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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
三章 探し求める者
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魔界の戦禍 回想編 終

「──イフリート!! 覚悟しろ!!」


 単騎駆ける魔王リリン──腹の底から絞り出した声を張り上げ、反乱軍将軍イフリートへ浴びせる。


「うるさい小娘だ──叩き落としてくれる」


 まとわりつく虫を叩き落とす様な言い草で"グルファクシ"の腹を蹴り、リリンに向かって駆けるイフリート。


 そして──終演を迎える様に、二体のグルファクシが雄叫びを上げ、ぶつかり合う。


 グルファクシとは黄金の鬣をなびかせ、黒い鱗に覆われた『馬』、のようなものだ。とても気性が荒く、馬として扱うには苦労する魔物の一種。


 だが、大きな体格と力強く駆ける足は戦場では重宝され、魔界での戦争には欠かせない武器だ。


「──何故裏切った、イフリート!!」

「裏切ったとは心外だ。私はただ、腑抜けた魔界を元通りにしようとしているだけだ」


「また、戦禍渦巻く世にしたいと申すのか?」

「それが我等、魔族のあるべき姿だ。力を競い、魔界の王を決めてきた魔界で──貴様の様な王が居座っておるのがおかしいのだ!!」


「何故じゃ!! 何故、そこまで争いを好む。平和な世の何が悪いのじゃ!?」

「戯け小娘が! 平和な世など反吐がでるわ!!」


「……最早、説得は無理のようじゃな」

「説得? 馬鹿も休み休み言え。我等を止めたかったら力ずくで止めてみよ」


 会話を終えた二人は再び睨み合い、背中に背負った槍を抜くと──雌雄を決するため構えた。


「いくぞ!!」「来い小娘!!」


 グルファクシをぶつけ合いながら槍を交わす二人。

 一歩も退かず、ぶつかり合うグルファクシの実力は見たところ同等。後は二人の実力差で勝負は決する。


 キィン! キィン! と、槍同士が擦れる音とともに、「くっ! 小娘が!」と、イフリートの悔しがる声が上がる。


 槍の技量はリリンが上手だったようで、力に任せた槍の撃ち込みを華麗に捌き、隙を見てイフリートの槍を叩き落としたようだ。


「槍は負けたようだな……だが! わしの炎を喰らって生きておれると思うなよ!!」


『ゴオォォ!!』


 イフリートから放たれた炎の塊。灼熱に燃えるそれを喰らえば、たちまちに灰へと変わってしまう。


 咄嗟にグルファクシから飛び降りたリリン。

 地べたの冷たさを感じながらも「危なかった」と、間一髪で炎の直撃を避けた事に安堵していた。


「ブッィィー!!」


 断末魔が上がる場所を見上げたリリン。そこには、炎に身を焦がされ呻きを上げて暴れているグルファクシの姿が映る。


 リリンが先ほどまで乗っていたグルファクシ。悲痛な鳴き声を上げながら、数秒で灰へと変わってしまった。


「おのれ、イフリート!! "#魅了の瞳__チャーム__#"!」


 灰にされたグルファクシの敵を取る様に不敵に笑うイフリートを見上げ、己の最大の武器を放つリリン。


 だが──


「フハハハッ! そんなもの効かんぞ!! ワシは貴様の力に耐性を得ておる。精々、絶望にうちひしがれ──魔王という不釣り合いな場所にいた事を悔いろ」


 己の力が通じない事実に戸惑いを隠せないリリン。


「何故じゃ!!」


 地面を叩き、天を見上げながら叫んだその言葉は──

 

 そもそも何故チャームが解けた? 何故効かぬ? 何故助けにこぬ? お主が魔王になれと言ったから、我はここまで頑張って来た……なのに何故、お主は居らぬ?


 リリンの様々な思いが詰まったものだった。


「──魔王様危ない! ぐぁ!!」


 リリンに炎が直撃する寸前──身をていして庇った家臣の一人だが、炎に飲まれ灰となってしまった。


「うっ!」


 家臣の助けにより直撃を避けたリリンだったが、左腕を焼かれあまりの痛みに地べたに伏せる。


「生き永らえたか……まあ良い。貴様にも使い道は有ろう──新しい魔王の慰み者などにな、フハハハッ」


 捕らえられたリリンにより、魔王軍と反乱軍の戦いは幕を閉じた。


 

──魔王城、魔王の間──


「──魔王イフリート、王の座の座り心地はいかがかしら?」


 新魔王となったイフリートへ問いかけるのは──


 妖艶な笑みを浮かべ、王座に座るイフリートへしなだれる女性。


「素晴らしいぞ──シヴァよ! わしを正気に戻し、この王座へ導いたのは、お前。感謝しておるぞ、愛しの妻よ」

「嬉しいですわ、フフ」


 嬉しそうに微笑むシヴァ。イフリートの妻であり、レメクの母である女性。


 彼女は、リリンによってチャームされ心を奪われていた夫を#氷妖族__ひょうようぞく__#の秘伝の薬により正気に戻し、イフリートを魔王まで導いた立役者だ。


「あなた……次は人間界へ攻めましょう。あなたはこんな所で満足していい男では無いわ」

「だがな……人間界へ攻めるには絶海を越える必要がある。此度の戦で資源を使い尽くしてしまったぞ」


「ちゃんと用意してありますよ。十万の兵を乗せ、絶海を越えられる船を」

「ほう……流石、シヴァ。であれば、行くとするか人間界へ、世界の王となるべく──」


 

──魔王城、地下牢──


(うっ……左腕が酷く痛む。切り落としてしまいたい)


 焼け爛れた左腕を抑え痛みに呻くリリン。

 深い地下でリリンの呻き声だけが静かに響いていた。


 魔王の座を引き摺り下ろされ、謂わば魔王を『クビ』になったリリン。彼女に待っているのは、イフリートの慰み者という暗い未来しかない。


(助けてよ……)


 届く筈のない悲痛な心の叫び。

 

「助けてあげるよ」


 リリンの聞こえる筈のない叫びに応えたのは──


 白い翼を携えた金髪碧眼の者。男とも女とも言えない中性的な顔立ちで無邪気に微笑んでいた。


「なんじゃお主!?」


 突如、牢屋越しに現れた謎の人物に驚き、牢の隅へと退避するリリン。不安の現れなのか、サキュバス特有の尻尾がピクピクと宙を漂っていた。


「そんなに警戒する事ないよ? 僕は君を助けに来たんだからね」

 

 助けに来たと話す幼いその声は、余計に性別を分からなくしていた。


「助けてくれるのはありがたいが、お主は何者なんじゃ?」


 警戒を解かぬ様に静かに問い掛けるリリン。

 謎の人物はその問い掛けに表情をしかめる。


「助けに来たんだから誰でも良いでしょ! 助けて上げないからね!」

「す、すまぬ! お主の事は詮索せぬから助けてくれ!」


 プンプンと怒る謎の人物の機嫌をこれ以上損ねないよう、『詮索しない』と、誓ったリリン。それを聞いた謎の人物は機嫌が治ったのか、再び無邪気に微笑んだ。


「それでよし! じゃあ、先ずはその火傷を治してあげるね」


 謎の人物はそう言うと、手のひらをリリンに向け光を放った。すると──


「おおっ! 痛みが引きおる! それに火傷の跡も……」


 痛みが引き、火傷の跡がみるみる消えていく事に驚愕の言葉を上げるリリン。その光景を「フフン、凄いでしょ」と、謎の人物は嬉しそうに見ていた。


「じゃあ、次は牢屋の鍵を開けてあげるね」


 その言葉の後に『カチッ』と、鍵の開く音が響く。


 その音を聞いたリリンは、恐る恐る牢屋の扉に近付き『そー』と、扉を押す。


「開いた……」


 そう短く呟いたリリンは牢屋を出ると、助けてくれた謎の人物に深く頭を下げた。


「誰だか分からぬが助かった!」

「フフッ、良いよ良いよ──それでね、リリンちゃんに耳寄りな情報が有るんだ」


「お主何故、我を──」


 何故我を知っている? そう聞きたかったリリンだったが、今さっき詮索はしないと誓ったばかり。口にすればこの者の機嫌を損ねると察したリリンは「いや、ありがたく聞いておこう」と、言葉を変え、謎の人物に返した。


「懸命懸命! じゃあ教えて上げるね──ここを出たら人間が住む大陸の西の端に行ってみて! そこに、リリンちゃんが会いたい人が居るよ! それでね、その人に会ったら魔界を何とかしてって頼むんだよ。いいね?」

「う、うむ。相分かった」


「良い子良い子! じゃあ僕は消えるね──」


 謎の人物はその言葉を最後に『スゥー』と、お化けの様に闇へ消えていった。


(なんじゃったんだ、あの者は……と、兎に角、ここを出て人間界へ向かうとしよう。あの者が言っておった事が本当なら西の端にヨシュアが居る筈じゃ! 待っておれよ、ヨシュア!! 今度こそお前を離さんからな!!)


 一度逃げられた獲物。今度は何が何でも離さない!

 そんな固い決意を胸に──リリンは城を抜け、深い闇の空へ羽ばたいて行った。

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