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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第十章 恐怖の森
97/319

(1)

 アリスを連れ戦場を逃れた急造の竜騎士団一行は、灰色の森の入り口に差し掛かかったところで、全騎そろっていったん馬を止めた。


 道を急いでいるとはいえ、さすがに用心はしているらしい。

 竜騎士たちは目を凝らし耳を澄まし、慎重に様子をうかがっている。


 が、森の中は静まりかえり、鳥の鳴き声一つ聞こえない。

 外から見る限り敵が潜んでいる様子もなく、平和そのものだ。


 ――特に異常はナシ。


 すぐにそう結論を出した竜騎士団は、躊躇ちゅうちょすることなく、馬を走らせ森の中に入っていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 林道は思ったよりずっと広く、普段から割とよく利用されているのか、意外ときれいに整備されていた。

 そのため竜騎士団のスピードは順調に上がり、かなりの速さで森の奥へ奥へと進んでいくことができた。


 にもかかわらず、僕は嫌な予感がしてならなかった。


 暗くよどんだ陰鬱(いんうつ)な雰囲気。

 湿っぽくかすかに臭う腐敗臭。


 この森、絶対に何かある。

 と、思っていると果たして――


 森の道のちょうど半ばあたりまで進んだところで、突然、先頭の竜騎士が馬を急減速させた。

 後に続く竜騎士たちもそれに習ってスピードを落とす。


「ユウトさん、前を見てください」

 リナが振りむいて僕にそっと囁いた。


 言われた通りにしたいがリナの体が邪魔だ。

 僕は仕方なく思い切り首を横に伸ばし、前方を見た。


 すると確かに、林道の100メートルぐらい先に二つの怪しい人影があった。

 当然相手もこちらに気付いているはずだが、道を譲る様子はまったくない。


「ユウトさん、縄を切ります」


 異様な気配を感じたのだろう、リナは腰の短刀を抜き僕の手首の縄と腰ひもを切った。

 続いて頭の後ろに手を伸ばし、猿ぐつわも外す。

 急に呼吸が楽になって、僕は大きく息を吸いふっと吐いた。


「ユウトさん、聞いて下さい」

 リナは差し迫った声で言った。

「今、私はロードラント王国のアリス王女です。そしてあなたは王女の護衛兵――いいですか? どんなことがあっても、決して私の正体をばらさないでください」


「でも!」

 僕は我慢しきれず言い返した。  

「それではリナ様の身が危険すぎます!」

 

「ですからそれでよいのです! 私はどんな覚悟もできているのですから。――ユウトさん、どうか今だけは私に従って下さい。アリス様を守るために!」


「………………」


 そこまで強く言われてしまっては仕方がない。

 現実世界と同じく、リナにはいつも敵わないのだ。


 しかしアリス本人はどうだろう?

 彼女の性格からして、リナを犠牲にして自分だけ助かるなんてことは絶対に嫌なんじゃないか?


 そう思い再度アリスの様子を伺うと――


 案の定アリスは鎧に覆われた手足をばたつかせ、抗議を始めた。 

 アリスの顔は兜のバイザーが下ろされているため見えないけれど、きっと悔し涙を流している違いない。


 が、今はリナもマティアスもアリスを徹底的に無視する方針らしい。

 アリスがどんなにあがこうとも、まったく取り合おうとしない。


「全員このままゆっくり馬を進めろ」

 マティアスが竜騎士たちに指示を出す。

「よいか? 絶対にこちらからは仕掛けるなよ」     


 マティアスはすでに、前方の二人が並々ならぬ相手であることを察知しているようだ。

 抱えていたアリスの体をひょいと持ち上げ、隣の竜騎士に渡すと、一人で前に出ていった。

 今回は自分が先頭に立って戦うつもりなのだろう。



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