(7)
「駄目です!! セフィーゼ」
ヘクターが大声で叫んだ。
セフィーゼが魔法で僕を処刑しようとしているのに気が付いたのだ。
だが、もう遅い。
『エアブレード――!!!』
と、セフィーゼが魔法を唱え終わる寸前――
僕は叫んだ。
『リフレクション!!!』
瞬時に、透き通るような薄い鏡の板が多面体を形成し、僕の体をすべて囲みこんだ。
無数の鏡面に陽光が反射しきらりと光り、セフィーゼの放った虹色の風は、そこへもろにぶつかった。
「きゃあああああああーー」
1、2秒間を置いて、セフィーゼがけたたましい悲鳴を上げた。
『エアブレード』の虹色の風は、『リフレクション』の鏡の壁に当たって跳ね返り、まるで光が乱反射するかのように四方八方に拡散して跳び散った。
そしてその一部がセフィーゼに命中し、小さな体を数メートル吹き飛ばしたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『リフレクション』
鏡でできた多面体で自分の周りを取り囲み、敵の魔法を跳ね返す防御魔法。
白魔法なのに、場合によっては敵にダメージを与えることができる。
ただし効果が高い分、極めて短時間しか効力は続かない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……まさか死んでないよな。
『エアブレード』の威力は『リフレクション』に跳ね返された際、分散してかなり減少したはず。
戦う前に調べたセフィーゼのHPの数値から考えても、多少ケガを負っただけで済んだはずだ。
だが、セフィーゼは地面に倒れこんだまま、まったく動かない。
それを見て僕は急に心配になった。
『エアウィップ』の風の対流は、セフィーゼからの魔力の供給が止まり一瞬で消し飛んだ。
魔法の罠から解放された僕は、慌ててセフィーゼに駆け寄った。
「あの、大丈夫……?」
と、声をかける。
ところが――
「ユウト! よくも……よくもやってくれたわね」
セフィーゼはよろけながら立ち上がった。
頭を切ったのか、顔にたらたら血が流れている。
「絶対に許さないから!」
般若の形相で叫ぶセフィーゼは全身傷だらけで、ゼーゼーと肩で息をしている。
立っているのがやっとという感じだ。
跳ね返った『エアブレード』の破片で受けたダメージは、思ったより大きかったようだ。
少なくとも、とても戦える状態ではない。
しかしセフィーゼは諦めない。
「わ、わたしは、大陸一の風の魔法使い……あ、あんたなんかに負けないんだから」
そう言って、何かの魔法を唱えようとしている。
まだやる気なのか……。
僕はがっかりしながら、てショートソードを持ち直した。
ここで躊躇してはいけない。
きっちり決闘を終わらせるのだ。
「セフィーゼ――」
僕はセフィーゼにショートソードを突きつけた。
「ひいっ」
セフィーゼが短い悲鳴を上げる。
「もう勝負はついたんだ。素直に降参しなよ」
こんないたいけな娘に、いったい僕は何をやっているんだろう?
そう思うと、気がとがめてしょうがなかった。
「だ、誰が、降参なんか……」
恐怖のあまりセフィーゼは呂律が回らない。
頼む。
頼むから敗北を認めてくれ。
このまま時間が長引けば、アリスは必ずヘクターにやられてしまう。
捕まって人質になるか、はずみで殺されてしまうことだってあり得る。
そうなってからでは遅いのだ。




