(8)
しかし、だからといって僕に無抵抗のセフィーゼは殺せない。
たとえこの地が、情け無用の、殺るか殺られるかの二者択一な異世界の戦場であったとしてもだ。
「さあ、負けたと言え!」
僕はセフィーゼに畳み掛けるよう言った。
さらにショートソードの刃先を、セフィーゼの喉元5センチ手前まで持ってきて止めた。
あとほんの少し刃を前に突き出せば、彼女は死んでしまう。
こちらが脅す側だというのに動悸がひどい。
ショートソードを持つ手はかすかに震え、額にあぶら汗が浮かんできた。
「ねえ、殺すの? わたしを殺すの?」
セフィーゼの目から涙が一気にあふれ出る。
「やだ、やめて! お願いユウト、助けて! まだ死にたくない! 死にたくないよ!!」
それでも降参はせず、ただ泣き叫ぶセフィーゼ。
まったく、今まで魔法でさんざん多くの人を殺してきたというのに、いざ自分が殺される立場になるとこのザマか。
結局、人間なんてものは――
と、命乞いをするセフィーゼを見て、僕はふと思った。
アカの他人がどんなに酷い目にあっても――たとえ死んでしまったとしても、自分に影響がない限り、へっちゃらでいられるのかもしれない。
……ちょっと上から目線すぎるかな?
確かに、あまり偉そうなことは言えない。
自分だってたぶん、その人間の例外ではないのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そしてついに――
「参りました!」
と、声が上がった。
だがそれを叫んだのはセフィーゼではなく、アリスとの戦いを中断したヘクターだった。
「我々の負けです。ですからセフィーゼの命だけは助けてやって下さい!」
どうやらヘクターも、本気で僕がセフィーゼを殺すと思ったらしい。
その点やや複雑な心境ではあったが――
とにかく勝敗は決した。
この奇妙な決闘は、アリス王女の勝利で終わったのだ。




