盛り上がる酒場、盛り上げる女神
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──エノクの町、路地裏──
「で、レメクさんが居そうな酒場ってあそこか?」
「多分、ですけど……」
「レーおじちゃん居るかな?」
「なんだかワクワクしますわ! お酒、でしたかしら? 飲むととっても楽しくなるとお聞きしましたわ!」
アダムとイブの命が狙われた次の日、長年アダムとイブの父に仕えていた『レメク』という人物を探すためヨシュア達一向は、繁華街の一角で──こそこそと酒場の様子を伺っていた。
まあ、一人おかしなベクトルの女神が居るが、ここはあえて触れないでおく。
「じゃあ、行くか」
ヨシュアの号令で酒場へ突撃していく一向。
──酒場の扉を開け放つとガヤガヤと賑わう人々の姿が垣間見えた。仕事の愚痴を言い合う者達、恋の話しを咲かせる女達、それぞれ膝をつき合わせ酒を交わし笑いあっている。
その光景を渇望の眼差しで横切るヨシュアは、いつか自分も酒を飲み交わす友が欲しいと思った。
「アダム、レメクさんは居たか?」
「うーん、人が多くて……あっ! 彼処に居るのは!」
アダムは深く被ったフードの隙間から、レメクらしき人物を見たのか、声を上げて叫ぶ。
「居たか?」
「はい! 多分レメクさんだと思います」
「レーおじちゃんだ~」
そう言って、アダムとイブは奥のカウンター席で一人酒を煽る人物を指していた。
一発で見つけられて良かった、と安堵しながらヨシュア達はレメクらしき人物の元に向かって行くのだが、
「おい兄ちゃん、女連れはまだ許してやる。だが、酒場に子供連れとはどういう了見だ? 舐めてんのか? あんっ!」
と、アダムとイブを指して、如何にも粗暴そうな酔っ払った男がヨシュア達に立ちはだかった。
「いやいや、落ち着いて下さいよ。俺達はちょっと知り合いに会いにきただけですから」
ヨシュアが宥めようと言葉をかけるが、酔っ払った男はその言葉にさらに興奮を高める。
「んだと! 俺に指図するってのか? いい度胸じゃねえか、表出ろ!!」と、ヨシュアの胸ぐらを掴み、いきりだす酔っ払い。
(厄介だ、ここで問題を起こすのはまずいんだけど……)
ヨシュアが酔っ払いの対応を躊躇していると「おい」と、静かに、だが確実に耳に通る低音で渋い声が酒場に響く。
「人が静かに呑んでんのにいい気なもんだなお前ら──俺が纏めて相手してやるよ。丁度、なんかに当たり散らしたくてしょうがねえんだ」
「レ、レメクさん! お、俺はそんなつもりじゃ……」
「「レメクさんが出て来たぞ、アイツら死んだな……」」
レメクは酔っ払いとヨシュアの間に入ると、双方に睨みを効かせ「さあ、やるぞ」と、呟く。
「レメクさん!! アダムです!」
「レーおじちゃん! イブだよ~」
一触即発の雰囲気に水をさすのはフードを脱いだアダムとイブだった。
「おえっ!? アダムとイブ?!」と、すっとんきょんな声で死人でも見るかのようなリアクションで答えるレメク。そして、酒場にいた全員が叫ぶ。
「「アダム様とイブ様が生きてたぞー!!」」「「うぉー!!」」
歓声と興奮に沸く酒場、そのどよめきはまるで戦場に行く兵士のように燃え滾っていた。
「そうですよ! どうしたんですか?」
「いやっ、だってよ……お、お前ら、死んだって聞かされて……」
「ああ、成る程。子爵の差し金ですね?」
「そうだ、子爵がアダムとイブは病気で死んだって声明を出したんだ。でも無事だったんだな……くぅぅ~」
レメクは男らしく渋いおじ様といった容姿なのだが、アダムとイブが生きて目の前にいる事実に顔をクシャクシャにして涙を流すと、二人を両手で抱きしめた。
「よがっだ~お前らがいぎてでよがっだ」
「ちょっとレメクさん、泣かないで下さいよ……騎士爵の称号が廃りますよ」
「レーおじちゃん、よしよし」
二人の子供に窘められ、慰められるレメク。端から見れば情けない姿だが、今日ばかりはしょうがないかと周りの目も暖かった。
しばらくレメクと子供達は再会を喜びあっていたのだが、ふと、レメクは立ち上がるとヨシュアに視線を合わせ口を開く。
「んで、お前さんは誰だ? この子達とどういう関係なんだ」
レメクは、そう言って探るような視線をヨシュアに向ける。
だが、突然話しを振られたヨシュアは「へっ?」と、すっとぼけた声をつい出してしまった。
「へっ、じゃねえ! お前は何者なんだって聞いてんだ!!」
「ヨシュアだけど……」
「「…………」」
「名前聞いてんじゃねえよ! ……ハァー、もう良いわ。ちょっと体に聞いてくるわ」と、ヨシュアを外に連れ出そうするレメク。
「うわっ、出たよ」「レメクさんて、すぐ喧嘩しようとするよな」「そこさえなければ良い人なんだけどな」
外野がガヤガヤ言い始めると、レメクは無言で睨みを効かし、ヨシュアを連れだって酒場を出て行ってしまう。
しかし、誰も止めようとしないばかりか、野次馬にも行こうとしないあたり、この光景が日常茶飯事だという事を表していた。
「それにしてもアダム様とイブ様、よくぞご無事で」
「本当だぜ! 今日はお祝いだー!!」
そして、レメクとヨシュアの事などまるで興味が無いとばかりに、酒場の酔っ払い達はアダムとイブを取り囲み二人の無事を祝っていた。
──さて、始めるか。お前が何者か、体に聞いてやるよ」
そう言ってヨシュアを睨むレメク。酒場を出た二人は人気がない路地裏に移ると、対峙するように睨み合っていた。
と、言っても威嚇の意味で睨んでいるのはレメクだけで、ヨシュアはどうしたのこの人? という意味の視線だ。
「あのちょっと良いかな?」
「はっ?」
ヨシュアの気の抜けたような問いかけにレメクの戦意が削がれる。そして、その戦意はヨシュアが放つ言葉によって消滅してしまう。
「炎鬼族のレー君だよね? ほらっ、覚えてない? 悪魔族のヨシュア・デモンだよ! 昔良く遊んだじゃんか!」
「…………」
ヨシュアの言葉に顔をマジマジと見て目をパチクリさせるレメク。すると、レメクは思い出したかのように顔をハッとさせ、ヨシュアを指差し叫んだ。
「よっちゃんじゃねえか!!」
「そうそう、懐かしいねその呼び方。ははっ」
「いやー、人間に変装なんかしてっから分かんなかったぜ! 何やってんだよこんな所で!」
「そっちこそ、急に魔界から居なくなってどうしてたの? 心配したんだよ」
懐かしき再会に喜び合うヨシュアとレメクだが、ヨシュアの問いに「ん? ああ……それは」と、言い淀むレメク。
そんな場面に『バキバキバキバキッ!!』と、破音が酒場から上がる。
「あ? んだあれは!? ……木?」
レメクの言葉通り、酒場から伸びていたのは『木』であった。
それを見たヨシュアは、嫌な汗が額から出るのを感じる。
恐らくこの現象を引き起こしたのは『女神』じゃないかと……。




