魔界の戦禍 回想編
今回の回想は短めで終わります。
次回で終わりそうなら後で繋げます。
──魔界、魔王城──
「──ブランドン、まだヨシュアは見付からんのか?」
小柄で童顔のサキュバスが、ムッとした表情で頬杖をつき、家臣の男に問う。
「まだ、見付けておりません。今は人間界を配下の者に捜索させていますので、もう少々お待ちを……」
(まったく、これで何回目だ? ブランドン様……早く帰ってきて)
心の中で溜め息をつくブランドンの影武者。
そう、この男はブランドン本人では無い。
現在ブランドンは人間界へ、単独でヨシュアを捜索しに行っている。配下の者から「魔族並みに腕が立つ者が居る」と言う報告と、弟であるカイゼルから「ヨシュアらしき悪魔族が西へ向かうのを見た」という報告を受けたからだ。
しかし、ブランドンがヨシュアを探しに行ったのは決して魔王リリンの為ではなかった。不穏な空気を感じる魔界で、自らが魔王となるべく画策していたブランドン。その駒の一つとしてヨシュアが必要だったのだ。
「そうか……」
ブランドンの影武者からの返答を聞いてガックリと項垂れる魔王リリン。
そんな中、魔界で波乱の幕が開ける。
『ズドーン!!』
破音とともに地響きが魔王城を襲う。
急な衝撃に驚きを隠せないリリンと影武者。
そこに、破音の正体を報告するべく、一人の家臣が慌てて魔王の間に入ってくる。
「失礼します!! 魔王城が反乱軍を名乗る者達から攻撃を受けています!!」
家臣の報告に顔をしかめるリリンは、王座から勢いよく立つと、怒鳴り声を上げた。
「なんじゃと! 反乱を企てる者は始末したのでは無かったのかブランドン!!」
「ええ、始末はしましたが、影武者だったのかもしれません。反乱軍に頭が切れる者が潜んでいるのでしょう……」
「……くっ! 兎に角、反乱軍を殲滅しろ! イフリート将軍に出陣の命を出せ!!」
リリンの言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をする家臣。その表情を見たリリンは家臣に問い掛ける。
「どうした? イフリート将軍は居らんのか?」
「い、いえ……イフリート将軍は居ります──敵側に」
その報告にリリンは「はっ?」と、魔王らしからぬ間抜けな声を上げた。
「敵側の、それも反乱軍の将軍として、魔王城に攻撃を仕掛けてきたのはイフリート将軍です……」
「戯言を!! 見間違いでは無いのか!」
「あれは間違いなくイフリート将軍です──そして、もう一つ報告が……」
「なんじゃ戯けが! まだ何か有るのか!!」
これ以上悪い報告を聞きたくなかったリリン。
思わず家臣に声を荒げ、怒鳴り散らしてしまった。
そんなリリンに怯まず、家臣の男は絶望的な声色で報告する。
「反乱軍の総数、おおよそ10万です……」
「な、なんじゃと!? こ、こちらの数は?」
「城内に残っている兵士をかき集めても、100にも満たないかと……」
「何故それしか居らぬ!? まさか全員反乱軍に取り込まれたと申すのか!! だ、だが、お主以外の家臣達は居るだろ!? 今すぐ家臣達を召集し兵を出させねば……」
絶望的な状況の中、ブランドンの影武者だけは冷静に現状を分析していた。
(やはり、ブランドン様の予想通りになった。最早この小娘に勝機はあるまい……これで、裏切り者のイフリートが魔王になれば魔族達の反発は必須。それを治めるにも武力で抑え込むしかなかろう──そこに、ヨシュアを連れ立ってブランドン様が帰還すれば……フッヒヒ)
その後、集められた家臣団に兵を集めさせた魔王リリン。だが、集めれた兵は反乱軍の半分である5万の兵。
『魔王軍5万対反乱軍10万』圧倒的反乱軍優位な戦いの火蓋が開けられた。
──魔界、ヘイムダル平原──
「──突撃せよ!!」
「「おー!!」」
将軍イフリートの号令に呼応し、魔王軍へ突撃する反乱軍達。イフリートによって鍛えられた反乱軍の兵達は、錬度も気合いも並々ならぬものがある。
相対するのは魔王リリン率いる魔王軍。しかし、寄せ集めの兵士達だった魔王軍の錬度は低く、とても鍛え上げられた反乱軍を抑える事が出来ずにいた。
戦況は予想通りに反乱軍が優勢。
魔王軍はその数を一方的に減らされ、5万から半分以下の2万にまで減っていた。
『これでは戦争にもならない』
と、悲観した雰囲気が魔王軍を支配し、士気は落ちるところまで落ちていたのだが──
「──諦めるな!! まだまだ勝機は残っておる。敵も攻め疲れ、士気が落ちておるぞ! 今が好機じゃ!!」
魔王リリンだけは未だ諦めておらず、声を張り上げて何とか兵士達を鼓舞しようと、一人奮闘していた。
しかし、その声に応える声は上がらず、リリンの叫びだけが、赤く染まる空へ虚しく響いていた。
そもそも魔王リリンは武をもって魔王の座に君臨していた訳ではない。サキュバスの秘術『チャーム』を駆使し、男共を屈服させてここまで駆け上がってきたのだ。
こう聞くと、チャームのお陰で簡単に魔王へなったと思われるが、そう簡単な事ではない。
この『チャーム』という秘術を身に付けるには、それこそ死にものぐるいの鍛練を乗り越え、身に付ける為の才能がなければいけないのだ。
例えば、三日三晩愛撫を受け続けながらも、逝くことを許されない精神修行。一つ鍛練の内容を紹介するなら、これが一番分かりやすいかもしれない。
困難を乗り越え魔王になったリリン。
そこまでして、何故魔王になりたかったのか?
それは、ある男の言葉に有った。
『だったら、君が魔王になれば良いんじゃないかな』
そんな男の言葉を原動力に、ここまでやって来たリリン。だから、こんな所で諦める訳にはいかなかった。
「──残っている魔法兵は全ての魔力を反乱軍へぶちこめ!!」
虹の様に空へ放たれた魔法の数々、最後の足掻きとばかりに反乱軍へ撃ち込まれた攻撃。魔法兵の残った魔力を全て使わせた結果、それなりに反乱軍の数を減らしたようだった。
「──突撃ー!!」
今が好機とみたリリンは、突撃の号令を出し単独で駆け上がる。
「「うぉー!!」」
リリンが単独で駆けていく姿に士気が上がったのか、魔王軍の兵達は玉砕覚悟の気合いの入った顔付きで反乱軍へ突撃していく。
「イフリート!! 覚悟しろ!!」




