いているが、ララだけは違うものを見ていた。


「ヨシュア様……ここに何か書いてありますわ」

「ん? どれどれ……ああ、本当だね」


 ポッかりと空いた壁の横に、薄く文字が刻んであった。

 

「己を見つめ直した者達よ──この先は楽園が待っている。信じて飛び込め」

「なんだよそりゃ……完全に罠じゃねえか」

「そう? 私は階段の方が怪しいと思うけど」 

「ヨシュア様。どうなされますか?」


 文字を読んだヨシュアに、早速疑問が飛び込んでくる。

 階段を進むか、この先に飛び降りるか。

 二つの道の前に立たせられた王は、どちらを選ぶのか?


 長い思考を要する問題に頭を悩ませるかと思われたが、王たるヨシュアの決断は既に決まっていた。


「飛ぼう、この先へ!」

「はやっ! 何か根拠でもあんのか?」


「ないよ! 勘!」

「はいーっ!? ちょっと待てよ! 大事な選択を前に、勘とか勘弁してくれよ……」

「まあ良いじゃない。王が行くなら行くしかないわよ」

「そうですわね! 飛びましょう!」


「おいおいお前ら──って! もう飛ぶの!?」

「当たり前じゃない! お先にー!」

「私も行きます!」


「ま、待てよ! お前らは魔法とか翼で翔べるからいいが、俺は翔べねえんだぞ!」

「大丈夫だよレメク。信じて飛んできなよ?」


「あっ、待てよヨシュアーッッ! ……くそっ、皆置いて行きやがって! ああーっくそっ! 飛べば良いんだろ飛べば!」


 皆に置いていかれ、半ばヤケクソで大空へ飛びこんだレメク。

 冷たい空気が肌を舐め、どんどん大地へ向かって落下していく体。


 さっきまで勝利の余韻を感じていたのに、結局ここで死ぬのか。そんな絶望を感じていたレメクだったが、ふいにフワフワとした感覚に襲われる。


「ほらね。大丈夫だったでしょ?」


 その声の主は、友であり主君である男──ヨシュア・デモンに他ならなかった。


「べ、別にビビってなんかねえし!」

「ははっ、そうだね。そういう事にしておくよ」


 ヨシュアに両手を掴んでもらい、フワフワと大空を降りていくレメク。左右には魔法で浮遊するメーサと、女神の力で浮遊するララの姿があった。


◆◆◆◆


 その後、数分空中散歩を楽しんだヨシュア達は、とうとう大地を踏みしめる。


 山々が鏡のように映る湖。

 その静かな湖畔に降り立ったヨシュア達。


 山々から湖を通って吹く風は、少し冷たいものの心地よい。

 後ろには花畑が広がっており、風が吹く度に甘い香りが舞う。


 正に楽園のような場所だとヨシュアは感じていた。

 なにものにも邪魔されず、戦いなど起こらない平和な大地。

 自分が求めていたのは、こんな所だとさえ思い始めていた。


 しかし、そんな緩んだ思考を正すような声が、唐突にヨシュア達へ向けられた。


「此処は楽園、そして監獄でもある。何故あなたが此処にいるのか教えて頂戴。ヨシュア」


 真っ直ぐ透明なその声は、ヨシュアの中へ溶けるように入り込む。ヨシュアの名前を知る謎の女性の声に、ヨシュア以外は警戒を露にする。


 その女性は、真っ黒な法衣に身を包み、長く艶めいた黒髪を揺らして湖の畔に佇みながら、髪と同じ黒い瞳でヨシュアを見つめている。


 そしてその背中には、堂々した白い翼が携わっていた。


「ヨシュア様! あれは天使です! でも、私はあの天使を知りません……。何者か分かりませんが気を付けて下さいませ!」


 ララの一言でさらに警戒を強めるレメクとメーサ。

 しかし、当のヨシュアは警戒するどころか、ララの忠告を無視するように天使と思わしき女性の元へ歩き出してしまった。


「お、おいっ! 待てヨシュア!」

「大丈夫。あの人は大丈夫な気がするんだ」


「ちっ、また勘かよ」

「兎に角、何があっても直ぐ動けるように警戒しましょう」

「ああ、そうだな……」


 警戒する三人が見守る中、ヨシュアは天使の元へたどり着き、浮かんだ疑問を率直にぶつけていく。


「あなたは誰ですか?」

「私か? ……ふふっ、無粋なやり取りをする前に、抱きしめさせて欲しいものだ。ほら、おいでヨシュア」


 両手を広げ、ヨシュアを求める謎の天使。普段のヨシュアならそんな節操のない行動はしないのだが、何故かこの時は体が勝手に動いていた。


 柔らかい胸に抱かれ、感じた事のない母の温もりを感じるヨシュア。子供のように抱きつくヨシュアを、謎の天使は優しく抱きしめ、静かに話しかける。


「立派になったのだなヨシュア」

「母さんなの?」

「母さんか……ふふっ、そう呼ばれるのも悪くないな」


 ヨシュア抱くその天使は、果たして母なのだろうか。不思議な迷宮の不思議な大地は、ヨシュアをただ見守っていた。

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