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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
68/96

1.8.8 踏んで、投げて

「これが同じ穴の狢というやつかのう…………狐じゃが」


 目の前で次々に起こった異様な出来事。シロにしても、アオにしても、予想を超えた行動を見せていたためか、アメは驚きを通り越して、呆れてしまったようである。……なぜ皆、実力を隠しているのか、と。まぁ、それを言い始めると、アメも例外ではないのだが。

 そんな彼女の隣にいたアカネも、現状を飲み込めずにいた1人のようである。


「んとっ……んとっ……!」


 どうなるか分からない危機的状況。思いもよらぬアオの活躍。そして狼を掴んだシロ鶴の帰還……。次々と生じる出来事を前に、アカネは理解が追い付かず、彼女の思考は停止してしまったようだ。


 一方、そんな混沌とした状況を作り出していた当事者の内、鶴のシロのほうは、依然として狩ってきた獲物を足で踏みつけて押さえ込んでいた。もしも彼女が猛禽類なら、その姿は、狩ってきた獲物をどう食べようかと悩んでいるように見えたはずだが、彼女は鶴。雑食なので肉を食べないわけではないものの、狩ってきた狼をついばもうとは考えていなかったようである。

 

「狼しゃんのお頭しゃんを捕まえてきたでしゅけど……どうしましゅか?」


 その問いかけが向けられたアメは、ふむ、と考え込んでから返答した。

 

「ならば今日は犬料理か?」


「アメしゃんが食べたいっていうなら、作りましゅけど……」


「……食事として出されば仕方なく食うやもしれんが、あまり食いたいとは思えん」


 狼と自分たち狐の姿が似たような体型をしていたためか、アメはシロ鶴の問いかけに首を振った。人間に置き換えて表現するなら、ゴリラやチンパンジーを料理する、と言っているようなものだろうか。

 そんなアメの反応を見たシロ鶴は、続いてこんなことを言い始めた。


「そうでしゅか。でもそうなると困ったでしゅ……。捕まえたこの狼しゃん、どう料理しましゅかねぇ?」


「……シロよ。お主はそんなに犬料理が作りたいのか?」


「違うでしゅ。そういう意味の"料理"ではありましぇん。この狼しゃんのお頭しゃん、ここまで連れてきたは良いでしゅけど、これからどうしゅるか悩ましい、という意味でしゅ。まさか、このままここに捨て置くというわけにもいかないでしゅし……」


「別に放置でも良いと思うがのう……」


 アメはそう口にしてから、未だそこにいた3匹の狼たちの方へと視線を向けた。アメたちを襲おうとした狼たちは、自分たちのリーダーの安否を心配している――のではなく、アメたちのことを恐れている様子で、彼女が視線を向けると、3匹揃って尻尾を股に挟んだまま、ゆっくりと後退していった。それでも彼らが逃げ出そうとしなかったのは、狼としての矜持があったからか。

 そんな彼らを見て、アメはなにやら思い付いたようだ。


「……そうじゃ。この頭、あやつらに返してやれば良いのではないか?渡してやれば、喜んで運んでいくと思うぞ?」


「それは良い考えでしゅねー。じゃぁ、この狼しゃん、お返しするでしゅ」


 シロはそう言うと、翼を腕のように使って――


「ほいっ!」


ドシャァァァァッ!!


――と、物言わぬ狼を、まるでボロ雑巾でも投げるかのように、彼の手下の方へと放り投げた。

 彼としては災難だったことだろう。いつも通りの日々を送っていたら、突然空から横暴な鶴が降りてきて、訳も分からない内に袋叩きにされたあげく、まるで物のように扱われて投げられたのである。これを災難と言わずしてなんと表現できるだろうか。

 しかし、彼の災難は、そこで終わってなかった。リーダーがぞんざいに扱われたのだから、部下たちはその反撃に出て然るべきところなのだが――


「「「くぅん……」」」


――彼らは飛んできたリーダーを一瞥するだけで、それ以上の行動を起こさなかったのだ。

 彼らの関心は、今や自分たちのリーダーには向かっておらず、アメたち――より正確に言えばシロ鶴に集中していた。どうやら彼らはシロ鶴に対して、何か言いたいことがあったようである。尤も、彼らが言葉を喋ることはできないようだが……。

 すると、その内容を察したらしく、シロ鶴がこんなことを口にする。


「……ここで甘いお団子の一つでも分け与えれば、じゅーっと付いてくるんでしゅよ?しかも、熊しゃんのような危険な動物が来たら、すぐに教えてくれましゅし、守ってもくれるでしゅ。どうしてなんでしゅかねー?」


 そう言って、まるで昔のことを思い出すかのように空を見上げるシロ鶴。

 するとアメはシロ鶴に対してジト目を向けてこう口にする。


「そりゃ、お主のことを、群れの新しい主か何かじゃと思うておるからじゃろ。あと、あらかじめ言うておくが、ワシはこやつらを連れていくことに反対じゃからな?こやつらを犬として誤魔化すには些か無理があるじゃろうし……なら人目を避けて旅をするかというと、そういうわけにもいかぬからのう……」


「そうでしゅね……。昔と違って、今は夜にモフモフできる寝床が……いえ、何でもないでしゅ……」


「…………?」


「と、ともかくでしゅ。狼しゃんたちに主として見られる前に、ここを去るでしゅ。それに……なんというか嫌な予感がしましゅ……」


「「「嫌な予感?」」」


 シロ鶴は急に何を言い出すのか……。皆が首を傾げていると、シロ鶴がその続きを話し始める。


「さっき避けてきた村……狼しゃんのお頭しゃんを捕まえてきた村でしゅけど、住んでいる人間しゃんたちが、みんな倒れていたでしゅ」


「「えっ……」」

「狼たちのしわざ……ではないのじゃろうな。もしもそうなら、狼の頭を捕まえてきたお主が、嫌な予感などと口にするはずはないじゃろうし……」


「その通りでしゅ。多分、狼しゃんたちは、人間しゃんたちが倒れてしまった後でやって来たのだと思いましゅ」


「ふむ……。ならお主は、村の人間たちがなぜ倒れて――いや死んでしまったと考えておるんじゃ?」


「それはでしゅね……」

 

「「「……それは?」」」


「きっと……」


「「「……きっと?」」」

 

「……食あたりでしゅ!」キリッ


「「…………」」

「んにゅ?しょくあたり?」


「……さて、アオよ」


「そうですね……。行きましょうか」


 シロの発言を聞いてから、まるで興味を失ったかのように歩き始めるアメとアオ。その後をアカネとシロ鶴が首を傾げながら追いかけて……。一行は狼たちから逃げるように、再び歩き始めたのであった。


 まぁ、どういうわけか3匹の狼たちも付いてきたようだが。


ようやくシロちゃんの話っぽくなってきたかなぁ?

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