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テンキュウノアメ  作者: ルシア=A.E.
25/96

1.4.4 捕まえられなくて、食べられたくて

「「…………」」


 その無残な姿を見て、アメもナツも絶句した。まるで屠殺されたかのように、その場に羽をまき散らしながら、力無く地面に横たわる大きな鶴、シロ。そんな旅仲間の変わり果てた姿を見て、2人ともが唖然としてしまったのだ。


 だたし——


「し、シロ?!お主、晩飯はどうしたのじゃ?!」だらぁ


「んまぁ!」だらぁ


——その根底にあったのは悲しみではなく、食欲だったようだが。


 一方で。

 ぐったりとしていたシロは、もちろん死んでいたわけではなく……。アメたちの姿を見て、ぷるぷると震えながらも、その首をゆっくりともたげた。

 そして彼女は、自分がなぜ死にそうになっていたのかについて、その理由を話し始めたのである。とはいえ、非常に単純な理由だったようだが。


「お魚しゃんが……まったく獲れなかったでしゅ……」げっしょり


 彼女は、朝から晩まで川の中で魚を探していたようだが、1日かかっても、1匹たりとも獲れず……。そのうちにやって来たアメたちの姿を見て、心が完全に折れてしまったようである。

 なお、山の沢というものは、あまりに高度が上がりすぎると、魚が住んでいない場合が多い。ただ、それを、海岸線近くで長く暮らしていたシロが知っているかどうかは不明だが。


「もう……わっちはダメでしゅ……。せめてこの肉と魂は……アメしゃんと共にありたいと……わっちは思うでしゅ……。でしゅから、アメしゃん……。わっちが本当にダメになってしまう前に……わっちのことを食べてくだしゃい……。今ならまだ間に合いましゅ……」


「はぁ……。じゃから前から口うるさく言うておるじゃろ。お主のような、筋ばかりで固いだけの肉を食ろうても、腹は膨れど、欲求は満たされぬ、と。……じゃがまぁ、お主が食ろうてほしいと言うのなら、仕方ないのう。その身のすべてを、食ろうてやろう!……ナツがの」


「…………」にたぁ


「うぅっ?!」ズサッ


 ナツが浮かべた屈託のない笑み(?)から力を貰ったのか、勢いよく立ち上がるシロ鶴。


 それから彼女は、直前までの様子が嘘のようにしゃんとすると……。深く溜息を吐きつつ、荷解きを始めた。


「仕方ありましぇんねぇ……。お魚しゃん以外のものを使って、お料理をしましょうかねぇ……。はぁ……。ドジョウしゃん、食べたかったでしゅ……」げっしょり


「うむ。期待しておるぞ?材料が無いのなら、ワシらが何か捕ってくるが……」


「野菜だけでは、身体がもたないでしゅ。お魚しゃん以外で構いましぇんから、何か食べれるものがほしいでしゅね……」


「ふむ……。ナツも食えるようなものか……。そうなると、やはりアレかのう?」にやり


 アメはそう言って意味深げな笑みを浮かべると、荷物だけそこに置いて……。ナツを連れたまま、狩りへと向かったようである。

 対してシロは人の姿に戻って火を起こし……。アメが狩りを終えて戻ってくるまでの間、料理の下準備を始めることにしたようだ。


 

「……このお肉、初めて食べましゅけど、美味しいでしゅね?」もぐもぐ


「いやの?最初は鶴でも狩ってこようかと思うておったんじゃが、探してもおらんくてのう?それで仕方なく、兎を狩ってきた、というわけじゃ」もぐもぐ


「んまんま」もぐもぐ


「鶴しゃんならここにいるではないでしゅか……。というか、アメしゃん、鶴しゃんなんかに手を出したら、突かれて、逆に食べられてしまうでしゅよ?」


 と、夕闇に包まれた森の中で、ウサギの鍋を囲みながら、そんなやり取りを交わす3人。なお、言うまでもないことかもしれないが、狐も鶴も、そして人間も、雑食の動物である。


「そういえば、お主。ここに来るまでの間、山が崩れておったのを見んかったか?」


「えぇ、見ましたよ?ずーっと、遠い山の方から、何かがズルズルと移動してきた跡みたいに、倒れてしまった森の姿も見たでしゅ」


「なら、道が崩れておると、言うてくれれば良かったのじゃ。そのせいで行ったり来たりを繰り返したのじゃぞ?」


「アメしゃんならどうにかなると信じてたでしゅから、敢えて言わなかったでしゅ。でしゅが……ご所望なら、今度からは言うようにしゅるでしゅ?」


「うむ。なら頼む。最近、荷物が重くなったのか、ナツが重くなったのかは分からぬが、身体が重くて(たま)らんからのう」


「……そういえば最近、アメしゃんの身体、丸々と——」


「……お主。今日も一人で寝るのじゃな?頑張るのじゃぞ?」


「ごめんなしゃい!ごめんなしゃい!もう、丸々とか言わないでしゅ!言わないでしゅから、一緒に寝させてくだしゃい!」ぐしゅっ


 そう言って、ウサギの鍋を箸で突きつつも、泣いて懇願するシロ鶴。

 しかし、(はな)っから、シロと共に寝るつもりのなかったアメは、彼女の要求を突っぱねて……。今日もナツのことを自身の毛皮の中に抱いて、寝ることにしたようである。



 そして次の日の朝。

 この日、アメは、異様な寒さが原因で目を覚ますことになる。



次回、最終回。『ナツとシロ、冷凍食品になる』なのじゃ。

まぁ、いつも通り、冗談じゃがの?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 25/89 ・げっしょり ・「虫が付く」の下りが現実的で好き。 [気になる点] ドジョウの味 [一言] BGM「アシタカ聶記」...ミスマッチすぎましゅ(げっしょり)
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