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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
四章 それぞれのケジメ
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天使と悪魔の狭間で②

お待たせしました。

更新遅れて申し訳ありません。

──天使と悪魔とはどのようなものか。

 

 人の住む大地。人間界で伝えられている古い神話や伝承には、こう書かれている。


『争い、憎しみ、恐怖。人が恐慌に陥る時、神は天の使いを解き放つ。天使は我々と同じ容姿をし、その微笑みは、心を安らがせる。天使は人に慈悲を表し、救いをもたらすであろう。しかし、悪魔と呼ばれる闇の者は、我々人に災いをもたらす。醜悪な容姿と狡猾な心で我々を苦しめる。だが、恐れる事はない。悪魔が現れる時、天使もまた現れるであろう──』


 人間界での天使とは、救いの救世主のような存在として語り継がれている。対して悪魔は、災いを引き起こす厄介ものとして語り継がれていた。


 だが、魔界の奥底に眠る禁書には、まったく違う天使と悪魔について書かれている。


『神々は我らを追放し、白き肌の者達を天使と呼んで仕えさせた。天使は傲慢で狡猾な者達だ。天使の前に仕えていた我らを貶め、この地に落とした。憎くき天使達に報復するべく、我ら悪魔は魔界の地で力をためようぞ──』


 魔界の禁書では、天使は人間界の悪魔のような存在に思える。

 逆に悪魔は、天使達に嵌められて魔界に落とされた、悲劇の主人公のように書かれていた。


 果たしてどちらが正しいのか?

 この二人の戦いから、それが分かると良いのだが……。


「まだ自我を保つか……中々踏ん張ってるようだが、それも次で終わりだ」


 悪魔の姿をした化身は、未だ自我を保つヨシュアを忌々しく思っていた。こいつが死ねば、あそこの女達は自分のもの。そして、この力を使い世界を掌握出来る。長年ヨシュアの影に潜んでいた彼は、そんな思いを膨らませていた。


「必ず……お前は俺の中へ戻す」


 そんな化身に対して、固い決心を口にするヨシュアだったが、正直な所、限界は近い。睨み合っている視界が霞みつつあるのが良い証拠だった。


 ここまで自我を保っているのも奇跡。昔の自分だったらとうに意識を手放し、鎖に繋がれた野獣に乗っ取られていた。だが今は、何がなんでも耐えなくてはいけない。


 もし、ここで負けるような事があれば、一生心の奥底で眠っていなければいけないのだ。目の前の野獣を解き放ったまま……。


「いくぞっっ!!」


 焦る気持ちが先行したのか、先に仕掛けたのはヨシュアの方だった。


 体はいつもより軽く。動作と思考も同時にリンクしている。ここまで力を解放した事が無かったヨシュアにとって、未知の体験に戸惑いさえ感じていた。


 しかし、撃てば避けられ、背後を取ろうにも相手は同時に動いてくる。このままでは、勝負がつかない事も分かっていた。


 そして、高速で展開していく勝負がつかない攻防が、いくばくか続いた後──ヨシュアが懸念していた次のステップが訪れてしまう。


「体が暖まってきたな? どれ……最後のステップだ」

「させるかっ!!」


 このまま自由にさせてはまずい。そう感じたヨシュアは、自身の化身へ猛然と駆け、刃物と化した左腕を振り抜いた。


「もう遅え、お前は終わりだ」


 ズブッッ。


「ぐっっ……」


 振り抜いた刃は空を切り、傷を負ったのは己の方。

 腹を破り、目の前に現れた刃が、それを教えていた。


「早く諦めちまえよ。どうせ、俺の所までくる勇気はねえだろ。楽だぜ? ただ眠ってるだけでいい。辛い事や悲しい事なんて経験しなくて済む」


 ズブズブッッ。


 ヨシュアの腹から刃を抜きつつ、諦めるよう諭す化身。

 “諦めて楽になりたい”──昔はそう思った事もあった。


 だが、今は諦められない事情がある。

 荒んでいた昔とは違い、守りたい笑顔があった。


 自分の戦いを見守る仲間達。迷宮の外で待っているゴルゴン。

 アダムやイブ。そして──エデンの国で待つ民達。


「誰が……諦めるか!!」


 そんな守りたい者達を想いながら力強く叫んだヨシュアは、背後に居るであろう化身から距離をとると、その姿を鋭い眼光で睨み付ける。


 そして、ヨシュアの視界に映ったのは……最早、悪魔とも呼べぬ恐ろしい姿をした怪物であった。


 口角は裂け、大きな口からは牙が見え隠れしている。

 浅黒かった肌は更に黒さを増し、漆黒へ染まっていた。


「どうした? お前も早く土俵に上がって来いよ」


 血走った目でヨシュアを捉え、己のステージまで上がるよう急かす怪物。しかし、ヨシュアは中々決心が固まらなかった。


 自分もあんな姿になってしまうのか。それに、自我を保つのにいっぱいいっぱいの状況でこの先に進んでしまえば、どうなるかは明白だ。


 意識を怪物に乗っ取られ、大切な仲間達をこの手で傷つけてしまう。次のステージへ昇ることを躊躇わせるには、十分な理由だった。


「怖いか? だが、このままじゃ負けるぞ。まあ、俺からしたらそれで良い。さっさと諦めて眠れ──」


 爆風を起こしながらヨシュアへ突撃する怪物。

 危険を感じ、ヨシュアも後ろへ下がろとするが──


「遅い。遅すぎるぞ」

「グァァッッ!」


 その怪物は、予想より遥かに高みに昇っていた。気付いた時には、目の前で寒気がする笑みを浮かべて強襲されていた。


 傷は癒されると言っても、何度も何度も傷つけられれば心が弱っていく。この異空間は、体の傷は治しても、心の痛みまではなおしてくれない。


 だからこそ、心を強く保っていなければいけなかった。


 避ける事も防ぐ事も出来ない攻撃。

 無抵抗で攻撃を浴びるヨシュアの心は、徐々に弱っていた。


「大丈夫かなヨシュア……」

「信じろ。俺達のヨシュアを」

「そう、ですわね……」


 無惨にやられる光景を見た仲間達も、不安な気持ちを募らせていた。口では信じろと言ったレメクでさえ、今すぐに助太刀したい気持ちでいっぱいであった。


 しかし、助太刀した所で怪物に触れられるのは本人のヨシュアだけ。そこに居るだけで自分は邪魔でしかないのだ。戦いを終えたレメクはそれが分かっていた。


 この戦いに必要な事、それは自分をどこまで信じられるか。

 決して難しい事とは感じないが、自分を信じるにはかなりの覚悟がいる。だが、ここでその覚悟を持てれば、ヨシュアは更なる飛躍を遂げるだろう。


 その事を感じとっていたレメクは、唇を噛み締めてヨシュアの戦いを静かに見守っていた。


 この戦いの“勝機”に気付いてくれと……。


「ほらほらっ! どうした弱虫! 無抵抗のままじゃ、虫けら以下だぞ!!」


 サンドバッグ状態のヨシュアを無慈悲に殴り続ける怪物。

 怪物もまた、ヨシュアの心が弱っていくのを感じとっていた。

 

 ここで畳みかければ自分の勝ち。

 弱者に変わり、その体を操るのも直ぐそこ。


 そんな現実が目の前に迫り、高揚を感じる怪物。闇の中で鎖に繋がれ、負の感情を喰わされるのはもう懲り懲りだった。


「ほらっ! とっとと諦めてお寝んねしちまいな!」

「ぐっっ! うっっ!」


(負けたくない! だけど、どうすれば……。力を出し尽くせば自分がどうなってしまうのか分からない。醜い姿で皆を傷つけてしまうかもしれない。怖い……皆に嫌われたくないっ!)


 殴れ続けながら葛藤するヨシュア。

 自分をさらけ出す恐怖。

 誰しもが抱えるその恐怖と戦い、負けそうだった。


 そんなヨシュアへ喝を飛ばしたのは、誰よりもヨシュアを信じて見守る女神──ララであった……。


「負けないでヨシュア様!! あなたが作り出した怪物は、今どこにいるのですか! 私を……いえ、ご自分を信じて下さいませ! ヨシュア様がご自分を嫌いでも、私は大好きでございます! ヨシュア様の光も、そして闇も全て愛しいのです! だから……私を守るために、立ち上がりなさい!!」


(良いこと言ってると思ったのに、最後は私を守ってか……ははっ、ララちゃんらしいや。そうだな。彼女を守ってあげられるのは、俺だけだ。こんな怪物に立ち止まっている場合じゃ──ん? 怪物? 俺が作り出した怪物は、今目の前にいる……そうか!)


 ララの喝によって何かに気付いたヨシュア。

 それが、この戦いの“勝機”へ繋がっていく……。

次回で四章が終わります。

五章は愛がテーマです。

GWは仕事が休みですので、新章をお届け出来ると思います。

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