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お人よし悪魔と駄女神さま  作者: 瑞沢ゆう
二章 エノク奪還編
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震える拳

 次の日、闇ギルドからの依頼を遂行するためエノクへ向かったヨシュアは、東門付近の森にある小屋へと降り立った。

 

 森の中にポツンと存在する小屋だが、ボロボロの様子もなく比較的新しい小屋だとうかがえる。


『コンコンッコンコンッ』

 

 と、扉を四回ノック(メーサと決めた合図)するヨシュア。──しかし、小屋の中から返答は無い。


(まだ来てないか……とりあえず中で待ってよう)


 小屋の中へ入ると、ベッド、テーブルと椅子、それ以外の家具は無く、とても質素な作りだ。


(ちょっとした休憩場か? それにしても、今日の作戦、上手くいくかな……)


 そんな事を考えベッドへと寝転ぶヨシュア。

 暫く天井を見つめゴロゴロしていると、


『コンコンッコンコン』


 と、扉をノックする音が小屋に響く。

 

 そして、「闇マス」「変態」と、


 二人のそんな合図が交わされると、小屋の扉がふいに開く。


「お待たせヨシュア……あれ~そんな所で待ってるなんて、何か期待してたのかな? フフ」


 妖艶な笑みでヨシュアに問い掛けるメーサ。ヨシュアが『まずい』と思った時には既に後の祭りだった。


「フフッ。遂に一つになる時が来たのね」


 ヨシュアに跨がったメーサは、そう言いながら顔を近付けていく。その時、


「あっ、ここになんか付いてる」

「えっ?」


 メーサの頭に付いたゴミが気になったヨシュアは、自ら顔を近付けていき唇と唇が触れる寸前で止まった。


「キャッ!」と、ヨシュアから離れるメーサ。


 何事か、と「どうした?」とヨシュアが問うが、メーサからの返事は返ってこない。

 

 まあ、無理もない。大人の女に見えるメーサも、心は乙女だったという事だ。


(うわっー! 今凄い近かった!! って……なんで私は恥ずかしがってんのよ! 後もう少しでヨシュアとキス出来たじゃない!! でも、キスされそうになるって、こんなにドキドキするもんなのね。出来れば、ヨシュアからしてくれないかな……キャー!!)


 ベッドの端でモジモジするメーサは、ヨシュアからの甘いキスを想像し一人悶絶していた。


「どうしたのメーサ? 具合でも悪いのか?」

「キス!! えっ!? いや!」


「キス? ……ん?」


 不審がるヨシュアに、メーサはしどろもどろに反応すると、何か誤魔化せるものはないかと思案する。今の状況で自分からキスして下さいなど、とても言える心境では無かったのだ。


 モゾモゾと体をまさぐる──すると、何かを発見したメーサは、それをヨシュアの目の前に差し出した。


「これは……」

「そ、そう、身分証よ! ちゃんと二枚有るから確認しなさいよ!」


「ああ、ありがとう! 助かったよ」


 ヨシュアはそう言って身分証をメーサから受け取ると、確認もせず自分のポケットに入れた。


「ちょっと、確認しなくて良いの?」

「ああ、大丈夫。だってメーサが用意してくれたんだろ? だから大丈夫」と、ニカッと笑って答えるヨシュア。


 その笑顔がメーサの心を締め付けた。


「もう……信頼してくれるのは嬉しいけど、あんたのそう言う所治した方が良いわよ! それでなくても、あんた騙されやすいんだから」


 メーサの説教を受けたヨシュアは「そ、そうだね、ヘヘッ」と、困ったように頭を掻く。


(やっぱり私が居ないとダメね……)


「じゃあ、行くわよ! そろそろ子爵と顔合わせしなきゃ」

「あっ、うん! 分かった」


「ああ、それと、町に入ったらこれ着けて」

「ん? これは、仮面?」


「そうよ。闇ギルドの人間が、顔バレしちゃまずいのよ」

「ああ、確かにそうだね」



──人間界、エノクの町──


──東門へとたどり着いたヨシュアとメーサ。


 ツカツカと門へと近付いていくと「何者だお前ら! 身分証を見せろ!!」と、少々態度が大きい門兵が叫ぶ。


 そんな威圧感な門兵にも、二人は顔色一つ変えず身分証を見せる。


「よろしい。えーと……はっ!! これはこれは帝国の一級市民様でしたか! 失礼な態度、大変申し訳ありませんでした」と、身分証を見せた途端に態度を急変させた門兵。


 理由は勿論、『帝国一級市民』と身分証に書かれた文字だろう。


 人間界で帝国一級市民と言えば、貴族に次ぐ高い地位にいる人間だ。人間界には三つの大国『アルバーン帝国』『カイン王国』『アベル王国』と、それに列なる小国群が存在していた。


 その中でもアルバーン帝国は別格の権威を示し存在しており、そのアルバーン帝国の一級市民と有れば、他国での扱いも貴族並みになる。


 因みにエノクの町が有るのはアベル王国で、ヨシュアが冒険者として活動していたのはカイン王国だ。


「しかし何故帝国の一級市民様がこのような辺境に?」


 怪しそうに聞く門兵に、メーサは顔をニヤっとさせながら答える。


「私達~最近結婚したばっかりなの~。だから、新婚旅行で色々な国の普段は行かないような所を回ってるの。ねえ~あ な た」

「えっ……ああ、うん!」


「はあ、そうでしたか。しかし護衛も付けず旅行ですか?」

「はあ! 私達の事疑ってるの!? これでもこの人は超強いのよ!! なんならここで相手してあげるわよ!!」


「あっいえ、そのようなつもりは! 失礼いたしました! エノクの町を存分にお楽しみ下さい──おいっ! 開けろ!」


 門兵が焦った様子で他の門兵にそう指示すると、重い門が上がっていく。


「じゃあね~」

「ど、どうも……」


 優雅に手を振るメーサとは対称的にヨシュアはどうも、どうも、と腰が低い。


 あれが超強い男とは到底思えなかった門兵だが、帝国一級市民と揉め事など願い下げだったので、疑問に思いつつも二人の背中を見送った。


 そんなヨシュアとメーサは町の中に入ると、人気が少ない路地裏へと姿を消す。


 すると、仮面を付けた二人組が、屋根づたいに領主邸へと滑走していった──



──エノクの町『領主邸』──


『コンコンッ』


「なんだ?」

「スネーク様、闇ギルドから護衛が参りました」


「そうか、入れ」


 スネークがそう言って招き入れると、仮面を付けた男女が入ってきた。


「ん……女に華奢そうな男? お前ら本当に大丈夫か? 私は一番強い奴らを頼んだ筈なんだが」


 一見強そうに見えない二人組に疑問が浮かんだスネークは、嫌みったらしく二人に問い掛ける。


「お言葉ですが、この男はうちで一番の強者です。安心して背中を任せて頂けます」

「ふんっ。それは良いとして、お前は女ではないか、女に護衛が務まるのか? 見たところ良い体をしているみたいだが、娼婦の方がお似合いでは?」


 なんとも失礼なスネークの物言いに、流石のメーサも拳を握りしめワナワナと震え今にもキレそうだ。

 見かねたヨシュアはメーサの背中を優しく擦り、話題を変えるためスネークに質問をした。


「所で、護衛依頼という事ですが、誰に狙われているか見当はついているんですか?」

「そんなもの数えきれんよ。強いて言えば、この町で前領主の腰巾着をしていた『レメク』というのが怪しいな。あんな騎士爵のクソ虫など、即刻首を跳ねてしまいたい。ああそうだ、もしヤツが襲ってきたら殺してしまっても構わんよ? いや、だが、生け捕りにして拷問で苦しむ姿もまた一興か。フハハハッ」


 そう、下卑た笑みで答えるスネーク。


 答えを聞いたヨシュアの拳は、震えていた……。

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