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ストーリー 1,2

 イリョス王国とセレーネ帝国の国境線。その東端の渓谷に、一つの砦があった。外壁は所々崩れかけ、まるで廃墟のようにも見える。ただし、この砦は常に整備がなされている。……本来なら。この被害は、つい先日に行われた、たった1回の戦闘によるものだった。


「……はぁ」


 砦内の執務室で、ミリアは今日何度目になるか分からない溜息をついた。机上には、白紙の書類が山のように積まれていた。


「……37人」


 それは、前の戦いでの死者の数。そのほとんどは囮となった重装兵のものだ。元々100人も居ないこの砦にはかなりの痛手だった。


「もっと……もっと私が、上手く指示を出せていたら!」


 いつの間にか、彼女の目には涙が浮かんでいた。


「……団長、よろしいですか?」


 ドアがノックされ、ミリアは慌てて目元を拭った。


「ええ、どうぞ」


 返事をして間もなく、1人の少年が部屋に入ってきた。彼は元々戦闘兵だが、人手不足のために伝令をしていた。


「王都からの補給隊が到着しました」

「分かったわ。すぐに向かうと伝えて」

「……了解」


 そう言うと、少年は急いで部屋を出ていった。


「今は、次のことを考えなきゃ」


◇◇◇


「えっ……これだけ、ですか?」


 砦の外でミリアを出迎えたのはたった1台の馬車だった。


「何って……いつも通りだろう」


 この砦への補給は、他所と比べて非常に少ない。僻地だということもあり、届けられた物資が馬車1台分に満たないときも稀ではない。


「ですが、今回の損害の大きさは報告したはずです!」

「ああ、そういえば運ぶように言われてたのがあるな」


 兵士が合図をすると、粗末な服を着た2人組が現れた。


獣人奴隷ライカンスレイブだ。戦力の補充は上も考えてるらしい」

「これで……補充と、言えるのですか?」


 失った37人に対してたった2人。それも兎人ウェアラビット栗鼠人ウェアスクィレルの少女という、戦闘とは無縁の存在だ。その事実を前にしてミリアの声には自然と怒気が混じっていた。


「知らんよ。俺達は運ぶよう命令されただけだ」


 兵士の言葉は間違いなく正論であり、彼女は黙ることしか出来なかった。


◇◇◇


「では、新しく来た2人は後方班に配属します。ロキ、よろしく」

「了解。やっぱ戦力にはなんないか」


 後方班長のロキが肩をすくめた。


「あんな子が戦場で役に立つ方がおかしいのよ」

「そりゃそうだろうけどよ、法術隊とか」

「教えられる暇がないわ」


 魔法を習得するのは並大抵のことではない。初級魔法を覚えるのでも軽く数ヶ月はかかる。今のラスヴェート砦には訓練生を抱える余裕は一切残っていなかった。


「それもそうだ。じゃ俺はこれで。新人を割り振らなきゃならんからな」


 そう言ってロキは部屋から出て行こうとした。だが、それと同時に、伝令の少年が大慌てで部屋に入ってきた。


「団長、『ゲート』です! しかも砦の中に!」

「そんな、なんでこんな時に!」


 普段より過剰な魔力が集まると空間に揺らぎが生じる。その大きさがある程度より上になると、異なる世界と繋がってしまう。そうして出来た空間の裂け目のことを『ゲート』と呼ぶ。その中からは濃い魔力で変性した動物、すなわち『魔物』が現れる。


「この間の戦闘のせいだな。あれだけ魔法を使えばゲートの発生もおかしくない」

「とにかく、早く対処しないと。魔物は出現したの?」

「いえ、まだです」


 ごく稀ではあるが、ゲートが開いても魔物が現れないということも起こりうる。


「なら、今の内に兵を展開、ゲートを囲んで待機して」

「了解!」


 ミリアの指示が伝わって兵士達が動き出す。姿を見せない魔物を警戒し、先の戦闘で全滅した重装兵の代役として、大盾と槍を持った歩兵が前に出た。


「魔物が出てこなければいいけど……」


 ミリアは呟いたが、どうやらその期待は裏切られるらしい。兵士達が警戒を続ける中、空間が大きく歪み始めた。


「来るぞ! 気をつけろ!」


 誰かが叫ぶ。その声に反応したように、ゲートから光が溢れ出す。光が収まり、そこに立っていたのは━━━


「お前何者だ? なんでゲートから出て来たんだ!」


 兵士の声が響いた。執務室のミリアにまで届く大きな声だ。


「何、今の?」


 砦の広場に向かうミリア。彼女が見たのは、ゲートを包囲する兵士と、その中心に居る、1人の少年だった。

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