散りゆく花④ 回想編
──数年後──
『レメク失踪』
その一報がもたらされたのは、エリーユからだった。
その日、ヨシュアはエリーユ宅にて、メーサとお茶を楽しんでいた。
エリーユはレメクを呼びに行くから、と家を出ていったのだが、中々帰りが遅く「何処で道草くってるんだろうね」と、ヨシュアとメーサが話していた時、
「大変よ! レメクが居なくなったって!!」
息を切らして駆け込んできたエリーユは、開口一番に慌てた口調でそう話す。
「どういう事?」
「そうよ。まずは落ち着いて、お姉ちゃん」
居なくなった、と言っても様々な可能性が有る。家族と喧嘩して家出したのか、はたまた何者かに連れ去られたのか。兎に角、冷静にと、メーサは息も切れ切れのエリーユにお茶を差し出す。
「あ、ありがと。アチッ!」
「もう……大丈夫?」
「ほら、こっち飲みな」
ヨシュアが、飲みかけの少し冷めたお茶を差し出すと、ゴクゴクッと勢い良く飲み干すエリーユ。それを見たメーサはジロリ、とエリーユを睨む。
「ひぇっ。あ、あの、そうよ! レメクが居なくなったのよ!!」
「だから、どういう事なんだい? 居なくなったと言っても色々あるだろ」
「分かんない……レメクの家に訪ねたけど、昨日の夜から居なくなったとしか」
「うーん……それじゃ情報が少な過ぎる」
「お姉ちゃん、ちゃんと聞いてきてよ」
「だって……」
「兎に角、先ずはレメクを探してみよう。エリーユはレメクが居そうな所を探してくれ。俺はレメクの家に行って詳しく聞いてみる。メーサはレメクが此処に来た時の為に待機していてくれ」
「分かった! しらみ潰しに探してみる」
「ヨシュアもお姉ちゃんも気を付けて」
──魔界、炎鬼族『族長邸』──
「──それで、インフェルノ様の息子さんが、何のご用ですか?」
少し赤みがかった肌とゴツゴツとした大きな体で、威圧感を出しながらヨシュアに問い掛ける者。
"イフリート・スピリット" レメクの父であり、炎鬼族の族長として気性の荒い炎鬼族を率いている人物だ。彼は今の魔王政権(リリンの前)では武官として仕えている。
だが、『インフェルノ様』とヨシュアの父を呼んでいる事からデモン家の方が格式は上だ(デモン家は文官長として歴代の魔王に仕えている)
戦争が少なくなったこの時代、どうしても武官より文官の方が、地位も高くなってしまうのだ。
「急に押し掛けてしまってすいません。実は──レメク君が居なくなったという噂を聞いて、心配で訪ねた次第です」
「そうですか。確かに、レメクは居なくなりましたよ。置き手紙が有ったので持ってこさせましょう。──おいっ」
レメクが居なくなったのは確かなようだった。そして、レメクが残した手紙が有ると言うイフリート。それで少しは情報が掴める筈だ、と手紙を待つヨシュア。
その手は、イフリートの放つ威圧感と、レメクが本当に居なくなってしまった事実で、ジットリ湿っていた。
「お待たせ致しました。此方がレメク様の残した手紙でございます」
執事により手渡された一枚の紙。
ヨシュアは親友が残した手紙をゆっくりと開封し、少しの情報も逃すまいと舐めるように手紙を読み始めた。
『お父様へ』
私は、スピリット家の族長候補として、今まで奮闘してきました。しかし、私は族長としての器では無いと悟りました。
新たな族長は、兄こそ相応しいと思います。どうか、兄と炎鬼族をもり立てて下さい。そして、不甲斐ない私は、消えようと思います。
どうか、情けない息子をお許し下さい。
──レメク・スピリット。
「まったく、情けない息子です。兎に角、その手紙の通り息子は消えました。何処にいるかも分かりません」
「これは……本当にレメク君が書いたもの何ですか?」
「あたり前です。私はね、あの子には本当に期待していたんだ! それを、逃げ出すなんて!」
興奮して話すイフリートに、ヨシュアはこれ以上聞いても無駄だと悟り、レメクの家を後にする。その後、手紙の内容を頭に焼き付けたヨシュアは、エルフの森へと向かって行った。
──エルフの森、族長邸──
ヨシュアが戻ると、エリーユとメーサは沈んだ表情でヨシュアを迎え入れる。
「ああ、ヨシュア。やっぱり何処にも居なかったわ」
落ち込んで話すエリーユを、妹のメーサは励ますように背中を撫でる。そして、ヨシュアに視線を合わせ「そっちはどうだったんですか?」と、問い掛けた。
「エリーユ、ご苦労様。俺の方は……レメクの置き手紙が有った」
「えっ!! 何て書いたあったのよ!?」
エリーユはもの凄い食い付きでヨシュアに迫り、手紙の内容を問い質してくる。そんなエリーユをヨシュアはなんとか宥めると、落ち着いた頃を見計らって、手紙の内容を話し出した──
「──そんなの……嘘よ!! レメクがそんな事考えて消える筈ないわ!! だって、あんなに張り切ってたじゃない!」
「お姉ちゃん、落ち着いて!」
手紙の内容を話したヨシュアに、エリーユが喰って掛かる。確かに、とても信じられるような内容ではないと、ヨシュアも感じていた。
『俺が族長になったら炎鬼族をもり立てて、絶対よっちゃんにレメク様って呼ばせてやるからな』
『ははっ、それは楽しみだね。じゃあ僕も、魔王様ってレー君に呼ばせてみせるよ!』
そんな、冗談混じりのレメクとの会話を、思いだすヨシュア。だが、自分は冗談で返したが、レメクは本気でそう思っていたと、確信出来る位張り切っていたのだ。
だから、そんなレメクが、こんな手紙を残して居なくなるなど、信じられない。それに、自分達に何の相談も無かったし、突然消えるほど思い悩んでいた風にも、見えなかったのだ。
「俺も、この手紙はレメクが書いたものだとは思っていない。だって、悔しいじゃないか! 僕達になんの相談もなく消えたなんて!」
「ヨシュア……ごめん、一番悔しいのはあんたよね」
ヨシュアが始めて見せた悔しい表情。それを見たエリーユは、ヨシュアに喰って掛かった自分が情けなくなった。
「私達で探しましょう!」
うつ向いたヨシュアとエリーユを励ますように、声を張り上げたメーサ。メーサの言葉を聞いたヨシュアとエリーユは、うつ向いた顔を上げ、大きく頷いた。
しかし、三人の努力も虚しく──レメクを見つける事はとうとう、叶わなかった。
そして、この事が皮切りに、三人を取り巻く環境は悪化の一途をたどり、最悪の事態へと発展していく。
──三ヶ月後の雨が降りしきる、ある日、ヨシュアの元に最悪の知らせが舞い込む。
その日、ヨシュアは祖父の部屋で一人静かに本を読んでいた。雨の音を聞きながら静かに本を読んでいると、心が癒されるのだ。
そんな時、雨音に混ざって、自分を呼ぶ声が聞こえてきた気がしたヨシュアは窓を開け、外を伺う。
すると、馬に乗った一人のエルフの姿が見えた。だが、この光景は普段ならまず有り得ないのだ。普段のエルフ達は一部の者を除いて(エリーユや族長)森から出る事は滅多にない。
そもそも足に自信が有るエルフが、馬に乗っている事など、非常事態でいち早く外に情報を知らせないといけない時位だろう。
その事を考えると、ヨシュアの額に嫌な汗が流れる。そして、目が合った瞬間、エルフの男が衝撃の言葉を発する──
「──ヨシュア殿ー!! 炎鬼族、ミノタウロス族、ケンタウルス族によって、エルフの森が襲撃されました!! それに──エリーユ様が捕まってしまいました!!」
次回、回想編クライマックスです。
その後、第二章も終盤に向かって進みます。




