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異世界最弱だけど最強のヒーラー  作者: 波崎コウ
第六章 風の少女
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(13)

「アリス王女、セフィーゼが話し合いに応じます」

 と、言いつつもヘクターは警戒を緩めない。

「ですが、まずそこにいるレーモン公に後方へ下がるように命じて下さい。すべてはそれからです」


「いいだろう。――聞いたか? レーモン。私は一度しか言わない」

 レーモンに対するアリスのその声は、氷のように冷たい。

「後ろに下がれ。そしてこれから何が起ころうと一切手を出すな! これは命令だ」


「……し、しかし」


「よく考えろ、レーモン! 今お前がここに留まれば、あの小娘は即、戦いを――あの風魔法を撃ってくる。そうすれば私もお前も無事ではすまんぞ」


「……むむむ……承知いたしました」


 アリスの言う通りだろうと思ったのだろう。

 レーモンは剣を鞘に納め、敵に背を向け僕たちの方へ歩き出した。

 が、その心中はまさに断腸の思いだったに違いない。


「結構です」

 レーモンが下がったのを見届け、ヘクターが言った。

「ではアリス王女、次にその腰の剣を捨ててください」


 このヘクターという男。

 圧倒的優位な立場にいるのにずいぶん慎重だ。

 おそらくそれは、レーモンがアリスの身を心配するのと同じような関係。

 セフィーゼに危害が加えられることを、過剰なまでに恐れているのだ。

 言いかえれば、そこがヘクターの最大の弱点でもあるわけだ。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 が、アリスは、今度はヘクターの言葉にすぐには従わなかった。


「これか」

 と、アリスは腰に差した剣の柄に触れる。

「これは神剣ルーディスと呼ばれる、我がロードラント王国に代々伝わる秘宝の剣、いわば王家の象徴だ。――この剣を持つ者はすなわち神から永遠の繁栄を約束され、また行く手を阻む敵があれば、たちどころにその者を退(しりぞ)き滅するという」


 アリスはするりとその剣を抜いた。

 白銀の刀身がまばゆい光を放つ。 


「今回の出陣に際し私が父王から賜ったものだ」


「もしかして、その剣でわたしと戦う気だったの?」

 と、セフィーゼがアリスを小バカにしたように言った。


「いや、お前の魔法の前では、たとえこの神剣ルーディスであっても無力だろう」


「ま、それはそうでしょうね」

 セフィーゼが鼻で笑う。


「セフィーゼよ」

 そこでいきなり、アリスがセフィーゼに真顔で問いかけた。


「な、なによ!」


「実はお前に一つ訊きたいことがある」


「――ちょっとお待ちなさい、アリス王女!」

 横で二人の話を聞いていたヘクターが、語気を強めた。

「何を話すにも、まずは剣を捨ててください!」


 しかし、セフィーゼは余裕を見せて言った。


「ヘクター、そんなことどうでもいいじゃない。神剣だか何だか知らないけどわたしはちっとも怖くないわ。――さあ、アリス王女、わたしに聞きたいことってなあに? 冥途の土産に質問の一つぐらい答えてあげる」


「そうか。では訊くが――お前はこの度の戦(いくさ)で私の兵士をずいぶん殺してくれたようだな?」


「まあ、ね」

 セフィーゼはそれがどうかしたの? というような目でアリスを見た。


「……その顔、どうやら何も感じていないようだな」


「そうよ」


「しかしそれは本心なのか? 心の中に別の思いもあるのではないか?」


「はあ?」


「魔法で一方的に多くの命を奪う――そのことに罪悪感はなかったのか? と尋ねているのだ」


「な、なんでそんなこと聞くのよ?」


 よほど意外な質問だったのか、セフィーゼは明らかにきょどっている。



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