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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第六章 風の少女
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(12)

 そしてついに、アリスがセフィーゼの面前に立った。

 ロードラント王の名代とイーザの族長――

 大きな格の違いがあるとはいえ、リーダー同士の直接対決というわけだ。


 だが、最初に口を開いたのはヘクターだった。


「アリス王女、初めてお目にかかります。私はイーザの将ヘクターと申します。そちらがセフィーゼ。私たちの(おさ)――団長です」


「自分から出て来るなんて、なかなか感心ね」

 セフィーゼが腕を組み、アリスを見下すように言った。

「にしても、ほーんと噂通りの美しさね。まるでお人形さんみたい」 


 怒り、嫉妬、憎悪に羨望(せんぼう)――

 セフィーゼの声の中には、さまざまな感情が入り混じっているように聞こえた。


 しかし、それも理解できる部分もある。

 巨大王国ロードラントの第一王女としてすべてを約束されたアリスと、吹けば飛ぶような貧しい地方部族の族長の娘にすぎないセフィーゼ――

 二人は生まれながらして、輝く太陽と青白い月のような対極の位置にいるからだ。


「さて、どうしようかしら、王女様」

 セフィーゼは楽しそうに笑って言った。

「『エアブレード』で苦しまないよう一瞬で首を切り落としてほしい? それともその綺麗な顔を少しずつ切り刻むのも悪くないかな?」


「なんだ、いきなりの処刑宣告か。ずいぶん無礼な奴だな」


 アリスは顔色一つ変えずにそう答えたが――

 見ているこっちは仰天ものだった。

 

 ありえない。

 ありえないだろう、それは!


 なにしろアリスは、イーザ族にとって今後交渉の切り札となる貴重な人質。

 そのアリスをこの場でいきなり殺してしまうなんて――


 もし仮にセフィーゼが後先考えずそのような残酷な振る舞いをすれば、この先ロードラント王国が黙っているはずがない。

 レーモンが言った通り、総力を挙げイーザ族を根絶やしにかかるに違いない。

 その時点で彼らは一巻の終わり、民族滅亡の道をたどることになる。

 

 セフィーゼはそんな悲劇的な結末を迎えても平気なのか?


 いや、それとも……。

 その程度の予想も立てられなくなるくらい、セフィーゼのアリスに対する恨みは深いということなのか?


「さあ選んでよ。わたしはどっちでもいい、あなたの無様(ぶざま)な死にざまを見られればそれで満足だから」


 セフィーゼはそう言って、また右手の指先に虹色の風を作って見せた。

 しかしアリスは特に怯える様子もない。

 僕と同じぐらいの年齢のはずなのに、すごい度胸だ。


「ふん、話し合いの余地はないということか」

 アリスの瞳が鋭く光り、腰に差した剣の柄に手を置いた。

「では、力には力で答えねばなるまい」


 ええ、これはやばい――!!


 何の話し合いもなく、しかも僕が呼ばれることなくいきなり戦闘が始まるなんて、これまた想定外だ。

 今のアリスでは、セフィーゼに絶対敵わないのに。


 焦りまくった僕は、アリスを助太刀するため慌てて前へ飛び出そうとした。


 ところが――


 それより早く、思わぬ人がアリスのセフィーゼの間に割って入った。

 すっかり癇癪(かんしゃく)を起こしたレーモンだ。


「小しゃくなガキめ!」

 レーモンはアリスを守るように剣を構え、叫んだ。

「アリス様にはこのレーモンが指一本触れさせんわ!」


「レーモン、邪魔をするな!」

 いきなりの乱入者に、アリスは怒鳴った。

「お前に交渉を任せたのは失敗だった。いいからもう引っ込んでいろ」


「アリス様! 何をおっしゃいます」


「黙れ! ここはお前の出る幕ではない!」


 そんな二人を見てセフィーゼが、ケラケラ笑う。


「ハハハ、王女と爺さん、仲間割れしちゃってる。こっけいでバカみたい」


「セフィーゼ!」

 ヘクターが苦々しげに言った。

「少し口を慎んでください。あなたはイーザの長なのですよ」


「はぁ、だから何?」

 

 と、セフィーゼは不満そうにヘクターをにらむ。

 それでもヘクターは冷静だ。


「とにかくやっとアリス王女にお目にかかれたのだから、少し話しをしてみてはどうです」


「……わかったよ」

 セフィーゼがため息をついて言った。

「でも、殺すかどうか決めんのはわたしだからね」


 その様子を見て、僕はほっと胸を撫でをろした。

 一応、ヘクターはセフィーゼのブレーキ役を果たしているのだ。

 すぐにでも出て行こうと思ったが、ここはもう少し状況を見極めてみよう。



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