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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
三章 探し求める者
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兄者と弟者

「──こんなにもあっさり入国出来るとは……」

「僕に感謝してくれよ兄者! 前に口説いた女が帝国一級市民だったから、二人分の二級市民証を頼んだら作ってくれたんだ」


「ふっ、お前の節操のない下もたまには役に立つのだな」

「そんな! 兄者酷いよ……」


 ミシェルとヘラクレアを追って帝国へと潜入したブランドンとカイゼル。桁違いの戦闘力を持ったヘラクレアこそ女に変装したヨシュアだと熱弁する弟のカイゼルの言葉を受け、疑いつつもブランドンは少ない可能性に賭けて二人の後を追う事にしたのだ。


 まあ、熱弁をふるったカイゼルだが、ヘラクレアとミシェルをものにしたいだけなのだ。実はカイゼル、兄のブランドンが人間界に来る前にヘラクレアとミシェルに接触し口説いていた。


「──そこの彼女達!」

「ん? 私ら?」


「そうだよ! こんなに可愛い女の子達は君達しか居ない! 良かったら僕とお茶でもどうかな?」

「ん~、パス。私ひ弱そうな男には興味ないの」

「私も遠慮しておきます。男と遊んでる暇など有りませんので」


「いやいやいや! そんな事言わずに! なんだったら高級レストランでご馳走してあげるからさ!」


「悪いけど他当たって~。じゃあね~」

「失礼致します」

「ちょっと待ってくれ! ……く、くそっ! こんな屈辱初めてだ!!」 


 とまあ、容姿端麗な姿など眼中に無いかの様にあっさりヘラクレアとミシェルに袖にされてしまったカイゼル。それまで振られた事など無かったカイゼルは酷く動揺し、プライドを傷付けられてしまったのだ。


 そして、カイゼルの心に火が着いた。

 必ず彼女達を落とす! と。


「──所でカイゼル。帝国首都にはどの位で着くのだ」

「う~ん、この大きい馬車? で1日あれば着くよ」


 ブランドンとカイゼルが乗っている乗り物は、所謂『バス』だ。入国門から首都直通の夜行バスと言ったところだろう。 


「ほー。それは早いが、飛んで行った方が早いのではないか?」

「それは辞めた方がいいって言ったろ? 飛んでる所なんか見られたら撃ち落とされて終わりだよ……」


「そこまで帝国の兵器は凄いのか?」

「凄いってものじゃないよ……あれは悪魔の兵器だ」


「そこまで言われると見てみたいものだな」


 ブランドンがポツリと窓の景色を眺めながら呟くと、バスが突然ブレーキ音を鳴らして止まってしまった。


「お客さんすいません。帝国軍が道を塞いでるみたいで……ちょっと降りて事情を聞いて来ますのでお待ちください」


 乗客に向かってアナウンスを流すと、運転手はバスを降りて行く。向かった先は前方で戦車を何台も止めた帝国軍。


 その様子をブランドンは身を乗り出して見ていた。


「おいっカイゼル。あの鉄の塊はなんだ!?」

「んっ? ……あれは戦車だね。運が良いよ兄者! 見たかったものが見れると思うよ」


 もったいぶった言い方のカイゼルにイラっとするブランドン。だが、そんなイライラより目の前に見える戦車に興味を惹かれていたブランドンは、食い入る様に帝国軍の動向を観察していた。


「──いや~。何でもワイバーンの群れが現れたみたいで、掃討作戦中みたいです。作戦終了まで動くなとの事なんで少しお待ちください」


 戻ってきた運転手の言葉を聞いたブランドンは徐に立ち上がる。


「兄者、ここは落ち着いて……」


 待たされる事に腹を立てたと思ったカイゼルはブランドンを落ち着かせようと言葉を掛けた。しかし、ブランドンは無表情のままバスを降りて行ってしまう。


「あ、兄者!」


 こんな所で帝国軍とのトラブルなどゴメンだと、カイゼルはバスを降りて行ったブランドンの後を追う。


「……兄者。帝国軍とトラブルはダメだよ?」

「は? 何を言っておる。私はただ近くで戦車という兵器を見たかっただけだ。ほれ、群れをなしたワイバーンが来たようだぞ」


「な、なんだ。僕てっきり……うわっ、凄い数のワイバーンだ! 百以上は居るね」

「ふむ、この数をどう征するか見物だ」



「隊長! まもなくワイバーンが砲撃ポイントに到着します!」

「そうか……砲撃部隊、砲撃用意!!」


 帝国軍の部隊がワイバーンの群れに狙いを定め砲撃の用意を進める。そして、遂にワイバーンの群れが帝国軍の上空に現れた。


「──砲撃開始!!」


『ズドンッ!! ズドンッ!! ズドンッ!!』


 けたたましい音と共に戦車から鉄の魂が発射される。


『ギギャー!!』


 一斉に発射された鉄の塊が爆発しながらワイバーン達を襲う。その殲滅力は圧倒的である。百以上いたワイバーンは次々に絶命しながら地に落ちていく。


 その光景に、後方から見ていたブランドンとカイゼルは言葉を失っていた。その後、数分の内にワイバーン達はなすすべもなく殲滅されてしまった。


「──これが人の力か……」

「うん……魔力もたいした事無いのに、僕ら魔族で勝てる気がしないよね」


「魔界で内戦ばかりしてる内にここまで差が開くとは……魔界が人に支配される日も遠くはないな……」


 恐ろしいまでの軍事力を見たブランドンは、魔界がこの砲撃によって火の海になる未来を想像し、顔色を青くしていた。


──帝国首都『アトランティス』


「ようやく着いたな。それにしても、なんなんだこの街は……」

「凄いでしょ? この街に居ると自分がどれだけちっぽけな存在なのか嫌でも分かるよ……」


「どれだけ進んでいるのだ帝国は……」


 帝国首都に到着したブランドンとカイゼル。アトランティスのビルの山を見つめ呆けていると、奇抜な服装をした市民達の騒々しい声が聞こえてくる。


「──大変だぞ! 前大会の優勝者と今回出場する予定の女の子が喧嘩してるらしいぜ!」

「はっ!? まじかよ! 前大会の優勝って、あの『グルーガ』だろ?」


「ああ、圧倒的な強さで優勝したあのグルーガだ」

「そりゃ、女の子も不幸だな……」


「そうだな……グルーガは女好きの糞野郎で有名だからな」

「と、とりあえず見に行こうぜ!」


「……聞いたかカイゼル?」

「ああ、もしや。だね」


 グルーガという男はさておき、今回出場する『女の子』という言葉が引っ掛かったブランドンとカイゼルは、喧嘩の場所へと走り出した野次馬達の背中を追う事にした。



「──ん? あれは……」


 野次馬達が囲む場所へと到着したブランドンは人混みを掻き分けて入っていくと、長身の優男と対峙するヘラクレアの姿が目に入ってくる。


「おっ、やっぱりあの子達だったね」

「ああ、どうやらここで戦うようだ。本当にヨシュアかどうか見極めさせてもらうとしよう」


 一触即発のグルーガとヘラクレアをブランドンは厳しい目付きで見つめるのだった。

 

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