(9)
残る最大の懸念は――
このまま僕が剣を収めたところで、果たしてセフィーゼたちは約束を守るだろうか?
そこだ。
セフィーゼが戦えなくとも、丘の上にはまだ二千のイーザ騎兵団が待機している。
ヘクターかセフィーゼが合図を送れば、彼らはいつでも攻撃を開始するだろう。
そうなれば、生き残ったロードラント軍は間違いなく全滅してしまう。
もちろんアリスとリナも……。
それを避けるためにも、このままセフィーゼを人質に取ってしまうべきなのか?
が、決闘が終わってから、降参した相手を捕まえるのはルール違反な気もする。
怒ったイーザ騎兵が、セフィーゼを取り戻そうと攻撃してくるかもわからない。
どうしていいか判断しかね、その場に立ち尽くしていると――
アリスの声が聞こえた。
「ユウト、何をしているんだ? 戦いは終わったのだ、早くこっちへ来て勝利を祝おう!」
ああ、やっぱりアリスは性格が良い。
お嬢様育ちならぬ王女様育ちとでも言えばいいのか、人を疑うことを知らないのだ。
僕はふっと体の力を抜いて、ショートソードを鞘に収めた。
そして、何も言わずセフィーゼに背を向ける。
アリスがセフィーゼを信じるのなら、僕も同じく彼女を信じよう。
きっと大丈夫だ。
「セフィーゼ!」
ヘクターがしゃがみ込んだセフィーゼの方へ駆け寄っていく。
二人は主従関係というより、親子のような絆で結ばれている感じだ。
一方の僕はアリスの元へ歩いて向かった。
本当は走って行こうとしたが、疲れてしまってそれはできなかった。
にしても、アリスになんて声をかけようか?
「よく戦ったね!」と、褒めてあげたいけれど、なにしろ相手は目上の王女様。
おいそれとタメ口は叩けない。
うーん、案外人を褒めるって難しいんだな……。
などと考えていると――
「ユウト、後ろだ! セフィーゼが!!」
アリスが叫んだ。
ああ、やっぱりまだ続くのか……。
僕は暗澹として後ろを振り返った。
「みんな、みんな死んじゃえ――!」
思った通り、そこには全身から凄まじい呪いのオーラを発しているセフィーゼの姿があった。
セフィーゼは、両手を天に掲げて叫ぶ。
『ミストラル――!!』
ほんの数秒で、空に例の虹色の竜巻が発生した。
セフィーゼは最後の死力を振り絞って、究極の風魔法を使おうというのだ。
血の連鎖が止まらない。
これではロードラントかイーザか、どちら側かが全員死ぬまで延々と戦い続けなければならなくなる。
いくら戦争だからといって、そんなことあっていいわけない。




