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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
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1.7.9 夢見心地で、のぼせて上がって

ざぶぅーーん……

   

「んまー……」


「……何じゃ?ナツよ。お主、風呂が好きなのかの?」


「んまー……」


「ふむ……。人の赤子というものは、皆、こうなのかのう……」


 好きこのんで入浴する人間の習性を思い出しながら、腕に抱いたナツについて、アメがそんな予想を立てていると……。

 先に浴槽に入っていたシロが、水面から頭だけを出して、そのままアメへとすーっと近づきながら、こう口にする。


「人それぞれだと思いましゅよ?わっちが知っている限りでは、お風呂が嫌いな赤ちゃんもいましたから。でも……ナツちゃんは、お風呂が好きなようでしゅね?」


「んまー……」


「そのようじゃのう。これならまた風呂に入るというのも、悪くないやもしれぬ……」


「……ふふっ」カタカタ


「……何じゃ?」


「いえ、何でもないでしゅ。ねー?アオしゃん?」


「そうですねー……。お風呂ってー、身体も心も洗われてー……なーんか、幸せな気分になりますよねー……」ふわー


 と、入浴前の発言とは打って変わって、まるで昇天するかのような言葉を口にしながら、実際に空中へと浮き上がり始めるアオ。夢見心地とは、まさに、この事を言うのかもしれない……。

 そんな彼女の様子を見て――


「ちょっ……ア、アオしゃん?!のぼせたなら、お風呂から出てくだしゃい!」

 

――と、やはり何か重要なことを失念しつつ、しかし必死な様子で呼び掛けるシロ。

 そのおかげか……。アオは、かろうじて身体消えて無くなる寸前で、浴槽の外に出て、どうにか事なきを得たようである。


 そんな彼女が岩の上に寝そべりながら涼み始めた様子を見て、再びシロが口を開いた。


「アオしゃんって……ホント、何者なんでしゅかね?」


「さぁの?聞いた話じゃと……高い山には人に良く似た"雪女"などという者たちが住んでおるらしいが……その親戚ではなかろうかの?」


「雪女しゃんでしゅか……。でも、なんか、違うような気がしゅるんでしゅよね……。わっちが聞いた話だと、雪女しゃんたちは、雪の化身のような人たちで、寒くないと生きていけない、と聞いていましゅけど……でもアオしゃん。さっきまで長風呂してましたし、それに食事も普通に温かいものを食べてましゅし……」


「ふむ、確かにのう……。では、いったい何者じゃろうか?少なくとも人ではなさそうじゃが……」


「たまに浮かんでましゅし……そうでしゅねぇ……」


「んまー……」


 と、湯船の中から、寝そべるアオの姿を眺める3人(?)。しかしそこに答えは見ず……。皆、不思議そうに首を傾げていたようだ。

 

 ちなみに。

 その間、アカネは何をしていたのかというと――


「ぼくは――お魚さん!」ぼふんっ


――と、依然として風呂の中を泳ぎながら、変化(へんげ)の練習をしていたようである。具体的には、大きな鮭の姿に……。

 その様子を見て、シロが一言。


「……?!ド、ドジョウしゃん!」きゅぴーん


 ……どうやら、"鶴"という生き物は、魚を見つけると、サイズに関係なく、みな"ドジョウ"だと認識してしまう習性があるようだ。



「……あれ?シロお姉ちゃん、何してるの?」


「な、何でもないでしゅ……ドジョウしゃん……くふっ!」ぷるぷる


 湯船の中を泳いでいたアカネが、再び人の姿に変わって、ふと上を見上げると……。そこでは、白と黒の色をした大きな鳥が、首を左右に降りながら、自分のことをしげしげと観察していたようである。

 そして、その首の長い鳥は、どういうわけか、小刻みに震えていたようだ。例えるなら――まるで何かを我慢するかのように。

 

 その姿を見たアカネは、最初のうち、不思議そうに首を傾げるだけだったのだが……。いつまでも震え続けているシロ鶴のことが段々と心配になってきたのか、義理の姉に向かって、こう問いかけた。

 

「……もしかしてシロお姉ちゃん、寒いの?」


「い、いや、寒くはないでしゅよ?」


「じゃぁ、どうして、鶴さんの姿に戻って震えてるの?ぼく、てっきり、お湯から出たら寒いからかなー、って思ったけど……」


「そうでしゅね……。ちゃんと身体を拭かないと確かに寒いかもしれないでしゅね。でしゅけど、わっちのこれは……まぁ、鶴特有の習性みたいなものでしゅ。アカネちゃんがお風呂の中で泳いでいるのを見ていたら、なんというか急に……頬擦りしたくなってきたでしゅ!」すりすり


「んにゅ?」


「(いやいや、本心では絶対違うことを考えておるじゃろ?それにアカネの質問に対する答えにもなっておらぬし……)」


 と、思いながらも、それを口に出さずに、なんとも表現し難い視線をシロたちへと向けるアメ。

 それから彼女は、その視線を自身の胸元へと下ろすと……。そこにいた非常食(?)に向かって、こう問いかけた。


「ナツよ?もう十分に温まったじゃろ?そろそろ湯から出ようではないか」


「んま?」


「あまり長いこと湯に浸かっておると、アオのようにのぼせてしまうぞ?あんな風にの?」


「はわー……」ぽー


「……んま」


「うむ。では上がろうかの?」


 そう言って、ナツを抱えて、風呂から上がるアメ。それから彼女は、ボフンッと狐の姿に戻ると――


ブルブルブルッ……!


――と身震いして、身体に付いた水分を弾き飛ばした。

 そのあと彼女は再び人の姿に戻ると、身震いできないナツのことを、布で拭き始める。


「お主も狐なら、一瞬で水滴が飛ばせるんじゃが……まぁ、しゃぁないかの」ふきふき


「んーまっ!」ぶるっ


「……何じゃお主?ワシの真似かの?」


「んま!」


「…………」


「んま?」


「ふ、ふん!ワシの真似をして、機嫌を取ろうとしても、何も出んぞ?」


「んまんま」ぶるぶるっ


「…………」ぽっ


「何してるんでしゅか?アメしゃん……」


「な、何でもない。ナツが()()()()とかそんなことは……あぁ、そうじゃ!こやつ、今すぐに口のなかに入れてしまいたいほど旨そうじゃ!」ちゅっ


「きゃっきゃ、きゃっきゃ!」


「……言ってることとやってることが支離滅裂でしゅけど、まぁ、そういうことにしておきましゅかね……」


 ナツを拭き上げているかと思いきや、不意に彼女の額に鼻先をこすり付け始めたアメ。そんな謎の行動をする彼女のことを横目に見ながら、シロ鶴とアカネも風呂から上がった。

 

 それから彼女たちも、身体に付いた水分を吹き飛ばし始める。シロはバッサバッサと大きく羽をばたつかせ、そしてアカネも子ギツネの姿に戻ってブルブルと身体を震わせて……。


 そして最後。なぜか水に濡れないアオは、というと――


「……なんで私、お風呂なんかに入ったんだろ……」


――岩の上でぐったりと寝そべりながら、入浴したことを後悔していたようだ。

 

 こうして彼女たちの旅における初めての入浴は、ごく一部を除き、大満足という結果で終わったのであった。


お風呂のお話を書くと、温泉に行きたくなる……。

人の性ですかね。

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